〜第4回 顧客をつかむ電子メール配信システム〜 最新!e-mailマーケティング事情

» 2001年03月17日 12時00分 公開
[武田一也,BFJCコンサルティング代表]

<今回の内容>


・マーケティング・プロセスの概要を把握しよう


・せっかく収集した電子メールアドレス、管理方法には気をつけよう


・顧客プロファイルの分析、そこから何を読み取るか


・メールコンテンツを作成したら、格納用データベースも用意しよう


・顧客とコンテンツをどう組み合わせるか


・電子メールの配信能力には余裕を持たせよう


・配信の結果、何をどう分析すればいいか


・自社に合った施策を見極めよう



 この連載もこれで4回目になりました。今回は、いよいよ技術者の皆さんが興味のある電子メール配信システムについてです。

 ここで私が書くのは弊社ビッグフットジャパン株式会社のシステムの機能だけではありません。eCRMを実践し、電子メールを活用して、マーケティング・プロセスの効率化と収益の向上に貢献するシステムはこうあるべきだ、との私見であるとご理解ください。

マーケティング・プロセスの概要を把握しよう

 電子メールを活用してのeCRM戦略といっても、まず企業内部のマーケティング・プロセスの概要を把握することから始めましょう。下記に電子メール配信までのプロセスの概要を図示しました。

ALT 図1 電子メール配信プロセス

 それでは、実際にどんなシステムが関連するかを説明していきましょう。


【ここでのポイント】
まず自社の電子メールを活用したマーケティングのプロセスを理解し、電子メール配信システムを構築する際にはビジネス要件を定義すること


せっかく収集した電子メールアドレス、管理方法には気をつけよう

 あなたの会社では現在、どれくらいの数の電子メールアドレスが、マーケティングに活用できるような状態になっているでしょうか? 数千アドレス? 数万アドレス? それとも数十万以上でしょうか?

  私たちが訪問しているオールド・エコノミー企業(伝統的な企業)では電子メールアドレスを必死になって集めています。オプト・イン・メール、メール広告、店舗でのアンケート、Webでのアンケートなどを使って、せっせと収集しています。業界にもよりますが、インバウンドでのコールセンターでは電子メールを尋ねるのをオペレータに必須事項としているところもあります。これは主に生保・損保業界で行われています。

 いままで出てきた「オプト・インまたはメール広告からWebへの誘導」→「Webで電子メールアドレスを記入」であれば、Webのデータベースに電子メールアドレスやアンケート項目が残るので比較的簡単にシステムを構築できるでしょう。ここではWebページが電子メールアドレス収集の入り口として機能していたわけです。


【ここでのポイント】
メールアドレスを収集する場合、顧客との接点が複数存在しているのであれば、どのデータベースに最終的に電子メールアドレスを格納するのかをあらかじめ決めておく。特に、店舗系とEC系のデータベースを分けて設計している場合は、バッチ処理などで電子メールアドレスのデータを常に最新のものに更新しておく仕組みが必要。データを格納する前にメールアドレスの「ごみ」(いわゆる全角と半角の間違いやドメイン名の「.」が抜けているなどの単純ミス)は意外に多いので、これを修正するプログラムがあるとベター。2〜6%は不正な電子メールアドレスになる場合がある


 店舗でのアンケートによる電子メールアドレスの収集は「人的」に難易度が上がります。ここでいったん、店舗用電子メール用のデータベースなどを作成してしまうと後でWebから収集した電子メールアドレスとマージするときに苦労するのが目に見えています。

 さらに、さまざまな収集方法が混在して、収集した電子メールアドレスを管理する部門もばらばらになっていると、大変なことになります。どの電子メールアドレスに対して、どのようなメールを配信していいのかさえ分からなくなってしまいます。

顧客プロファイルの分析、そこから何を読み取るか

 顧客

プロファイルの分析とは顧客のデータ(例:性別、年齢、住んでいる地域、趣味、興味、購入商品、購入時期など)をもとに次の作業を行うことを指します。

  1. 顧客全体のばらつきや分布を観察する:電子メールアドレスごとのデータを整理、分析して、ユニークユーザーの数値(人数)をエクセルなどを使って、集計するだけでも十分です
  2. 偏りや異常値を詳しく見てみる:通常の統計学では異常値は除外してしまいますが、ここでは詳しく見てみることをお勧めします。例えば、特定の幾人かで年間の購入金額が数百万円を超えている場合は、その顧客たちは「大事な顧客」であり「よりパーソナライズタッチ」でメッセージを送った方がいいかもしれないからです

【ここでのポイント】
自社の顧客全体の分布を幾つかの軸(年齢、購入商品、購入金額など)でそこにどれくらいの人数がいるのかを見る必要がある。「偏り」や「異常値」は宝の山かも? ここを詳しく見てみることで思わぬ発見があるかも!?ここで必要なシステム要件は「電子メールアドレスと分析データ項目がきちんとひも付けられていること」で、分析用のツールとしては電子メールアドレスが少なければエクセルでも十分かもしれない


メールコンテンツを作成したら、格納用データベースも用意しよう

 メールのコンテンツ作成については特に言及することはありませんが、原稿中に機種依存文字(参考リンク:http://apex.wind.co.jp/tetsuro/izonmoji/ )を使用してはいけないという点には注意が必要でしょう。


【ここでのポイント】
コンテンツを作成したら、それを格納しておくデータベースが必要になる。特にパーソナライズメールの場合には、1回の配信で多くのコンテンツが作成され、ルールに応じてメールを組み立てることになる。コンテンツの履歴管理機能(修正履歴など)はあればプラス程度で必須ではない。運用管理のワークフローの設計(例:作成→承認依頼→承認→データベース格納など)は配信材料の間違いを削減するには有効


 ここでの問題はコンテンツを管理する仕組みが挙げられます。特にメールのコンテンツをルールによってパーソナライズして配信する場合にはコンテンツの多くが(ほとんどすべてが)データベースに格納されていることが必須になるでしょう。

 ここでいうコンテンツとは、「レターの文章」「商品の名称」「商品の価格」「商品の説明文」「商品画像のパス名」などなどです。

顧客とコンテンツをどう組み合わせるか

ALT 図2 ルール設定画面(デモ用) >画像をクリックすると拡大します

 前の顧客プロファイルの分析で得た結果をここで活用します。「ルール1ではXXを購入した顧客にZZのコンテンツを表示する」など顧客の属性情報に基づいてルールを設定します。運用者は企業のマーケターの意向を想定して、ルールの入力・設定画面のGUIは相当工夫する必要があります。

 具体的には、電子メールアドレスとそれに付随する属性すべてをルールの要素として扱えることや、扱えるデータ項目名(カラム)が画面を操作するユーザーから透過的に見えることが必要でしょう。そのデータ項目ごとに簡単な記号(<、>、=、Likeなどなど)でルールを設定できるようにする必要があります。ルール設定のための画面をご覧ください(ただしデモ用)。


【ここでのポイント】
ルール設定をするのはシステムに疎いマーケティング部門の場合が多い。だれでも使えるようなGUIの設計を心がけること。できれば、ルールごとに何人がそこに当てはまっているのかを表示する機能があれば、ルール設定を変更しながらルールごとの人数を把握し、調整することができる


電子メールの配信能力には余裕を持たせよう

 メール配信自体は単純な機能です。SMTPサーバの設定やハードウェアのチューニングにより配信数を増やすことが可能です(ただし、これはとても大変)。ちなみにビッグフットジャパンのシステムは5000〜6000万通/日の能力であり、かつルールによりダイナミックなコンテンツの差し替えを行うことができます。


【ここでのポイント】
・配信能力は「これで十分」と思う規模の最低2倍程度を目安にする
・一日中マシンが回っているわけではないことを承知しておく
・データベース連動型の配信を行うことを想定してシステムの設計を行う


 いままでの電子メール配信システムの多くは、ルールごとに配信リストを作成することで、「「擬似的なパーソナライズ」を行っていましたが、弊社の仕組みでは「1つの電子メールアドレスリストを分割することなく、ルールに応じて、表示する電子メールアドレスを入れ替えられる」点が画期的だといえます。

 メール配信時には当然のことながらリンク先のデータを取得するためにユーザーごとにユニークなIDを振ります。

配信の結果、何をどう分析すればいいか

 メール配信直後からリアルタイムでアクティビティを見られるようにすることで、配信がどれくらい完了しているか把握できます。また、エラーログを内容によって自動的に仕分けることができ、次回以降の配信時には「ごみアドレス」を修正したりできます。

 基本的な電子メール配信の結果分析の機能とは下記のものを想定しておくと大体はOKでしょう。

  1. メール形式ごと(テキスト、HTML形式)のクリック数およびクリック率
  2. エラーログの内容およびエラーになった数
  3. 電子メールアドレスごとのクリックURL、開封時間(HTMLの場合)
  4. オプトアウト数(*1)、メール転送数(*2
  5. そのほか、上記および上記以外の詳細なデータが簡単に取得できること

*1 オプトアウト数とは?
配信されたメール上で、オプトアウト(配信解除または停止)のURLをクリックし、Web上のオプトアウトボタンを実際に選択(ボタンを押した)した数のことです。電子メールアドレスごとにユニークなIDを振ることで、この数値をカウントすることが可能です。つまり、どのコンテンツにオプトアウトが多いのかを把握することができます。

*2 メール転送数とは?
配信されたメールを「友人・同僚に紹介する」というURLリンクをつけておき、Webへ誘導し、そのページから友人・同僚の電子メールアドレスを入力してもらい、転送ボタンを押してもらいます。これで転送の数値をカウントすることが可能です。つまり、いわゆる「口コミマーケティング」の数値をとりたい場合には有効な手法だといえます。メールの「実」読者数を知るにはこの数値も必要でしょう。知人からの転送であれば開封する確立も高いと思われます。

【ここでのポイント】
どんなデータを見たいのかをマーケティング部門の要求から定義しておき、可能であればWeb上でリアルタイムに経過と結果を表示。詳細なデータのダウンロード機能は必須。分析ツールはデータマイニングがあればクリックと属性から規則性を発見できる可能性がある


自社に合った施策を見極めよう

 いままで書いてきた機能を自社で開発しようとするとおそらく莫大な投資が必要になるでしょう。そればかりでなく、開発には何カ月もの時間がかかるでしょう。

 そうした点を考慮して、「配信のアウトソース」「ASP」「ソフトウェア導入」「カスタマイズ自社開発」など、自社に合った施策を見極めましょう!

著者プロフィール

武田 一也(たけだ かずや)

明治大学卒業。トステム株式会社にて営業およびマーケティングを担当。1997年8月アメリカ国際経営大学院にてMIM(国際経営学修士)取得。1997年9月よりプライス・ウォーター・ハウス・クーパース・コンサルタント(現PwCcコンサルティング)に入社、CRMチームリーダーとなる。流通業、製造業を担当。2000年10月ビッグフットジャパンにてCEO/代表取締役。2002年2月よりBFJCコンサルティング代表となる


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