ITソリューションを説明する際、「効率的、かつ効果的な……」というフレーズがよく用いられる。しかし「効率」と「効果」では、その意味もエンドユーザーにもたらすメリットもまったく異なる。両者の違いを押さえ、どんな業務課題にはどちらが有効なのかを理解しよう
変化には2つの種類があります。
変化の種類 | 特徴 | 例 |
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連続した変化 | 予測しやすい | トレンド |
不連続な変化 | 予測しにくい | 革新や革命 |
連続した変化には一定の方向性があり、そして変化の速度も緩やかな傾向があります。日本の高度成長時代からバブル期にかけては、土地も株価もそして企業の業績も右肩上がりに成長を続けました。
これに対してバブル崩壊以降、それまでの変化とは方向性もスピードもまったく別の変化になりました。またこのような不連続な変化は技術革新によってもたらされることも多くあり、18世紀半ばからの産業革命もこれに当たるでしょうし、20世紀の情報革命もこれに該当する変化かもしれません。
連続した変化はトレンドがつかみやすく、対応するのはそれほど難しくありませんでした。しかし不連続な変化はその変化が予測しにくく、対応することが難しくなります。バブル崩壊後多くの企業が苦戦を強いられていますが、苦戦の原因はバブルの崩壊による株や土地などの資産の下落によるだけではなく、企業が不連続な変化に対応できないことも大きな要因になっていると考えられます。
進化論で有名なチャールズ・ダーウィンは「優れたものが生き残るのでなく、変化するものが生き残る」といっていますが、これは生物だけではなく企業にもいえることではないでしょうか。
革新や革命と呼ばれる不連続な変化は、予測しにくく対応も難しいというデメリットばかりではなく、変化することができるものにとってはチャンスでもあります。急激な気候変化は、それまでの強者である恐竜には驚異でしたが、体が小さく弱者であったほ乳類にとっては大きなチャンスとなりました。
現在のような変化の時代に変化に強くあることは、企業にとってもそして私たち個人にとっても非常に重要なことといえます。
「変化に強くある」ということに大きな影響力をもたらすのが“効率と効果”の違いです。効率と効果、どちらも良い結果をもたらすプラスのイメージを持った言葉です。ところで、皆さんはこの2つの言葉の違いを理解できるでしょうか?
例えば、ある自動車販売ディーラーの営業部長の年度方針が次のようなものであったとします。
A | 「今期の営業部方針は、効率的な顧客開拓により売り上げ20%増を目指す」 |
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B | 「今期の営業部方針は、効果的な顧客開拓により売り上げ20%増を目指す」 |
方針Aと方針Bの違いは何でしょうか?
これまで多くの企業の中長期計画や事業計画を見てきましたが、多くの場合“効率”と“効果”をはっきりとは区別せずに使っているようです。つまり方針Aと方針Bは同じ意味(気持ち)で使われていて、中には「……であり、効率的かつ効果的に……」のように連記しているケースもあります。皆さんの会社や部ではいかがでしょう。
しかし、ソリューションを提供する際には“効率”と“効果”をはっきり分けて認識する必要があり、この2つを混同するとユーザーとの間で大きな問題を生じさせることにもなりかねません。
「効率」とは、あることに対して使ったもの(労力や金額)と得られた結果の比率を大きくすること。
先ほどの方針A「今期の営業部方針は、効率的な顧客開拓により売り上げ20%増を目指す」を例に考えてみます。設定として、会社では見込み客100人に対して実際に成約に至る割合が10人(成約率10%)だとします。
効率的な顧客開拓→前年は月平均1万人の見込み客から1000人の成約を得ていたところ、今期は営業担当のエリア分けを再考し営業マンの移動ロスを少なくすることで月平均1万2000人の見込み客から1200人の成約を得る……というようなケースが考えられます。
「効果」とは、あることに対する効き目や得られる結果そのものを大きくすること。
先ほどの方針B「今期の営業部方針は、効果的な顧客開拓により売り上げ20%増を目指す」を例に考えてみます。設定として成約客1人当たりの平均購入金額が150万円だと仮定します。
効果的な顧客開拓→前年は成約客1人当たりの平均購入金額が150万円だったところ、奥さん用にもう1台所有するなど複数台数を所有する顧客を重点的に狙い、時間差でセカンドカーの買い替え需要も取り込むことで、成約客1人当たりの年間成約金額を180万円に増やす……というようなケースが考えられます。
効率とは「余分なことは減らしましょう」という発想で、経費の削減や人件費の削減も効率を上げる代表的な方法といえます。上の例では移動時間を減らすことで効率を上げていますが、もっと大胆な方法を取ることも可能です。「売上額を前年比横ばいで良い」と考えれば、営業マンの人数は移動効率を上げた分だけ減らすことが可能になり、人件費の削減により利益を増やすことも可能になります。
これに対して、効果は「もっと多くできないかな」という発想で、付加価値を高め価格を上げるなどの施策により、売り上げそのものを増やすなどがそれに当たります。
利益は本来、式1のように引き算なのですが、式2のように割り算の式に置き換えてみます。
割り算には次のような特徴があります。
つまり“効率”と“効果”は、式3のように分子と分母の関係にあります。
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