〜ECサイトのパーソナライズ化とサービスレベルの向上で   One-to-Oneマーケティングを実現!〜【特集】One-to-Oneマーケティングツール(3/5 ページ)

» 2000年12月19日 12時00分 公開
[吉田育代,@IT]

3. パーソナライゼーション最新事情〜協調フィルタリング

■嗜好性の強い商品の販売に強いNetPerceptions

ネットパーセプションズ・ジャパン 取締役 営業企画本部長 小野裕之氏

 協調フィルタリングを行う代表的なOne-To-Oneマーケティングツールに、米NetPerceptions社のNetPerceptionsがある。今は自社開発に戻したようだが、アマゾン・ドット・コムは実は同社の最初の顧客だった。Net

Perceptions Realtime Recommendation Engineという協調フィルタリングを実現するエンジンの上に、4種の製品を展開する。そのうち日本語化されているのは、パーソナライズECサイトを構築するためのNet Perceptions for E-commerce、コールセンター向けのNet Perceptions for Call Centersの2製品だ。

 Net Perceptions for E-commerceが得意とするのは、性別や年齢、職業といった属性情報ではなかなかビジネスルールを組み立てにくい、書籍やCD、ギフト用品などの嗜好性の強い小売商品だ。ネットパーセプションズ・ジャパン 取締役 営業企画本部長 小野裕之氏はNet Perceptionsの特長をこう語る。

「ジャズのCDを頻繁に買っていると常にジャズのCDが推奨されがちだが、ときには子供のためにアニメビデオを買うこともある。NetPerceptionsならそのような場合でもそのときのユーザーの行動に基づいて、リアルタイムに嗜好データベースから推奨する商品を選ぶことができる。リアルタイムであるということが最大の強みだ」


 この協調フィルタリングとリアルタイム・レコメンデーションという機能を気に入って、米国ではCD NOWBarns&Nobleなど200社を超える顧客がNetPerceptionsを利用する。日本でも、ASKULTSUTAYAが採用した。

協調フィルタリングでは、同じような嗜好をもつ者同士をグループ化し、そのグループ内のある人物がAという商品を好んでいたとすると、グループ内の別の人物もAが好みであると予想する。こういったデータが蓄積されるほど、予想は正確になっていく

 ただ、メンテナンスに人手がかからないのはいいのだが、問題は検索すべき過去のユーザーの購買履歴が少ないときである。過去に嗜好の似たユーザーがいなければ、推奨商品を提示することはできない。こういう場合は、Net Perceptionsではビジネスルールベースのパーソナライゼーションに自動的に切り替える。「協調フィルタリングが絶対と考えているわけではない」と、小野氏はいう。

 この9月には、まだ黎明期にある日本のEC市場向けにNet Perceptions for E-Commerce Lite!! 5.1Jという製品を発表した。日本で開発したものだという。特徴はターゲットを中小規模のECサイトに限って機能を絞りこんだことだ。ショッピング・バスケットの中の製品を見て推奨製品を抽出する機能、特定の商品を優先的に推奨する機能などがすでにライブラリとして用意されているため、サイトの開発期間が大きく短縮できるようだ。

■純国産のパーソナライズエンジンAwarenessNet

 東日本電信電話(以下、NTT東日本)が販売するAwarenessNetシステムもまた、協調フィルタリングベースのパーソナライゼーションを行う製品である。この種の製品には珍しい純国産パーソナライズエンジンだ。

 これはもともと、同社の研究所の研究開発プロジェクトだった。彼らはこのアプリケーションが実用に堪えるかどうかを、あるディレクトリサービスで実証実験した。AwarenessNetシステムを使用する前は、あるユーザー群がディレクトリサービスに検索をかけて目的のページにたどり着くのは、月に6.4回だった。2カ月後、そのユーザー群の行動履歴を分析して、トップページで彼らが好むであろうページを“お勧め紹介”として提示したところ、ユーザー群が目的のページへ到達する頻度は19.0回になった。実に3倍も伸びたのである。この結果を見て、NTT東日本はAwarenessNetシステムの商品化を決定したという逸話がある。

嗜好を基にグループを形成する点は協調フィルタリグと同じだが、AwarenessNetではユーザー個々のアクセス傾向を用いてより個々人の嗜好を反映した選好行動フィルタリングという手法を実現する

 ユーザーCと嗜好の似たグループを探し出して、そこで購入されて、ユーザーCがまだ購入していないものを推奨するというメカニズムはNet Perceptionsと同じだが、ユーザーが見たページの中で天気予報や新聞記事などといった嗜好に関係ないページ、いわゆるノイズの取り除き方が異なっている。NetPerceptionsではユーザーに対して購入したものを「すごく好き」「あまり好きじゃない」といった具合に評価してもらい、その評価に基づいて嗜好グループを形成する。しかし、AwarenessNetシステムではユーザーによる登録という作業を忌避して、選好行動フィルタリングという手法を用いる。

 「ユーザーから1回アクセスされたアイテム」「2回アクセスされたアイテム」という具合にすべてのアイテムについて少ない頻度順に並べていくと2カ所の屈曲点を持った曲線ができあがる。この曲線の両端は「たまたま(間違って)アクセスされたアイテム」と「だれもがアクセスするアイテム」で、それを排除した真ん中の部分が、ユーザーの嗜好性を表している領域になるらしい。NTT東日本 法人営業本部 システムサービス部 ソリューションビジネスグループ EC/SCM担当 市川裕介氏は強調する。

「AwarenessNetシステムは、選好行動学で用いられるこの統計処理手法で、ページへのアクセス以外のユーザーの関与なしに嗜好の特定を行える」


NTT東日本 法人営業本部 システムサービス部 ソリューションビジネスグループ EC/SCM担当 市川裕介氏(左)、同 乾有輔氏(右)

 連続稼働を重視して、同製品は履歴管理サーバとサービス制御サーバを分け、ユーザーの嗜好データベースをバッチ処理で更新している。この頻度は機能上最短10分間隔まで上げることができるが、ユーザーや商品アイテムが多くてデータベースが大きいときは、おのずと回数を下げざるをえない。「1日に1回の全更新、1時間に1回の差分更新が標準的な運用」と市川氏は語る。またAwarenessNetシステムは、協調フィルタリングベースのパーソナライゼーションに特化しているため、ユーザーの過去の実績の少ないECサイトには適用しにくい。同社では規模にしてユーザー1万人、商品1万アイテム以上を目安としている。

 ECサイトの販売促進という目的から開発されたOne-To-Oneマーケティングツールだが、最近はもともとの出発点であった、データマイニング分野にも利用されるようになっている。これには、現場のマネージャでも利用できる操作性のよさと分析スピードが向上していることが大きいようだ。

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