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» 2004年06月29日 12時00分 公開

特集 ビジネスから見るSOA(2):ユーザー企業が語るSOA

SOA(サービス指向アーキテクチャ)──またIT業界が3文字ワードを持ち出したという辛らつな意見もある。ここではユーザー側の方々に、SOAやサービス連携などをどのように見ているのか、話を伺った。

[岡崎勝己,@IT]

Webサービス・プロバイダの意見は──

 SOAという言葉はWebサービスと対に語られることも多い。Webサービスが登場した当初、企業間システムの自動的な連携という夢が語られた。企業間サービス利用はどのように進んでいるのだろうか。

ALT アマゾン ジャパン株式会社 Amazon Web サービス 吉松史彰氏

 Webサービスにいち早く着目し、自社サイトの機能をほかのサイトに提供したのがオンラインストア大手のアマゾンだ。同社は「Amazon.co.jp」で提供されている商品検索、在庫確認などの機能を「Amazon Webサービス」としてサービス化した。これにより、第三者が運営するWebサイトにそれらの機能を組み込むことができる。同機能を利用してAmazon.co.jpの商品を販売したサイトが、併せてAmazon.co.jp アソシエイト・プログラムを利用すると、アマゾンから紹介料が得られるというビジネス・モデルも実現されている。

 同サービスは2002年7月に米国で開始以降、いまではイギリス、ドイツ、日本でも提供されている。同サービスを利用するにあたり事前登録(無料)が必要だが、その登録件数はすでに約5万件に及ぶという。

 アマゾンにとって「Amazon Webサービス」のメリットはいうまでもなく販売チャネルの拡大だ。サイト運営者はアマゾンの豊富な商品を自社のサイトで扱え、集客の向上を見込める。データはXMLなので、自由に加工してレイアウトすることができる。

 もっともアマゾンでは、同サービスでSOAを意識しているわけではない。アマゾン ジャパンの吉松史彰氏は次のように話す。「現状で、最も多くのサイトにデータを提供するための手段がXMLでありWebサービスです。今後もお客様の要望を満たすサービスを提供できるように努力するのが私たちの仕事であり、それが結果的にSOAと呼ばれても呼ばれなくても、『Amazon Web サービス』の質や価値が変わるわけではありません」

ALT 東京三菱銀行 EC推進部門 IT事業部 開発グループ 次長 梅崎富雄氏

 東京三菱銀行も、Webサービスを用いて顧客が利用できる“サービス”を提供している。同行が2003年2月から開始した輸出信用状(L/C)のデータを顧客に提供する「輸出信用状明細案内サービス」がそれだ。L/Cとは輸入業者と取引のある銀行が輸出業者に輸入業者の信用を保証する仕組みである。

 L/Cに関するデータは、以前からエレクロトニック・バンキング(EB)によって提供していた。しかし、1.インフラとしてEB専用のネットワークが必要がある、2.プル型システムのため顧客側がシステムにアクセスして取り込む必要がある、3.全銀フォーマットによる制約があり、L/Cに関する一部のデータしか提供できなかった──という3点が顧客満足向上に向けた課題となっていた。

 その改善策として考えられたのがWebサービスを用いた“情報提供”のサービス化だ。輸出信用状明細案内サービスは、顧客からのリクエストを受けると、リアルタイムにL/Cデータをインターネット経由で送信する。送付データはXMLであるため、任意の形式に加工しやすい。顧客企業のシステムから直接、要求し自動的に情報を取り込むといったことも可能だ。要するにインターネットを介して、東京三菱銀行のシステムと顧客側システムが自動連携を容易に行うことができるわけだ。

 東京三菱銀行 EC推進部門 IT事業部開発部グループの梅崎富雄次長は、利用状況について次のように分析する。「他行がWebサービスという共通インターフェイスで同様のサービスを提供できておらず、利用企業からすると1行のためにシステム開発をすることになってしまう段階なので、それが足かせになっています。各行が出揃うという必要がありますね」

 将来的には、外国為替や金利などの情報提供サービスも視野に入れているという。梅崎氏は、「SOAというキーワードを意識して、Webサービスを始めたわけではありません。Webサービスが登場した当初、UDDIディレクトリがあってどのようなサービスがあるか、閲覧できてというような話があり、いろいろ調査しましたがすぐにワークはしないだろうなと思っていました。まずは確認できる相手との1対1のサービスから定着していくことになると思います」と指摘する。

 インターネットを介した企業間システム連携による“コンポジット・アプリケーション”は、まだその道筋も見えていないというところのようだ。では、“ビジネスプロセス”という面ではどうだろう。

ワークフローとの類似点

 SOAはシステム連携を定義する際に“粒度”として、業務やビジネスプロセスに注目する考え方だ。業務の自動化という意味で先輩格にあたる“ワークフロー”の世界は、企業をワークフロー同士の接続という試みが1995年ごろから始まっている。

ALT 神奈川工科大学 情報学部情報メディア学科 教授 速水治夫氏

 ワークフロー管理システム標準化団体WfMCの日本支部代表で神奈川工科大学情報学部情報メディア学科の速水治夫教授は1990年代、NTTの研究所への勤務した経歴を持ち、同社の国際調達サポート・システムの構築に携わった経験を持つ。速水氏は当時をこう振り返る。

 「当時はNTT内部のワークフローのシステム化のみ手掛けましたが、効率アップのために外部で使われるベンダ製ワークフローとつなぐ仕組みが必須だと痛感しました」

 そこで速水氏は、ユーザーとしての要求をまとめて、WfMCに提案。それが実ニーズとして大きく受け入れられたという。時期を同じくして提唱されたが、分散ワークフローのモデルだった。

 従来のワークフロー管理システムは、中央で管理するサーバと管理される側であるクライアントで構成され、その役割も固定されていた。分散ワークフローは、個々の仕事を実行する複数の実行主体と処理全体の流れの制御を行う制御主体からなり、下位プロセスの制御主体が上位プロセスの実行主体にもなるモデルだ。

 「企業間連携では内部プロセスを明かすことができないため、階層的定義が必要です。まず相互連携部分を記述して、各組織が内部プロセスを追加していきます」(速水氏)というのは、SOAに類似したアプローチともいえるが、それは業務を中心に考えた際の必然といえないだろうか。SOAはサービス指向の“アーキテクチャ”だが、速水氏は、「ワークフローはアプリケーションのアークテクチャへと進化したといえると考えています」と語る。

視点は、“システム開発”から“ビジネス”へ

 ワークフローはもともと社内業務の自動化を目指すソリューションだが近年、ワークフローツールの多くが、BPMツールを名乗るようになってきている。なぜ、いまBPMなのか。

ALT 清水建設 情報システム部 課長 安井昌男氏

 Javaによるシステムのコンポーネント化に関して先進ユーザー企業として知られる建設業界最大手・清水建設では、開発ノウハウの蓄積が進むにつれ、コンポーネントによる開発の目的の変化を感じているという。同社情報システム部の安井昌男課長は次のように説明する。

 「従来は、再利用性など個別のアプリケーション・システム開発における効率化にフォーカスを当てていました。この点については、開発ノウハウの蓄積やインフラ側の発達などにより進化を実感できる状況になっています。対して現在は、個別のアプリケーションという視点だけではなく、企業内のシステム全体へと視点のアングルが広くなってきているように思います。その結果、今度はビジネス上の観点、すなわち『顧客に商品を提供する』というビジネスプロセスという視点から、何と何をつなぐのか、どのようにつなぐのか、という部分にフォーカスがあたっているわけです」

 ここで改めて考えるべきなのが、情報化が企業にもたらす価値だ。企業にとって情報化とは、顧客に対して各種クオリティやスピードの向上、あるいはコストダウンなどをもたらすべきものであり、顧客に対する価値を生まない情報化に何の意味もない。

 「従来、基幹系と呼ばれていた業務は企業間に差はほとんどなく、差別化要因にはなりません。ビジネスは顧客ありきであり、企業は顧客に、より高い価値を提供することが求められます。そのためには、社内のビジネスプロセス全体を俯かんしてとらえる必要があります。そして、サービスという単位で各業務の結び付きをどうするのかを、考えていくことになります。また、業務の変更とシステムの変更とを結び付けて考えられるようにもならなければなりません。SOAには、このような点を期待しているわけです」(安井氏)

 同社がSOAに興味を示している理由は、コア・ビジネスプロセスに関わる新システムを構築した場合、業務の変更を伴うケースが多いことを経験上、実感しているからだという。といっても一朝一夕に、全社システムがSOAに基づいたものとなるわけではない。まずは、業務フローや業務構造の分析・設計・シミュレーションを通じ、業務のどの部分を自動化すれば、顧客にどのような価値をもたらすのか、という点を正確に把握しなければならない。この意味で「今後はビジネスモデリングへ一層注力したい」という。

ALT 東京三菱銀行 EC推進部門 IT事業部 事業第二グループ 調査役 堀内哲司氏

 一方、 東京三菱銀行でユーザーの立場からシステム開発にかかわる堀内哲司氏は、次のように指摘する。「以前であれば、実際のモノ作り以前に開発言語やプロトコルをどうするかといった調整に多くの時間を割かれていました。しかし、開発環境の整備が進み、実装のことを考えずに設計できるようになってきました」

 堀内氏は、SOAが騒がれるようになる前から、サービスの粒度に着目していたという。しかし、数年前まではツールや開発環境が追いついておらず、その発想を実践することはできなかった。しかし、いまではむしろ業務フローのデザインにより多くの時間を費やすことができるというのだ。

 「要件定義で扱う対象が変わってきたように思います。以前であれば、業務フローを見ていかにその通りシステム化するかが課題でしたが、いまは業務フローそのものについてそれでいいのかという話ができるようなってきました。一段上から俯かんしているような感じです」(堀内氏)。

 開発効率という面でも、フレームワークやクラスライブラリの整備が進み、あるいは自分が作ったコンポーネントでも閉じた環境に限らず、再利用できる局面が増えてきたという。このような変化が、SOA的な発想を生んでいるというのが堀内氏の考えだ。

 「大規模なシステムではまだ難しいのですが、中小規模のシステムであれば実装を意識しないで業務の流れをこうしたいという絵を書いたら、それをシステム化できる環境が整ってきたのではないでしょうか。開発が簡単になるとはいいませんが、フォーカスされてくるところが、よりビジネス寄りになってくると思います」

 つまり、BPMやEAI、アプリケーションサーバといったインテグレーションテクノロジの進化に限らず、開発環境やその利用ノウハウが、ようやくビジネス側の要求に追いついてきた──。それが「新しい概念ではない」とされるSOAがいま語られるようになってきた背景にあるようだ。

profile

岡崎 勝己(おかざき かつみ)

通信業界向け情報誌の編集記者、IT情報誌などの編集を経てフリーに。ユーザーサイドから見た情報システムの意義を念頭に取材活動に従事。他方、情報システムうんぬんは抜きに、面白ければ何でもやる一面も。


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