運命の出会い……そして覚醒へ(第2話)目指せ!シスアドの達人(2)(2/4 ページ)

» 2005年08月03日 12時00分 公開
[山中吉明(シスアド達人倶楽部),@IT]

シスアドとしての覚醒

豊若 「君は、まず、そのツールを作って何を変えようと思ったんだ?」

坂口 「それは、経費精算をもっと簡単に速くできるようにするためです」

 椎名にもさっき同じ質問をされたなあ、と思いながら坂口は答えた。

豊若 「誰かにその目的を話したことは?」

坂口 「そういえば、ちゃんと話をしてないですね。話すタイミングを逸してる気がしています」

豊若 「新しいことを始めるときには、それ相応の準備が必要だ。段取りを間違えると、せっかく良いツールを作っても無駄になってしまうことがとても多いんだ。君の第一の失敗は、誰にも話をしていない状態で中途半端にツールを人の目に触れるところに出してしまったことだ。谷田が見つけてしまったのは偶然だが、結果的にそこで歯車が狂ってしまっている。当たり前の話だが、組織に新しいルールを適用するためには、展開方法をきちんと考えてから始める必要がある」

坂口 「なるほど……」

豊若 「まずは、ツールの導入目的、使用方法をきちんと組織内に周知するんだ。申請書の電子化ありき、という印象を与えないように、目的を強調するんだ。あと、グループウェアが使われていないことを同じ次元で考えない方が良い。それにはもっと根深い問題が存在している。パソコンをもっと使わせたい、なんてことまで一度に手を出すのは無理だ」

 坂口はうなずきながら聞き入っている。

豊若 「今回の流れの中で、君はリカバリーのチャンスを2度失っていると思う。1度目は、松下の風邪が治って出社した日。2度目は松下ともめた日だ。君は松下とちゃんと話をしようと思ってたんだろう?」

 坂口は、松下が浜崎課長に詰め寄っていた朝に寝坊したこと、そして、松下と対峙したときに感情的になってしまったことを悔やんだ。

豊若 「今回のツールの導入に関するキーパーソンは明らかに松下だ。その彼女に業務を改善しようという気持ちを持たせることができれば、すべてがうまくいくはずだ。そのための時間を惜しんではいけない」

坂口 「なるほど……」

 坂口は、ため息をついた。

豊若 「ツールだけに着目しては駄目だ。ITを仕事に導入するってことは、技術的なことより、その職場の人の心に着目することが実は一番大事なことなんだ。シスアドをITのお助けマン程度に考えてはいけない。君は初級シスアドに合格したんだろう。シスアドは職場を明るくする。みんなを楽しくする。そういう人材なんだ。自己満足だけじゃ駄目だ。IT技術や知識だけじゃなく、人をその気にさせる技も身に付けるんだ。そうすることで、本当の業務改善ができるようになる」

坂口 「私にできるでしょうか……」

豊若 「それは君次第だ。松下とひざを突き合わせて話し合ってみるんだ。彼女のためにやるんだと思うな。彼女を業務改善のパートナーだと思うんだ。彼女の中の孤独の声を聞くんだ。本音を聞き出すんだ」

 坂口は、豊若のクールな表情でありながら、熱のこもった語り口に、次第に引き込まれ、何か勇気をもらったような気分になった。

坂口 「やってみるか……。豊若さん、ありがとうございます。なんだかやる気が出てきました」

 翌日の土曜日、そして日曜日、坂口はほとんど家から出ずに、ツール導入の目的と利用指針を企画書としてまとめ上げた。営業の企画書の作成は得意だったが、職場の業務改善のために企画書を書いたのは初めてだった。書き上げた企画書を眺めながら、明日は松下とじっくり話をしよう、と心に誓った。

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