連載
» 2005年04月16日 12時00分 公開

オフショア開発時代の「開発コーディネータ」(8):中国オフショア開発に向く仕事、向かない仕事 (4/4)

[幸地司,アイコーチ有限会社]
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アリ地獄&スパゲティ状態

 上海の日系企業に勤める専門家によると、組み込み系ソフトウェアの開発を外部に委託する際には、ゼロから新規開発することは少なく、基本となる製品をカスタマイズするのが一般的だといいます。そして、機能向上や顧客要件の多様化に応じる形で、カスタマイズに次ぐカスタマイズが連続します。しかも、それが製品ライフサイクルの終焉まで続くため、下記のような泥沼の状態に陥ってしまいます。

「誰が作ったのか分からない不良資産を受け継がなくてはいけない」

「誰にも聞けないので、ほかの場所には手が触れられない」

「なぜ動いているのか、開発者自身でも分からない」

 こういった現象は、ほかの業務系アプリケーション開発でも発生しますが、組み込み系ソフトウェア開発では特に顕著です。

 そのため、時間がたつにつれて、特定の技術者への依存度が次第に高まってきます。長い時間をかけて、ようやく一人前の仕事ができるまでに育った中国人技術者が突然転職してしまうと、現場が一時的にパニック状態に陥ることも珍しくありません。Javaや.NETの専門家なら、中国市場にいくらでも代わりはいますが、□□社の△△△デバイスに精通した人材を調達するのはほぼ不可能だといえます。社員の定着率が低い中国ソフトウェア業界では、問題がますます深刻化しています。

組み込み系は「誰にでも」チャンスはあるというが……

 組み込み系ソフトウェア開発では、長い時間をかけて教育した人材を固定化することと、固定化されたメンバーの士気向上が重要な課題です。これらに加えて、ハード/ソフト両面の開発環境整備も成功するためには欠かせない条件です。

「わが社に限った話をすると……」

 こう切り出したのは、中国に合弁会社を持つある日系企業のマネージャです。冷静な口調で次のように続けます。

「組み込み系ソフトウェアのオフショア開発が失敗するのは、実は日本の側に主な原因があります」

 やはり、ここでもそうだったか! 説明していただいた内容は、業務系アプリケーション分野とほぼ同じような問題が発生していました。本連載では、皮肉の念を込めて日本独特のソフトウェア開発スタイルを「日本型開発アプローチ」と呼んでいます。

ALT 刀削麺の職人技

  組み込み系ソフトウェア開発の課題を考えるうえで印象に残ったのは、「中国で実施される大半の組み込み開発は、“特別にできる人材”でなくても十分に務まる」というコメントです。

 「誰にでもできる」ということは、雇い主にとってうれしい半面、技術者当人にとっては悩ましい問題です。社員1人1人に求められる技術レベルは低いのに、覚えるべき「製品固有」の知識がやたらと多い。ということは、ある会社で覚えた仕事は、よその会社では通用しないことを意味します。つまり、“つぶしの利かない技術者”を生み出す可能性があるのです。

 一方で、雇い主にとっては、一人前の組み込み系技術者を育成するコストはバカ高いというデメリットを忘れてはいけません。

 「普通の中国人技術者は情報共有の意識が低いため、この人に辞められては困るという技術者が何名もいる」。前出の日本人マネージャは悲壮の表情を浮かべます。

 では、なぜそうまでして組み込み系ソフトウェア開発の中国シフトを推進するのでしょうか。この問いに対しては、単純なコスト削減以外にも、「日本だけでは処理し切れないほどの仕事量がある」「自社の開発プロセスを改革し、真のソリューションプロバイダへと変身するためには、中国の力が欠かせない」といった回答が寄せられました。

 オフショア開発で成功する秘訣は、過去の失敗事例を反面教師とすることです。とても大切なことなので、強調しておきたいと思います。私は日ごろから「オフショア開発は新規事業である」と主張しています。会社によって、オフショア開発事業の目的や目標は千差万別であり、あらゆる企業にとってすぐに役立つ万能な成功法則(How to)は存在しません。むしろ、過去の失敗事例を学び、明らかな失敗パターンを避けることが成功への近道だと考えています。

 そして、この原則は、中国オフショア開発における組み込み系ソフトウェア開発についても当てはまります。各社とも課題は山積していますが、オフショア開発事業が目指すべき頂上(事業目標)が明確なのが、せめてもの明るい兆しではないでしょうか。目先の起伏に一喜一憂せず、強い意思と変化への対応力を持つことが何よりも大切です。

 中国に限らずとも、ソフトウェア開発のベースとなるのは、人材の有効活用です。あなたが中国オフショア開発を調査するのであれば、現状のままで外部委託をせずとも市場で勝ち残れるか、自社内で安定的に人材が供給されるかについて3年、5年、10年、20年といった視点から考えてはいかがでしょうか。

profile

幸地 司(こうち つかさ)

アイコーチ有限会社 代表取締役

沖縄生まれ。九州大学大学院修了。株式会社リコーで画像技術の研究開発に従事、中国系ベンチャー企業のコンサルティング部門マネージャ職を経て、2003年にアイコーチ有限会社を設立。日本唯一の中国オフショア開発専門コンサルタントとして、ベンダや顧客企業の戦略策定段階から中国プロジェクトに参画。技術力に裏付けられた実践指導もさることながら、言葉や文化の違いを吸収してプロジェクト全体を最適化する調整手腕にも定評あり。日刊メールマガジン「中国ビジネス入門 〜失敗しない対中交渉〜」や社長ブログの執筆を手がける傍ら、首都圏を中心にセミナー活動をこなす。

http://www.ai-coach.com/



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