「市場の独占は起きない」 さくらインターネット田中社長が語るAI業界の未来STech I Forum 2025

生成AIは産業構造をどう変えるのか。さくらインターネットと東大発スタートアップneoAIのキーパーソンが「AGI元年」をテーマに未来を語った。IT産業が転換期を迎える中、インフラとアプリ、それぞれの視点から見えた日本のAIの勝ち筋とは。

» 2025年10月31日 08時00分 公開
[村田知己ITmedia]

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 双日テックイノベーションが2025年10月21日に開催した「STech I Forum 2025」のセッション「AGI元年、AI世代の起業家が見る次の産業地図」に、さくらインターネットから田中邦裕氏(代表取締役社長 最高経営責任者)、neoAIから千葉駿介氏(代表取締役 CEO《最高経営責任者》)と寺澤滉士良氏(COO《最高執行責任者》)が登壇した。

 企業におけるAI活用をリードする2社のキーパーソンは生成AIがもたらす産業構造の変化と未来をどう捉えているのか。

AIは“ITをリプレース”する

さくらインターネット 田中邦裕氏(出典:筆者撮影)

 セッションの冒頭、田中氏は「AIによってゲームチェンジが起きる領域はどこか」という問いに対し、「シンプルに『全部』だ」と指摘。2022年頃にIT産業はピークを迎え、これからはAIがITをリプレースする時代に入ったとの見解を示した。

 「Googleの検索トラフィック減少やネット広告業界の不振がその証左だ。今後はAI機能を持たないプロダクトは売れなくなり、ITで成り立っていたビジネスは全てAIに置き換わる」と田中氏は語る。

 同社はGPUインフラ提供事業に加え、2024年8月からはオープンソースモデルをホスティングするAIプラットフォームを提供開始。セキュリティを重視する研究機関や自治体からの需要が高いという。

neoAI 千葉駿介氏(出典:筆者撮影)

 一方、アプリケーションレイヤーで事業を展開するのが、東京大学松尾研究室発のスタートアップであるneoAIだ。同社のCEOを務める千葉氏は「汎用(はんよう)的なAIを1つ作るのではなく、業務ごとに特化したエージェントを複数作り連携させるアプローチが勝ちパターンだ」と語る。

 主力製品「neoAI Chat」は、企業固有のドキュメントとAIを組み合わせ、セキュアな環境で利用できるAI基盤だ。全日本空輸(ANA)では約2000人規模で導入され、報告書作成や複雑なルール検索などに活用されているという。

neoAI 寺澤滉士良氏(出典:筆者撮影)

 同社COOの寺沢氏は今後のAIに必要な能力として、外部ツールを使いこなす能力と、過去の対話を知識として蓄積・活用する能力の2点を挙げ、技術的な進化の方向性を示した。

「市場の総取りにはならない」 “日本のAI”は世界でどう立ち回るか

 ビッグテックとの競争について問われた田中氏は、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft、Google Cloud、Oracleなどの大手クラウドベンダーとシェアを争った経験を踏まえて、「誰かが市場を総取りする世界にはならない」と指摘。

 さくらインターネットの「さくらのクラウド」はデジタル庁が募集した「ガバメントクラウド整備のためのクラウドサービス」に条件付きで認定されている。この際、田中氏は同庁に働きかけ、日本企業が準備する猶予期間を設けてもらった経験を語った。同氏は「重要なのはライバルではなく顧客を見ることだ」と述べ、自社の主体的な動きで活路を見出す重要性を強調した。

 「他社の動向で経営方針を曲げることはない。GPUチューニングで性能を10%向上させるなど、特定領域で負けない機能を作り優位性を確保する」(同氏)

 セッションの終盤では、「日本のAIの未来」がテーマとなった。各氏が示した方向性は以下の通りだ。

  • 田中氏(さくらインターネット): ブラックボックスではない、中身が分かるサービスを作りたい。米国や中国のAIを警戒する東南アジアなどに対し、日本製のAIを代替選択肢として提供することに商機がある
  • 千葉氏(neoAI): 事業部門の従業員が自らAIを開発・共有する「市民開発」が重要になる。自然言語で設定できるAIの特性を生かし、IT部門以外でも開発できるプラットフォームを提供したい
  • 寺沢氏(neoAI): AIの推論を大量に実行するフェーズではインフラ性能が重要になる。ハードウェアのチューニングで処理効率を向上させることが今後重視されるのではないか

 インフラとアプリケーション、それぞれのレイヤーを代表する新旧の起業家が語ったのは、AI時代の到来を前提とした新たなビジネスモデルだった。特定領域での優位性を磨き、顧客と向き合うことが、これからの日本企業に求められる姿勢と言えそうだ。

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