複雑なシステムや情報を統合するBPM製品には、さまざまな種類がある。その適材適所を見きわめ、最適な製品を選択しよう。
今回は、具体的なBPM製品を見ていくことにする。製品体系としては、表1にあるように「EAI系」「ビジネスプロセス設計系」「Webアプリケーションサーバ系」「アプリケーション基盤系」の4つに分けられる。
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表1 主なBPM製品 |
このうち、市場を形成してきたのはEAIとビジネスプロセス設計ツールだ。Webアプリケーションサーバは製品機能や体系を拡充する中でBPM機能を搭載してきており、アプリケーション基盤系は後発になる。ここでは以下、EAIとビジネスプロセス設計ツールに焦点を当てよう。
EAIとビジネスプロセス設計ツール、どちらもBPM製品ではあるが、得意とする適用分野は異なる。簡単にいえば、EAIはより技術レベルのソリューションであり、ビジネスプロセス設計ツールは人間系や組織改変まで含めた業務プロセスの改善に適している。
もともとEAIは「スパゲティ状になった複数の異なるシステム環境を整備し、運用負荷軽減や業務効率化を図る」という目的を持つ。メインフレームや主要パッケージなどのデータを送受信できるインターフェイスが豊富なことに加え、どのデータをどのタイミングでどのシステムに転送するかというメッセージング制御機能を備えている。さらに、こうしたメッセージング処理を業務プロセスに沿って設計できるビジネスプロセス設計モジュールも追加し、より業務視点でのシステム連携を可能にしている。
一方ビジネスプロセス設計ツールは、「業務プロセスの可視化」という意味合いが強い。IDSシェアー・ジャパンが提供する「ARIS」は「経営戦略から組織体系→業務部門内の業務プロセス→詳細プロセスというように、経営戦略をブレイクダウンしていくツール」(力正俊代表取締役社長)というように、実務担当者が現状の業務フローを改善するため、図式化するのに最適だ。もちろん単なるプロセス記述・可視化だけでなく、企業システム内のプロセス制御も司る。そのため設計したビジネスプロセスをJavaプログラムやBPELへ変換機能する備えている。例えばサヴィオン・テクノロジーの「Savvion BusinessManager」は、GUI画面にプロセスを描いている裏で、そのプロセスが自動的にJavaプログラムに変換される。そのコードをサーバにディプロイすれば新しいビジネスプロセスを即実行できるわけだ。ただし複数のシステムにまたがってビジネスプロセスを整える場合、データの整合性・統一化などの作業は必須となる。
両者に共通の“BPM”を特徴付ける機能として挙げられるのは「ビジネス・アクティビティ・モニタリング(BAM)」だ。BAMを使うことで、システムの稼働状況だけでなく、設計した業務プロセスにボトルネックが発生していないか、問題があるとすればどの個所かを把握できる。この結果を受け、再度プロセスを設計し直すことで、恒常的な業務改善が可能になるわけだ。
「ビジネスプロセスを監視する」とは具体的にどういうことか。ARISでは「ワークフローシステムなどから処理データを逐次取得し、パフォーマンスを測定することで、担当者の業務処理レベルまで考慮したプロセスパフォーマンスの把握が可能となる。「もしパフォーマンスに問題があるようなら、スタッフを増強するかプロセスそのものを見直すか、あるいは新たに業務支援システムを導入することで、パフォーマンス向上につなぐことができる」(IDSシェアー・ジャパン 力社長)。
以上、製品選択時のポイントを整理しておこう。
■EAI系:業務サイドよりむしろテクノロジ側からの課題解決に適している。具体的には、メインフレームやパッケージなど異機種環境が混在し、スパゲティ状に絡み合っている状況を1つの接続サーバに集約することで、開発工数や運用負荷の軽減が可能。ただし最近は、業務担当者も利用できるビジネスプロセス設計ツールやプロセスのパフォーマンス分析ツールなども充実しているため、IT担当者と業務担当者が共同でビジネスプロセス再構築を実現する開発スタイルも可能になった。
■ビジネスプロセス設計系:必ずしもITの導入を前提にせず、業務や組織レベルでのビジネスプロセスの見直しができる。「人」「モノ」「データ」「システム」など、直感的に把握できるアイコンを用意しており、業務担当者や経営者がプロセスを記述することも可能。また設計したプロセスは自動的にJavaなどのコードに落ちるため、業務プロセスに合わせたシステムの再構築ができる。
次に個別製品ごとの特徴を見ていこう。
Vitria:BusinessWareは、EAIベンダの中では業界に先駆けてBPMを打ち出しており、1997年に初めて製品を投入。金融・通信など、システム規模が巨大でかつミッションクリティカルが要求される業界や分野での適用事例が多い。代表的な国内ユーザーは、NTTコミュニケーションズやサントリー、日産自動車などが挙げられる。
同社の事例における最大の特徴は、大量トランザクションが発生するシステム統合を実現させていること。例えばドイツ銀行の場合、1日当たり約40億件トランザクションものトレーディング処理を管理している。また 米国の通信会社・スプリントでは、1億4000万件のトランザクションが発生するプロビジョニング業務(42システム・65プロセスモデル)を管理。システム稼働後、5年たつが1件のロスもないという。
また、製品の論理構成を5つに分け、プロジェクトに当たり「業務担当者」と「IT技術者」の役割分担を可能にしている(表2参照)。これまでのシステム連携プロジェクトでは、実務担当者が実際の開発作業に携わることはほとんどなかったが、ビトリアでは積極的に実務担当者をプロジェクトに巻き込むことで、スムーズな開発を標ぼうしているわけだ。
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表2 BusinessWareの論理構成 |
導入プロジェクトの進め方としては、「まずバラバラの従来システムを非同期・疎結合で接続し、データ流通と標準化を実施してバッチ処理とリアルタイム処理のギャップを埋める。そして次にリアルタイムのシステムへとディプロイしていき、最終的には企業システム全体をオープン化できる」(ビトリア・テクノロジー ビジネス・ディベロップメント 齋藤真一ディレクター)という方法論を取っている。その際に問題となるのは、バッチ処理のレガシーシステムとオープン環境の並存だ。BusinessWareはもともと基幹業務系での適用を視野に入れており、システムの信頼性を向上させる2フェーズコミット機能や、市販のクラスタソフトへも対応済みのため、レガシー上の基幹システムを安定させたままオープン環境へ移行できる。
開発に当たってはGUIベースで進めるため、業務担当者でもビジネスプロセスの設計は可能。データ変換や接続プログラムとその展開に関しては専門のIT技術者が担当する。またビジネスプロセスの監視については、「Real Time Analyzer」がデータを取得し、実際の処理情報をモニタリングし、プロセス改善につなげられる。
シービヨンド・テクノロジー・コーポレーションが提供する「SeeBeyond ICAN Suite」(ICAN)は、企業システム全体を「システム環境」「ビジネスサービス」「ビジネスプロセス」「プレゼンテーション」という4つの層でとらえている。ICANはこの4つの層に対応する製品群から構成されている。
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表3 SeeBeyond ICAN Suiteの製品構成 単体での導入が可能だが、システム連携基盤「eGate」と、ビジネスプロセスモニタリング機能を持つ「eInsight」2製品が最小構成となる |
主力製品のシステム連携基盤「eGate」はSAP R/3やSiebel Application、各メインフレームなど主要システムに対応するコネクタを豊富にそろえているのが特徴だ。このため、例えばベネッセでは、R/3などを含む23システムの統合・連携インターフェイス500本以上を3カ月で開発するなど、開発工数の大幅削減を実現できたという。
今回、スイート製品になったことで同社が大きく打ち出しているメッセージは「サービス・オリエンテッド・アーキテクチャ(SOA)」の実現だ。SOAとは「Webサービスなどの技術を用いて個別企業アプリケーションを“サービス化”し、ビジネス要件に合わせて自由にサービスを組み替えられるアーキテクチャ」のこと。ICAN全製品を導入すれば、複数の異機種システムを最適なビジネスプロセスで統合し、運用・開発を容易にするという。
技術的な特徴を見ていくと、J2EEやXMLなどの標準技術に完全準拠し、既存資産の統合と再利用を促進する仕組みになっている。これについてシービヨンド・テクノロジー・コーポレーション 技術本部セールス・サポート部の六戸力氏は「いままでのEAIツールは標準技術に準拠しているとはいっても、実際に開発するにはやはり製品特有の技術知識が必要だった。だが、J2EEアプリケーションサーバを内包することで、Java技術者やXML技術者が本製品でシステム統合プロジェクトを行えるようになった」という。
ビジネスプロセスの設計・シミュレーション・実行・モニタリング機能を持つ。ただしEAI系のBPMツールと異なり、本製品単体でシステムのデータ変換機能やコネクタは備えていないため「ほかのEAI製品との組み合わせが必要」(宇野澤庸弘代表取締役社長)という。あくまで記述したプロセスに従って連携手順を制御するためのエンジンだ。
製品特徴として挙げられるのは「IT面だけではなく、人材登用や配置換えなどを含めたビジネスプロセスの設計ができること」(宇野澤社長)。これを実現する手段として、まずシステムだけでなく人間系の作業や処理も含めたプロセスを記述できるという機能がある。人間系の処理プロセスとシステム間のつながりを対応させることで、実際の業務担当者レベルまで落とした業務フローの設計が可能だ(画面1参照)。
本製品の特徴として、人間系作業のパフォーマンスを含めた「業務シミュレーション機能」が備わっていることが挙げられる。具体的には、記述したプロセスに基づき、時間・日・月単位でシミュレーションを実行することで、事前に業務プロセスの問題点が見えるようになる(画面2参照)。スタッフの処理能力と役割権限をあらかじめパラメータ数値として入力しておき、「実行」ボタンを押すと、一定の作業時間内に誰がどれだけの作業量をこなせるかが色表示される。赤い色が点滅しているところがボトルネック部分。これを解消するために何らかのITを導入するか、あるいは人材の配置換えや増強など、「システム的な観点からではなく、人の登用も含めた形でのビジネスプロセスの改善ができる」(宇野澤社長)という。
本製品で設計したフローは自動的にJavaのコードに変換される。ただし本製品がカバーするのはシステム連携のフロー制御まで。実際のコネクティング部分はほかのEAI製品やXMLサーバなどと連携する必要がある。製品構成は以下の通りだ。
・BizLogic−プロセスを記述・自動化・マネジメントするためのシステム
・BizPulse−記述したプロセスに基づき、システム内で発生するイベントの相関関係を制御するルールベース
・BizIntegrator−J2EE/XMLベースでほかのEAIツールに連携させ、アプリケーション統合(EAI)を実行するシステム
もともとはSAP R/3導入時のフィット&ギャップ分析のために使われることが多かったARIS。しかし最近では、青森銀行の事例で業務ポータル構築のための業務プロセス分析に使われたように、必ずしもR/3導入を前提としない一般的な業務改革プロジェクトでの適用事例が増えてきた。
本製品の特徴は、「プロセス指向型システム導入」を標ぼうしていること。プロセス指向型とは、実現したい経営戦略を基に理想とすべきビジネスプロセスを描き、必要な部分に最適なシステムを導入する手法を指す。「ITありき」ではなく、場合によっては人材の配置換えや部門の統廃合など、人間系の改革に着手することもあり得るとしている。そのため本製品は、「データ連携やシステム統合をしたい」というIT課題の解決ではなく、むしろ経営企画室や業務部門担当者によるBPR実践のために使われることが多い。記述するビジネスプロセスは、単なる処理フローレベルではなく、組織・業務・シナリオ・詳細といった形でブレイクダウンしていくことが特徴だ。製品自体も、バランスト・スコアカードの視点で業務プロセスを分析する「ARIS BSC」や、サプライチェーン実行のためのリファレンス・モデルを搭載した「ARIS Easy SCOR 」など、より経営視点でのBPMを実行できる体系になっている。ちなみに同社は業務プロセス可視化の方法論を持っており、現場の業務担当者への支援体制も整っている。
本製品は、Excelシート状に記述されたファンクションやイベントを読み込んでモデルを作ることができる。また「ARIS UML Designer」を使えば、設計したモデルをUMLダイアグラムに変換するため、その後のコーディング作業負荷も軽減できる。
最大の特徴は、システムの機能やイベント、帳票、各社員が持っている業務ノウハウなどの情報を同一リポジトリに一元管理し、さまざまな視点でのドキュメントを生成できること。これにより「システムと実際の業務を付き合わせることで、レガシーシステムの再構築プロジェクトもスムーズに進められる」(力代表取締役)という。
次回はWebアプリケーションサーバ系を中心に今回紹介できなかった製品と、国内事例を紹介する。
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