IBMはエージェンティックAIのプラットフォーマーになり得るか。同社のようなITサービスベンダーの他、業務アプリケーションベンダーやハイパースケーラー、コンサルティング企業も競争相手となる中で、同社が明かした勝算は。日本IBMのAI戦略会見から探る。
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企業が業務システムに活用するAIは、生成AIからAIエージェント、さらにこれからマルチベンダー・マルチタスクのAIエージェントをオーケストレーションさせながら全体をマネジメントする「エージェンティックAI」に進展する。
なぜならば、AIエージェントが動き回る業務システムのアプリケーションの大半がマルチベンダー・マルチタスクだからだ。大手ITベンダーはこぞってそのプラットフォーマーの座を狙って動き出している。
こうした中で、グローバルITサービスベンダーの代表ともいえるIBMはどのような取り組みを行っているのか。その最新の動きについて日本IBMから説明があったのでエッセンスを紹介し、エージェンティックAIのプラットフォーム競争について考察したい。
「われわれがやるべきことの全てを決めるのは市場である」
日本IBMで取締役副社長執行役員 兼 CAIO(チーフAIオフィサー)を務める村田将輝氏は、同社が2026年2月10日に開いたAI戦略に関する記者説明会でこう切り出した。これは、IBM元CEOのルイス・ガースナー氏が2002年に唱えた同社の経営哲学だ。AI戦略の説明をこの言葉で始めたところに、村田氏の思い入れがうかがえる。
その上で、同氏はIBMが現在進めているビジネスの基本戦略として、クラウドとオンプレミスのハイブリッド環境を対象に全領域をカバーし(図1)、とりわけミドルウェアで差別化を図る姿勢を強く打ち出していることを説明した。なぜ、ハイブリッドなのか。「現実の世界がハイブリッドだからだ。インフラもソフトウェアもさまざまなものが使われるようになる」と同氏は強調した。
そのハイブリッド戦略における全領域で活用されているのが、AIだ。同氏は2026年のAI戦略方針として、「IT変革のためのAI」「ビジネス変革のためのAI」「統合AI基盤」の3つを推進し(図2)、「AIを拡大し、お客さまの企業価値を圧倒的に引き上げる」と力を込めた。
本稿ではIBMがエージェンティックAIのプラットフォーマーになり得るかという観点から、ビジネス変革のためのAIおよび統合AI基盤の説明で関係する内容をピックアップし、核心に迫りたい。
村田氏はビジネス変革のためのAIについて、「IBMは35%のワークフローで155種類のAIを実用化している」と述べた(図3)。
図3のポイントは、右側に描かれた「専門分野を横断するエンド・ツー・エンドのエージェント型ワークフロー」だ。同社ではこれを「ビジネスアーキテクチャ」と呼び、システムとデータのアーキテクチャを合わせた「エンタープライズアーキテクチャ」を提供する形だ。
また、エージェント型ワークフローは事前に構築されたものが既に用意されている(図4)。同氏によると、「IBMが開発したエージェント型AIのソフトウェアソリューションを160種類以上提供しており、現時点で80弱のプロジェクトを同時並行で進めている」とのことだ。ちなみに、この分野ではまだ言葉の定義が明確でないところがあるので、筆者なりの解釈で一言添えておくと「エージェント型AIのソフトウェアソリューション」とはAIエージェントのことを指すと捉えていいだろう。
次に、統合AI基盤の説明では、企業におけるAIエージェント活用の課題として「生成AIやAIエージェントが社内の部門ごとにバラバラに導入されており、全体としてAI利用の状況把握ができず、ガバナンスやセキュリティの確保、利用コストの把握が困難になるのは明らかだ」と指摘した(図5)。
こうした課題に対し、IBMが現在提供しているのが統合AI基盤だ(図6)。村田氏はその最大の特徴について、「オープンな業界標準に準拠しつつ、エンタープライズ利用基準を満たす設計にある」とし、「現在、金融、公共、製造のお客さまと先行してプロジェクトを進めている」と述べた。
この統合AI基盤がすなわち、IBMが提供するエージェンティックAIのプラットフォームにもなるわけだ。
だが、エージェンティックAIのプラットフォーマーの座はIBMのようなITサービスベンダーだけでなく、顧客規模の大きい業務アプリケーションベンダーやハイパースケーラー、コンサルティング会社などが虎視眈々と狙っている。今後、激しい勢力争いが繰り広げられる可能性が高い。
そうした中で、IBMの優位性はどこにあるのか。また、プラットフォーマーの座を獲得するためにもっと強化すべき点があるとしたらどこか。会見の質疑応答で聞いたところ、村田氏は次のように答えた。
「当社の差別化ポイントはビジネスの基本戦略でも述べたように、ハイブリッド環境で実現できることにある。ハイブリッドが現実の世界だ。お客さまの実際の利用環境に対応した統合AI環境を提供するのが、当社の役目だと考えている」
「もっと強化すべき点としては、そうしたお客さまとの統合AI環境の構築実績を重ねて、そこからまたさまざまなソリューションを生み出せるように、その実行のスピードとパワーをもっとつけたい」
実感のこもった答えが返ってきたので、「プラットフォーマーの座を獲得できる勝算はあるか」と追加でストレートに聞いたところ、「ある」とキッパリ答えた。もちろん「ない」とは言わないだろうが、その答え方と表情に注目した。
IBMがエージェンティックAIのプラットフォーマーになり得るかどうかは、他のITサービスベンダーの動きにも影響するだろう。冒頭でも述べたように、グローバルITサービスベンダーの代表ともいえるIBMが確固たる存在感を示せれば、他のITサービスベンダーもそれぞれの得意分野でプラットフォーマーとして相応の役割を果たせる可能性が高まるのではないか。一方、もしIBMが存在感を示せなければ、ITサービスベンダーの役割が小さくなるかもしれない。その意味で、IBMの今後の動向が気になるところだ。
最後にもう一言。日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏が経済同友会 代表幹事に就任した2026年1月1日付で専務から副社長に昇格した村田氏は、次期社長の有力候補と目されている。日本IBMに精通するベテラン記者によると、この件については「もはや“誰”ではなく“いつ”のモードに入っている」とか。そんな同氏にとっては、CAIOとして短期のうちにエージェンティックAIのプラットフォーマーへの道筋を明確に示したいところだ。その意味でも同社の動向に注目したい。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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