ユーザー系の資格として認知されてきた上級アドミニストレータ。実際に社内でどのような仕事を担当し、IT化においてどのような役割を担っているのだろうか
企業のIT化を成功させるポイントは“人”にあるといわれている。いくら最新技術や製品を導入しても、業務や経営に何らかのプラスにならなければ意味がない。「どうすればITが経営に貢献できるか」――こうしたことを考えるのは、現場の業務に精通し、また経営的な角度で物事をふかんできる人材が必要になる。さらにいえば、事前の企画立案や技術の選定のほか、実際のプロジェクトの推進、そして運用に至るまで全般を率いることが望ましい。
こうした人材像に当てはまるのが上級システムアドミニストレータ(以下上級シスアド)だ。独立行政法人情報処理推進機構によると、上級シスアドを「利用者側において、業務の中でどのように情報技術を活用すべきかについて判断するために必要な知識・技能をもち、情報化リーダとして業務改革・改善を推進する者」と定義している。1996年10月より始まった「上級システムアドミニストレータ試験」は、業務のIT化に必要な知識や技能が身に付いているかを確認する資格試験だ。これに合格すると、「上級シスアド」として認定される。国家のIT関連資格試験を「開発系」と「ユーザー系」の2つに分けると、上級システムアドミニストレータ試験は後者に属する。ユーザー系の資格試験では最高峰だ。
この試験に合格するのは決してたやすくはない。これまでの受験者総数3万9203名のうち、合格したのはその7.6%に当たる2992名だ。出題範囲も、シスアドとしての基本知識を問うものから、最新の経営手法やITキーワードについて、または業務改革プロジェクトの意義を問う論述問題など、非常に幅広いものになっている。逆にいえば、これだけ幅広い知識や経験を持っていないと上級シスアドと認められないのだ。
とはいえ、企業の中で上級シスアドがどのような役割を担っているかはあまり知られていない。実際の上級シスアドは企業の中でどのような位置付けにあり、IT化に当たってどのような役割を果たしているのか。
そもそも上級シスアドとはどのような職種に従事しているのか。
全国の上級シスアドの交流を支援し、研修や勉強会を主催している「上級システムアドミニストレータ連絡会」会長の大日本スクリーン製造株式会社 半導体カンパニー システム部担当課長の吉野彰一氏は次のように語る。「私自身、もともとITに興味があり、入社時に情報システム部門への配属を希望していました。ところが実際に配属されたのは設計部だったのです。社のIT化をつかさどる情報システム部門は、IT化の大枠は決めますが、実際の運用についてはおのおのの部署に任せるという方策を取っていました」。
折しも吉野氏が入社したころは、ちょうど業務にPCを使おうという動きが活発化してきたころ。これを受け、もともと情報システム部を希望していた吉野氏は部門のネットワーク作りやPCのセッティングを率先して行うようになる。そのうち、現場の業務改革を目指す中でIT化を部門内で考えなければならなくなってきた。そこで吉野氏は、全社のITを見る情報システム部とは違う位置付けで、「業務現場から」ITを企画・立案する部署に配属された。それが現在の半導体機器カンパニーにあるシステム部だ。全社ITは、会計や人事などグループ全体で管理するためのITを担当している。吉野氏はむしろ、3次元CADやPDM(Product Lifecycle Management)/PLM(Product Data Management)など、設計部門が使うためのシステムを企画・開発する役回りだ。
荏原製作所 装置事業部 計画室 副参事 飯尾泰洋氏が上級シスアド取得を目指したのも同じ理由だ。1999年に設計部門のIT化プロジェクトに参画したことをきっかけに、2001年に資格を取得。現在、3次元CADやPDM/PLMの企画・開発に従事している。
同じく鹿島建設 企画本部 経営戦略室 守屋美恵子氏も、6〜7年前に企画本部内に立ち上がったクライアント/サーバシステム導入プロジェクトに参画した経験が契機になった。「本当に下っ端で、途中から上の方々も異動になってしまったのですが、『昔、古いネットワークを組んだことがある』という上司と2人でプロジェクトを乗り切り、運用フェイズまで持っていくことができました。その後、現場の建築部に異動になったのですが、この経験を何らかの形に残しておきたいと思い、上級シスアドを取得。現在はまた企画本部に戻り、ITを含む各種企画業務を担当しています」(守屋氏)。
もともと上級シスアドの試験内容が下記の表にあるとおり、経営課題からIT化立案・運営までをカバーする内容になっており、業務部門や経営企画系の知識が要求される。この下位層に位置付けられる初級シスアド試験はSQLの構文など、むしろ技術的な知識が必要なことに比べ、上級シスアドの場合、技術に寄るのではなく経営とIT全体を見る“目”が必要になるわけだ。
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