第8章 インテグレーション 〜システム全体最適に必要な統合化〜eCRM実現のためのメソドロジー入門(8)(1/2 ページ)

» 2001年07月17日 12時00分 公開
[松尾順,@IT]

[1]下位システム間統合が重要なeCRMシステム

 第1章から7章までお話ししてきたことは、一言でいえば、「優良顧客を創造する仕組み」でした。主にインターネットを活用した仕組みですので、「eCRMシステム」と呼ぶことができます。

 さて、この最終章では、インテグレーション--統合の問題を取り上げます。これは、「eCRMシステム」の下位システムの一貫性をどうやって達成・維持するか、ということを中心テーマとしています。

5つの下位システムのおさらい

 ここで、eCRMシステムの5つの下位システムについて、それぞれどのような機能、インプット、アウトプットを持っているのかを振り返ってみましょう(表1)。

下位システム
機能
インプット
アウトプット
マーケティング・システム
見込み客を創造する
非顧客
見込み客
セールス・
システム
購入客を創造する
見込み客
購入客
エクスペリエンス・システム
満足客を創造する
購入客
満足客
カスタマー・ サービス・システム
優良顧客を創造する
満足客
優良顧客
析システム
顧客をグルーピングする
グルーピングされる前の顧客
グルーピングされた顧客
表1 各下位システムの機能とインプット・アウトプット


 これまでも繰り返し説明したように、それぞれの下位システムのアウトプットは次のシステムのインプットになります。ノンユーザー(非顧客)をインプットとして、マーケティング・システムを走らせた結果のアウトプットである「見込み客」は、セールス・システムのインプットになります。同様に、セールス・システムのアウトプットである「購入客」は、エクスペリエンス・システムのインプットに、エクスペリエンス・システムのアウトプットである「満足客」は、カスタマ・サービス・システムのインプットとなり、そして最後は「ロイヤルユーザー(優良顧客)」に変換されます。なお、分析システムは(前章でお話ししましたが)、それぞれの下位システムにおいて各インプットをセグメント化する機能を持っています。

取り返しのつかないリレー

 こうして流れを追ってみると、eCRMシステムとは、「優良顧客を創造する」というゴールを目指す、いわばバトンリレーのようなものといえるでしょう。第1走者は「マーケティング・システム」であり、アンカーは、「サービス・システム」というわけです。そして、次々と渡されていくバトンは「顧客」ですね。

 さて、eCRMシステムのバトンリレーで大事なことは何でしょう。それは各走者、つまり各下位システムの能力・クオリティをできるだけ同じ水準に維持するように心がけるということです。逆のいい方をすれば、どれか1つや2つの下位システムが突出して優れているだけでは駄目だということです。

 第5章の「エクスペリエンス・システム」や第6章の「カスタマ・サービス・システム」では、製品自体の機能や便益だけでなく、製品が持つイメージや付帯サービスを合わせた“トータルな利用経験”を高めることの重要性を指摘しましたが、実は、eCRMシステム全体においても同様のことがいえます。

 顧客から見れば、使ったことのない製品のTVコマーシャルやよく知らないメーカーのWebサイトを初めて見たとき、あるいは電子メールで新製品発売のメッセージを初めて受け取ったときというのは、その顧客が当該メーカーとの関係を形成していくトータルな経験の始まりです。そして、その後に続く営業マンとの交渉や製品自体の利用、サービス担当者とのやりとりといった、製品・企業とのあらゆる接触の機会が、顧客と企業との良好な関係作りに影響を与える要因となるのです。

 本物のバトンリレーでは、途中の走者が転んで遅れても、後に続く走者がなんとか挽回できる可能性があります。バトンを落としてもすぐに拾うことができます。しかし、eCRMシステムではそうはいきません。下位システムの能力・クオリティがどこか1カ所でも低いと顧客の評価を下げ、良好な関係作りに失敗する可能性があります。うまく受け損なって落とした(失った)顧客を取り戻すのは至難の業なのです。

 次に、eCRMシステムの統合の重要性を理解しない場合に陥りがちな、典型的なケースを2つご紹介しましょう。これは私自身がさまざまな企業のeCRMシステムの設計・開発をお手伝いする中で実際に見聞きしてきたことです。

まつおっち先生の“ココがポイント”

部分的に優れていても、eCRMシステムは機能しない。各下位システムの能力・クオリティを均質化させることが重要である


続いて、ありがちな問題事例と その解決策を

見てみましょう。

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