2030年には人間単独のIT業務が“消滅” Gartnerが予測するAI活用の未来AIニュースピックアップ

Gartnerは2030年までに全IT業務へAIが導入され、人間単独の作業は消滅すると予測した。AIが雇用を変革して新職を創出するとしており、AIと協働できる人材育成が重要だという。

» 2025年11月08日 09時00分 公開
[後藤大地有限会社オングス]

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 ガートナージャパン(以下、Gartner)は2025年10月28日、2030年までに全てのIT業務にAIが導入されるとの調査結果を発表した。Gartnerが2025年7月に世界のCIO(最高情報責任者)700人以上を対象に実施した調査によれば、2030年にはAIを使わずに人間が実施するIT業務は消滅し、AIを活用して人間が担う業務が75%、AI単独で遂行される業務が25%に達するとCIOが予想している。Gartnerはこの結果を踏まえ、AIの価値を最大化するためには「AIの準備」と「人間の準備」の双方が不可欠と指摘している。

2030年までにIT業務の75%は「AI活用」になると予想

 Gartnerは、AIの導入が雇用に与える影響について、2026年末までは増減が均衡すると見ている。2036年までにAI導入によって業務が拡張・自律化し、新たなAI関連職が5億人以上創出されると予測した。この結果について、Gartnerの松本良之氏(ディスティングイッシュトバイスプレジデントアドバイザリー)は以下のようにコメントしている。

 「AI活用は雇用喪失ではなく、人間の働き方の変革を示す。CIOは特に複雑度の低い業務の人材不足を緩和し、新しい収益領域に人材を再配置すべきだ」

 AIは生産性の向上やコスト最適化をもたらすが、新たな価値を得るには従業員がAIと協働できる能力を身につける必要がある。Gartnerのアンディ・ラウゼル・ジョーンズ氏(ディスティングイッシュトバイスプレジデントアナリスト)は、「AIによる自動化の進展に伴い、要約や情報検索、基本的翻訳といったスキルの重要度は下がるが、AIを活用して人間の能力を高める新しいスキルの需要が生まれる」と指摘している。「AIツインなどの高度なシミュレーション環境が、人間の思考力や意欲、対話能力の向上に資する」とも述べた。

 Gartnerのアナリストは「スキル育成計画を単に新しいスキルの獲得に限定すべきではない」と強調している。AI依存が高まると従来の重要スキルが衰退する可能性があるため、従業員のスキル維持状況を定期的に確認し、減退を防ぐ取り組みが求められる。

 AI導入の準備は、技術的能力、コスト、ベンダー選定の3要素から評価される。技術的な能力においては検索や要約など一部のAI機能は実用段階にあるものの、AIエージェントの精度は十分ではないとし、組織が能力を正しく評価できなければ、成果が不安定となり失敗の危険があるとしている。AIの正確性を確保するプロセスの構築や自律型AIシステムの試験運用を通じ、業務再設計や新収益創出を図るべきだとした。

 コストにおいては2025年5月の調査において、CIOの74%が「AIのコストが得られる価値と同等またはそれ以上」と回答している。日本の回答者に限れば63%だ。組織はAI導入時にツール購入費だけでなく、トレーニングや変革推進費などの移行コストも考慮する必要があるという。

 ベンダー選定において、AI展開の規模や目的に応じた判断が求められている。大規模展開を計画する場合はハイパースケーラーのインフラが有効とされ、業界特化のユースケースには専門性の高いスタートアップ企業が適する。最先端の技術革新を求める場合は研究開発企業が候補となるが、エンタープライズ対応には未達の部分があるとした。同調査結果では、各国の主権を踏まえたソブリンAI政策を考慮する必要も指摘されている。

 Gartnerは、人間とAIの準備状況を4象限で示す「Gartner Positioning System」を使い、組織の現在地を評価する手法を提示している。松本氏は、「このシステムを指針とすれば、AIの価値を見いだし、獲得し、持続するための前進が可能だ。取り組みが成功すればAIは新たな衝撃をもたらし、未来の予測も容易になる可能性がある。真の価値は、組織の中核能力を高め、これまで解決できなかった課題に取り組むときに発揮される」と述べた。

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