「効率」と「効果」の違いが分かりますか?問題発見能力を高める(3)(2/3 ページ)

» 2004年05月29日 12時00分 公開
[秋池 治@IT]

情報エキスパートには優れた問題発見能力が必要

 ソリューションを提供する際に“効率を上げること”と“効果を高めること”のどちらが顧客の要望なのか。もしこの点が食い違っているとしたら、式3で分母と分子のどちらを重視するのかが違ってしまいます。

 しかし、実際には顧客自身も効率と効果の違いが明確ではないことが多くあり、顧客に要望を聞いても答えはそこにはないかもしれません。顧客自身も気が付いていない顧客の目的を見抜くために、情報エキスパートには優れた問題発見能力が必要になります。顧客のいう症状に対処療法をするのではなく、根本的に治療するためには“効率”と“効果”を区別しはっきりと認識することが重要です。顧客の考えている(想定している)水準を超える解決策を提供することが、“ソリューション”といえるのではないでしょうか。

システムエンジニアに迫るパラダイムシフト

 変化の時代を勝ち抜いてゆくためには、常に新たな価値を提供し続けることが要求されます。新たな価値は効率化だけでは生み出せず、効果を高めるという視点が欠かせません。「コンピュータは大きな潜在能力を秘めているが、効果的に利用するのは難しい」のです。

 コンピュータに代表されるITは、これまで“電子計算機”や“処理システム”など効率を追求する分野で特に力を発揮してきました。そしていま、効果を上げるためにどのように使うかが問われています。これに伴いシステムエンジニアにも効率指向(思考)から効果指向(思考)へパラダイムシフトが迫られています。

「効率」と「効果」、どちらだろう?

 効率を追求する効率指向(思考)から、効果指向(思考)へ頭を切り替える近道はあるのでしょうか。思考方法の切り替えについて、私の経験では、理解することと自ら思考できるようになることの間には大きな壁があり、それを乗り越える近道はありませんでした。

 しかし、いつも「効率と効果、どっちかな?」と意識することでその壁を乗り越えられることも経験しています。プラクティスあるのみです。居酒屋で仲間と飲んでいるとき、酒のさかなにその居酒屋で、効果を上げるとしたらどんなことが考えられるか?

とか、客先に向かう途中のバスターミナルにある屋台のラーメン屋さんの効果は何だろう? なんて考えたりしています。あまり難しく考えず、ゲーム感覚で楽しめばよいと思います。

 では、ここで1つ事例です。

 皆さんも利用する機会があるであろう宅配便についてです。

 最近は、各社とも配達時間を指定できる“時間指定サービス”があります。通信販売で商品を購入したときなど、このサービスを利用すると、宅配の荷物を受け取るためにずっと家で待っている必要がないので便利ですね。時間指定サービスは顧客のニーズに答え、顧客満足度を上げることで他社と差別化し、付加価値をもたらす効果指向(思考)といえそうです。

 しかし、実際には宅配企業自身の効率化のためという側面も強いかもしれません。宅配サービスは、1件の配達に平均何回届け先を訪問しているのでしょうか。

■荷物を届けに行ったけれども不在だった

不在票を記入して配達先に置いてゆく

→荷物をトラックに戻しほかの配達先を回る

→不在票を見た受取主が、配送センターに再配達を依頼する

→配送センターから配送トラックに再配達を指示する

→再度配達先に荷物を届け、完了

 上記のように、受取主の不在による再配達の手間とコストは意外に掛かりそうです。

 不在率が20%だとすると、100個の荷物を届けるためには120回も配達をすることになり、その場合トラックの荷室も20%余分に占有することになります。上記の再配達の手間(コスト)に加え宅配業の重要な設備であるトラックの輸送効率をも20%低下することになります。

 ですから“時間指定サービス”は、実は宅配企業の効率を高めるための施策かもしれない。……と、頭の中でプラクティスするわけです。


 皆さんも、このように日常のちょっとした出来事を題材に、「効率」と「効果」について考えてみてください。

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