企業の健康を診断する「業務分析」〜IT技術者のための戦略・業務分析入門〜事例で学ぶビジネスモデリング(4)(2/3 ページ)

» 2005年09月16日 12時00分 公開
[大川敏彦(シニアコンサルタント),ウルシステムズ]

ステップ1:現状業務分析で現在の業務の状況を明らかにする

 まず、現状業務分析は、企業の健康診断をする段階だ。現場担当者へのヒアリングなどを通して、現状の業務の状態を確認していく。確認した業務の状態は業務モデルとして表現していくことになる(図4)。現状業務モデルのことをAS-ISモデルともいう。

ALT 図4 確認した業務の状態は業務モデルとして表現する

 

業務モデルでは、現状の業務の流れ、担当者、入出力情報などを記述していく。図4の例は、受注業務についての簡単な業務フローを表している。受注の受け方として、大きくEDI(Electric Data Interchange=通信回線を利用した受発注データの送受信の仕組み)、FAX、電話があり、FAX・電話で受けた場合についてのみ受注データの入力作業が必要になる。受注データを受信した後では、受注内容の確認を行い、その後、別フローで記述されている在庫の引当等の業務へとつなげていくことになる。

 業務モデルというと図示することをイメージしやすいが、図示するだけでは十分でない場合は、必要に応じてそれぞれの図の補足説明を業務詳細定義書として文章や表などでまとめておく。例えば、受注業務の例では、フローを記述するに当たって、受注タイミングや受注方法、受注アイテムなどの違いを受注業務パターンとして、表にまとめたりする。

ステップ2:問題点分析で、現状の問題点を整理する

 健康診断の結果、いくつか思わしくない数値が出たとする。血圧が高いだとか、γ-GTPの異常などが分かった状態だ。そうすると、次はそれが食生活の乱れによる肥満にあるのか、飲酒にあるのかといった原因を考えたりすることになる。

 企業の場合はどうだろう。現状業務分析を通して、現場担当者へのヒアリングを実施していく中で、さまざまな問題点が浮き彫りになってくる。ただし、それらの問題点は、さまざまな担当者の視点から出たものであり、直接、売上や利益、顧客満足といった企業の重要な問題につながる場合もあるし、あるいは単なる担当者の愚痴であったりもする。問題点分析では、これら玉石混交といってもいい問題点を整理する作業をいう。

 例えば、ある小売業で業務分析を行ったときのことである。個別の担当者へのヒアリングからは、大小500項目ぐらいのさまざまな問題点が挙がった。経営層からは、売上予算が達成できていないという大問題が挙がった。これについてよくよく整理していくと、そもそも発注時点で、予算に合うだけの商品の発注が行われていないという問題に行き着いた。店舗に予算を達成するだけの商品がなければ、売上予算を達成することはまったく不可能なのは当然のことだ。この場合、「発注数量の決定方法が売上予算と結び付いていない」ことを問題点として挙げることにした[注1]。


[注1] ここでは、問題点分析の説明をするために、簡略して表現している。実際には、売上予算が努力目標なのか、必達目標なのかといった予算の位置付けや、売れ残りや期限切れによる廃棄・ロスの問題や、各商品が売り切り型商品なの定番商品なのかといった商品の位置付けの問題など、さまざまな問題が複雑に関係していた。


 問題点の整理が終わると、今回対応策を検討するかどうかを評価し、問題点の優先度付けを行う。このときの評価軸としては「問題の難易度」と「効果の大小」の2つの観点を用いる(図5)。各課題は4種類に分類され、各課題は以下のように評価される。

ALT 図5 評価軸としては「問題の難易度」と「効果の大小」の2つの観点を用いる

A:(難易度低、効果大)→優先的に検討する

B:(難易度低、効果小)→対応するかどうか再検討する

C:(難易度高、効果大)→今後継続検討する

D:(難易度高、効果小)→検討対象外とする

 このような方法で問題点について優先度付けを行ったうえで、次のステップ3で解決策を立案する。

ステップ3:施策立案で、問題点の解決策を立案する

 健康診断で健康を阻害している問題が特定できたら、次はそれを解決する方法を考える番である。例えば、高血圧ならば塩分の高い食べ物を控えるとか、γ-GTPの場合は、週に1回休肝日を設けるということになるだろう。

 企業では、現状の業務上の問題が特定できたら、その解決策を立案することになる。立案の仕方はケースバイケースであるが、1ついえることは、問題点が明確になればそれを解決する施策は案外自然に見つかることが多いということだ。

 例えば、ある日用雑貨の製造業のお客さまで、製品の返品やクレームが多いということが話題になったことがあった。そこでいろいろな部署の方にヒアリングをしながら業務プロセスを図示してみると、本来量産化が行われる前に実施すべき量産化テストが、納期に間に合わないという理由で本生産と同時並行で実施していたということが分かった。いわれてみれば当たり前のことだが、これまでは誰も指摘してこなかったことも事実だった。それが、組織をまたがった全体の業務プロセスを業務モデルとして書いてみることで、誰が見ても一目瞭然になった。

 このように問題点が明らかになると対応策は容易に作成できることも多い。この場合は、まず量産化テスト工程を本来行うべきときに行えるようスケジュールを組み直した。そしてそれに伴って全体工期が長くなってしまうのを、いくつかの施策を組み合わせて、各作業の工数を削減していき全体が工期内に収まるようにすることで問題解決に至った。○

ステップ4:新業務設計で企業のあるべき業務の姿を描く

 健康診断の結果、肥満解消のためには、ダイエットプログラムを実施することになったとしよう。しかし、実際問題として、ダイエットは長続きしないことが多い。では、どうすれば成功するだろうか。成功の鍵の1つは、目標として自分がいまよりもやせてより健康的になった状態を想像することではないだろうか。

 新業務設計では、企業がいまよりもより健康になった姿を新業務モデルとして表現する。現状業務分析で作成した業務モデルを”現状業務モデル”“As-Isモデル”と呼ぶのに対して、新業務モデルのことを“あるべき業務モデル”あるいは“To-Beモデル”という呼び方をする。

 先ほどの日用雑貨メーカーの例でいくと、量産化テストを本生産の前に組み入れて、なおかつ全工程が計画どおりに進むような施策を織り込んだあるべきの姿を新業務モデルとして表現することになる(図6)。

ALT 図6 新業務モデルとして表現

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