第5回 電子メール・マーケティング業界の考察 最新!e-mailマーケティング事情

 今回は最終回ということもあり、タイプ別に電子メール・マーケティングについて考察し、まとめてみました。個人的な意見が入っているところも多々あることをあらかじめご承知おきください。

» 2001年04月13日 12時00分 公開
[武田一也,BFJCコンサルティング代表]

<最終回の内容>


・電子メール・マーケティングの市場規模は?


・日本における電子メール・マーケティング・プレーヤ


・ダイレクト・マーケティング型


・ISP型


・アプリケーション型


・インフラ型


・オプト・イン型


・まとめ



電子メール・マーケティングの市場規模は?

 2001年のインターネット広告市場は電通の予測(2001年2月発表)によると約980億円とのことですが、これから先、2002年にはどれくらいの規模になっているのでしょうか? 電子メール・マーケティングだけを取り出した正確な統計値がないので、あくまでも弊社の推計ですが、1999年には10億円、2000年には40億円、2001年には80億円、2002年には120億円程度ではないかと思われます。

 この数値は「メール配信数×配信単価」によって求められたものであり、電子メール配信の仕組みやソフトウェア導入などの売り上げは含んでいません。これらを算入した場合の市場規模は3倍程度膨れ上がる可能性が高いと思います。まず、この点を頭のすみにおいて、以下の考察をお読みください。

日本における電子メール・マーケティング・プレーヤ

 現状、日本における電子メール・マーケティングは、以下のセグメントに分類されます。

  1. ダイレクト・マーケティング志向型
  2. インターネット・サービス・プロバイダ(以下、ISP)型
  3. アプリケーション型
  4. インフラ志向型
  5. オプト・イン型

 これら5つのセグメントごとに説明していきます。

ダイレクト・マーケティング型

 ダイレクト・マーケティング志向型とは電子メールのダイレクト・マーケティングにおける機能面での特徴、すなわち「インタラクティブ性」「プッシュ性」「ワン・ツー・ワンへの親和性」に着目し、これらの利点を生かすために、データベース連動電子メール配信インフラを早くから構築しているタイプです。

 具体的には「配信設定の柔軟性」「メール・コンテンツのパーソナライズ」「トラッキング・データの収集」「データベースをトリガにした自動化プログラム」「WebアプリケーションとしてのASP」などをすでに実現した電子メール配信エンジンを持っています。

 これらのプレーヤの多くはベンチャー企業であり、会社規模としては次に取り上げる(2)ISP型と比較しても小さいため、データベース連動型電子メール配信エンジンといっても、データベース/電子メールサーバ間のシステム・インテグレーションおよび資本投資といった意味では、困難が存在する可能性があります。

 配信規模は数百万通/日程度ではないかと想定されます。一方、ほとんどのプレーヤは小規模なデータベース連動型配信エンジンを自社で作り込んでいるため、配信コストは一部の同報系エンジンを利用する場合よりも安い価格設定になっています。

 これらダイレクト・マーケティング志向型の配信サービス会社は今後の成長のために、データベース連動型配信エンジンの大規模な容量アップというインフラ投資を余儀なくされるでしょう。さもなければ、電子メール・マーケターやオールド・エコノミー(従来型企業)のダイレクト・メールのような大量配信を前提にした顧客セグメントではなく、Webマスター向けの小口配信と、コンサルティングやデータベース管理という付帯収益の組み合わせという顧客セグメントに限定したニッチ戦略をとらざるを得なくなります。

 また、コストの安さは、社内での自力での作り込みを行っていることに依存していますので、大規模な配信エンジンにした場合の価格競争力には疑問があります。Webマスター向け配信サービスという面では、(2)のISP型および(3)のアプリケーション型の配信サービス供給者も営業を強化するため、これらの顧客セグメントにおける利益幅も将来的には下落すると思われます。

 配信エンジンのメンテナンスなどのためにシステムを24時間稼働させることが実質不可能であること、コンテンツおよび配信リストの鮮度の問題から、できるだけ早く電子メール配信を行う必要があること、さらにクライアント企業の電子メール配信のタイミングがボーナス時期などある一定の時期に集中しやすいことから、大手企業からの受注には少なくとも1000万通/日の配信キャパシティが必要になってくると考えられます。

 大規模な電子メール送信(SMTP)サーバやそれに関連するデータベースの構築は安く開発できるものではありません。電子メールの配信コスト自体は米国での傾向を見ても、下落するのは避けがたく、投資に伴うリスクは極めて高いと考えられます。

 なお、このセグメントおよび(2)ISP型セグメントにおいては、メール配信のASPサービス(Web経由の電子メール配信アプリケーション・サービス提供)が行われています。

 今後、電子メールを利用したマーケティングがもっと一般的になってくると、ASP形式の「多数のクライアントの使用に適した汎用インフラ」は、企業クライアントの個別要求にこたえることが難しいため、配信エンジンの価値低下は免れないと予想します。ASP型サービスにおいても各企業クライアントのニーズにマッチしたWeb アプリケーションをカスタマイズして、より多くの付加価値を実現することが必要になると思われます。

ISP型

 ISPはインターネットのトラフィックを自社のインフラに誘導するためのWebマスターへの付加価値サービスを重視しています。この中にWebマスター向けの電子メール配信インフラのアウトソーシング・サービスがあります。

 Webマスターが簡単に使用できるよう、Webアプリケーションとして完成されていますが、データベースとの連動性をもつものもあります。しかし、パーソナライズといっても、名前を挿入する程度のレベルに限られています。

 これはISP型プレーヤの競争優位はメール配信サービスにあるのではなく、それによって誘導された帯域の使用とデータ・センターというインフラ提供サービスにあり、現状では電子メール配信インフラに力を入れていないからです。

 また、ISP型プレーヤにダイレクト・マーケティングの提案力を期待することはできないでしょう。しかし、その一方では、ISP型が持つ資本力を投入し、単価の安い同報系電子メール配信市場に参入してきた場合には価格破壊者となることが考えられます。 彼らは帯域の使用において規模の利益という面では競争優位にあり、かつ信頼性のある通信事業者としてのブランドを有しているからです。

アプリケーション型

 アプリケーション型とは電子メール配信用のアプリケーション自体の販売(パッケージ・アプリケーションの場合もWebアプリケーションの場合もあります)を目標にしたタイプです。このため、データベースを含むインフラの面で、最も重要となるソフトとハードのチューニングが実質行われないことになりますので、大規模な配信エンジンにはなり得ません。

 一方、顧客情報漏洩防止などの理由で、自社に配信エンジンを置きたいというニーズのあるクライアント企業にとっては唯一のソリューションとなります。配信を代行する場合は、配信を依頼する度に、配信数には関係なく費用が発生することが一般的なので、小規模な配信が何度も発生するクライアント企業にとってもこのソリューションは有効であるといえます。

 この手のプレーヤの中には大手企業が含まれており、これらの企業がインフラ型に移行し、配信事業そのものに参入してくる可能性があります。

 パッケージ・アプリケーションはその拡張性に限界があり、既存大手企業が電子メール・マーケティングへシフトし、クライアントとなり、数十万人規模の顧客を対象とした電子メール配信が必要となった場合、対応することはできません。従って、このセグメントの顧客対象は、中小規模のリスト(最大10万件程度)を保有するクライアント企業といえます。

インフラ型

 インフラ型はすでに大規模な配信エンジンを構築している企業群で、データベース連動型の配信エンジンで拡張性(Scalability)のあるインフラを構築しているタイプと、現時点で大規模配信エンジンを必要としている「同報」系配信サービス用大規模インフラを構築しているタイプとに大別されます。

 インフラ型セグメントの企業群は、同時に技術志向の強い企業群でもあるので、電子メール・マーケティングにおけるコンサルティング領域での活動は活発ではありません。また、送信における規模を重視しているため、データベースとの連動性やトラッキングの機能がほかのものと比べると劣っているようです。

 すでに述べたとおり、電子メール・マーケティングが普及していく中で、配信能力の持つ価値は加速度的に失われていくため、このセグメントは配信エンジン容量の外部販売、あるいは技術力をテコにしたSIコンサルティングに進むと思われます。

オプト・イン型

 オプト・イン型とは、電子メール受信者にインセンティブを与えることによりオプト・インしてもらい、メール受信を許諾している人のメール・アドレスのリストを蓄積し、そのリストを活用して収益をあげるタイプです。

 電子メール・リストを持たないクライアント企業の販促活動のためにリストを貸し出して収益を得るリスト・レンタル業者と、蓄積した電子メール・リストをテスト・マーケティングの母集団として使用し、マーケティング・データを収集する企業があります。

 電子メール・アドレスのリストが未成熟な企業にとっては、前者のオプト・イン・メールのリスト・レンタルは電子メール・マーケティングを早期に立ち上げるには極めて有効であると想定されます。

 しかし、そこで集められたメール・アドレスのリストは、特定商品の販促に使用した場合、その商品に対する興味の有無という点で絞り込みがされていない母集団へのリーチとなるため、その後のオプト・アウトを招きやすくなります。従って、長期的には後者のテスト・マーケティングでの利用が一般的になると想定されます。

 米国においてはすでに電子メール・リストのレンタル市場は市況が崩れており、自社のブランドないし製品との関連性のあるリスト収集を行うことをクライアント企業に提案していくのが理想と考えられます。

まとめ

  今年から来年の前半にかけては、かなりのM&Aがこの電子メール・マーケティング業界で行われるだろうと、私は予測しています。各企業がそれぞれの強みを生かした分野をより深く、また幅広くしていくための戦略がとられることでしょう。3年後に市場に残っている電子メール・マーケティング企業は果たしてどこでしょうか?

 この「最新!電子メール・マーケティング事情」も今回で終わりです。最後までお読みいただきありがとうございました。また近いうちに違うテーマで寄稿する予定ですので、楽しみにしていてください。

著者プロフィール

武田 一也(たけだ かずや)

明治大学卒業。トステム株式会社にて営業およびマーケティングを担当。1997年8月アメリカ国際経営大学院にてMIM(国際経営学修士)取得。1997年9月よりプライス・ウォーター・ハウス・クーパース・コンサルタント(現PwCcコンサルティング)に入社、CRMチームリーダーとなる。流通業、製造業を担当。2000年10月ビッグフットジャパンにてCEO/代表取締役。2002年2月よりBFJCコンサルティング代表となる


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