因果関係を知り、未来を予測する極意とは?──拍子を知れば負けることなし情報活用経営とビジネスインテリジェンス(5)(2/2 ページ)

» 2004年09月23日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]
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データマイニングに見る武蔵の求めた心眼の極意

 データマイニングには過去の売り上げ実績から将来の売り上げ動向を予測する「推定」や、サンプル品から製品全体の品質レベルを推測するといったように限られた情報から全体像を推測する「検定」など、さまざまな武蔵流の心眼を実現するための個々の統計学的分析手法などが存在する。

 その中でもクラスター分析は、すでにインターネット上でビジネスを展開する先進企業にとっては“常識”ともいえるものになってしまった感すらある。クラスター分析の考え方は、似ているもの同士をグループ(クラスター)に分類し、対象(市場や顧客など)を分類しよういうもの。マーケティングでは、顧客セグメンテーションなどに使われる。

 まず顧客データベースに格納された個人データをし好や趣味、行動などによって似たグループに分ける(クラスタリング)。そして、このグループに長く存在する顧客の購買動向から、同じグループに属する顧客が次に買い求めるだろう商品を知るのである。

 もし、顧客のグループ化が正しければ、既存顧客グループと同じ特性を持つ新規顧客は、恐らくそのグループのベテランと同じ行動をたどっていくことだろう。ゴルフや魚釣りの初心者が熟練するとともに、ベテランと同じ道具を買い求めるようになるのと同じである。

 アマゾン・ドットコムやアスクルといった企業の電子店舗では、クラスター分析で得た情報を基に、その顧客が属するグループの既存客が買い求めていて、まだその顧客が購入していない商品を自動的に探し出してリコメンデーション(推薦)情報を生成する。

 その結果、顧客がそのWebサイトを訪れた際に画面に表示されるのは、自分の好みや要求に近い商品だということになるのである。

静かに物音を聞く

 剣豪は戦いにおいて、しばしば敵の動きを察知するために目を閉じて耳を澄ます。企業競争においても“心眼”は応用できる。自分たちに都合のよい情報をいくらデータベースに蓄積しても目の前の事実を見誤るだけである。普段はあまり気にすることのない顧客の声や取引先の声に静かに耳を傾けてみてはどうだろうか。

 前月の売り上げ集計を見るよりも、昨日の顧客からの注文の有無や要望に耳を傾けよう。購買間隔が長くなってきているのは顧客からのアラームである。苦情は顧客の期待の表れである。大切な情報をしっかりとキャッチできているだろうか。何がこの先売り上げを伸ばしそうかについて知りたいのであれば、既存顧客に聞いてみることが一番だ。

 優れた企業は顧客満足度アンケートやフォーカスグループ調査(複数の顧客とのヒアリング調査)をきちんとやっている。データマイニングの華やかな部分だけに目を奪われてはいけない。データマイニングで成功している企業は、地道な情報収集活動を展開していることを忘れてはいけない。

風が吹けば桶(おけ)屋がもうかる

 世の中のあらゆる事柄には何らかの因果関係が存在する。受注の多品種小ロット化は取引先の営業戦略に関係があるかもしれない。仕入部材の品質悪化は過度な値引き圧力が影響している可能性がある。客先の部長の機嫌が悪いのは昨日のゴルフの成績が悪かったからではないだろうか。優秀な営業担当者はデータマイニングを知らなくてもちゃんと因果関係を推測して次の一手を考えているはずである。

 どこの会社にも「風が吹けば桶屋がもうかる」に似た方程式が存在する可能性がある。問題はそれを探索しようとしないことである。インターネットやSFAが本当に営業力強化につながっていくのか、値引きがどこまで販売力につながっているのか、根性型営業のやり方がどこまで効果的なのか──、何となくそうなのだろうと思っていることは少なくない。科学的な理論より現場の経験だとか、現場の経験より科学的な理論だとかいい争っているのはやめて、現場の経験を科学的な理論によってモデル化してみればいいのだ。

 共分散構造分析ツールのAMOS(エス・ピー・エス・エス)はまさに「風が吹けば桶屋がもうかる」のような因果関係を探し出すためのツールである。日本が米国にマネジメント分野において後れを取ったのは科学的な理論と現場の経験とを融合させることができなかったことに尽きる。

ALT 画面 共分散構造分析ツール「AMOS」(エス・ピー・エス・エス)

目の前の変化を認めるということ

 武蔵がいう未来を予言する方法は実は非常に簡単なことで、しかも誰にでもできることだ。目の前に事実として存在する出来事を感じたとおりに理解しなさいということである。人は誰でも自分にとって不都合なことを認めようとしない。

 ベストセラーになった『チーズはどこに行った』(スペンサー・ジョンソン著、門田美鈴訳、扶桑社)という本の中で、チーズがある日こつぜんと消えてしまったとき、ネズミたちはすぐに新しいチーズを探しに迷路に出かけるのに対して、小人の方は目の前の事実を認めることができずに途方に暮れてしまう。

 目の前の変化を認めて変化に応じた最適な行動を取ること、それが武蔵流でありネズミが示した知恵である。目の前にある変化こそ、これから起きることを予期している情報であり、そのとおりに素直に受け取ることができればよいのだ。このことは仏教でも釈迦が真理としてはるか昔に私たちのために伝えている。

 世の中の出来事には必ず因果関係が存在する。目の前で起きている出来事について地道に情報収集することによって、出来事と出来事との間にある因果関係をわれわれは学習することができる。そして、この先起きるかもしれないリスクとチャンスを予測することができるのである。

profile

杉浦 司(すぎうら つかさ)

立命館大学経済学部、法学部卒業、関西学院大学大学院商学研究科修了。京都府警察本部、大和総研を経て杉浦システムコンサルティング,Inc設立。情報システム(ERP・SCM)、ITマーケティング(CRM、データマイニング)、情報セキュリティ(ISMS、プライバシーマーク)をテーマとするシステムコンサルティングを展開。著書に『よくわかるITマネジメント』(日本実業出版社)、『データサイエンス入門』(日本実業出版社)他多数。システムアナリスト、システム監査技術者、アプリケーションエンジニア、ネットワークスペシャリスト、データベーススペシャリスト

杉浦システムコンサルティング,Inc

http://www.sugi-sc.com/


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