先日、筆者が発行するオフショア開発専門メールマガジン上で、組み込み系ソフトウェア開発に関する読者アンケートを実施しました。テーマは「中国オフショア開発における組み込み系ソフトウェア開発の現状について」でした。その結果、有効回答者数の7割以上の方が「中国では組み込み系ソフトウェア開発の実施は難しい」と回答したのが印象的でした。
組み込み系ソフトウェア開発の現状について
組み込み系ソフトウェア開発と業務アプリケーション開発とシステムでは、開発環境や開発プロセスが異なるため、単純な難易度の比較は難しいかもしれません。それでも読者アンケートに協力してくれた多くの関係者は、オフショア開発と組み込み系ソフトウェア開発の相性の悪さを肌で感じているようです。
アンケート回答者の中には、筆者が設置した公開掲示板に詳細なコメントを書いてくださった方もいます。その中の一部を紹介しましょう。
組み込み系のソフト開発といっても、最近は昔と異なって、内容を分けて考えた方がよいと思います。例えば、ハード制御に近い部分と、ユーザーインターフェイスに関連する部分です。CPUの性能向上や集積度のアップ、価格の低下などにより、組み込み系の開発も、昔のようにアセンブラでの調整を要する部分は随分減ってきています。C言語で開発する部分が大半を占めるようになっているでしょう。
しかし、ハードとの絡みの部分については、デバッグにおいてターゲットのハード環境を必要とすることから、オフショアしづらい点が出てくるのだろうといえます。
問題発生時におけるハードとソフトの原因の切り分けの部分は、出しにくいでしょう。しかし、開発環境として、エミュレート環境で開発可能な部分もあります。その部分については、オフショア先に出しても問題ないところだと思います。
ミドルウェアを介在して動作する、純粋なアプリケーション部分であれば、大丈夫でしょう。ただし、最終確認では実機が必要となります。そこをどう考えるのかによるといえるでしょう。
最終的な動作環境が汎用機でない点が、組み込みが業務系と異なり難しい点だといえると思います。場合によってはICE(In-Circuit Emulator)を使う必要もありますからね。実際のところ国内でも組み込み系の技術者は不足してきているのが現状です。
そこで、ソフトを部品化して、ICEを使う必要があるような部分と、エミュレータでPCだけや、実機確認だけで何とかなる部分とを分けて、担当を変えるなど、プロジェクト上の工夫が必要となります。その辺りのノウハウを持ったブリッジSEが必要ということになるのではないでしょうか。
また、実機の貸し出しに関する機密管理の問題も、業務系とは違って出てきます。
昨年、東京都内で開催されたあるセミナーで、「中国では、昔から組み込み系ソフトウェアに関連する市場規模が大きい」という趣旨の発言がありました。興味を持って詳しく聞いてみると、地図情報システム(カーナビ)のデータ入力作業など、オフショア開発以外の仕事が膨大に含まれていることが判明しました。
後日、興味本位でインターネット上の中国への転職情報を調べてみたところ、合計18件の中国語のできるSEの求人情報を登録した日系企業を見つけました。ところが、お目当てである「組み込み」が明記された求人案件はわずか1件しかありません。
中国大手ベンダに勤務するある日本人は、「組み込み系ソフトウェアのオフショア開発はまだまだ弱いのです。だからこそ、今後発展が見込まれる分野として期待が持てます」と見解を述べています。ところが実際には、日本国内では開発スピードを優先する傾向が強いため、「リスクを冒してまでオフショア開発に挑戦することもない」と主張する企業も少なくありません。
現在、中国で先行して組み込み系ソフトウェア開発に取り組む日本会社では、ソフトウェア以外の商品の相互供給や販路の相互乗り入れ、商品の共同開発、合弁事業の立ち上げなど、会社の基本方針が先にあるようです。
組み込み系ソフトウェア開発がなかなか成功しない会社では、「仕様変更」や「開発環境うんぬん」といった現場のささいな事情は脇に追いやられ、オフショア開発の発注実績だけがクローズアップされるという企業の台所事情が見え隠れします。
最近、筆者のところでも組み込み系ソフトウェア開発に関する相談が急増しています。以前は、「組み込み系ソフトウェア開発の可能性を見極めたい」「中国の情報を収集したい」といった相談が大半でしたが、ここにきて「中国発注」を前提に、地域やベンダの絞り込みを済ませている方が目立つようになりました。
少なくとも中長期的には、中国オフショア開発における組み込み系ソフトウェアの比重が増していくのは疑いようのない事実です。
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