BPMNをもっと知りたい人のためにBPMNを活用したビジネスプロセス・モデリング(6)

 連載もいよいよ最終回。BPMNをすでに活用している方にはBPMNの将来を予想するための情報を、BPMNを活用すべきか迷っている方にはその判断に役立つ情報を提供することを目的として、BPMNの課題と最新動向について紹介します。

» 2005年09月28日 12時00分 公開
[明庭聡(日揮情報ソフトウェア 技術本部・モデリング技術部),@IT]

◆ BPMNの課題と最新動向

 2005年3月に 3日間、BPMI主催のBPM Think Tankが米国で開催されました。この集まりは、BPMの普及と関連技術の標準化をさらに加速させることを目的としたものです。BPMIのメンバーはもちろんのこと、OMG、WfMC、OASISといった標準化団体のメンバーも参加[注1]し、ラウンドテーブル形式による議論を中心に進められました。広くBPMの課題について活発に意見交換がされましたが、その中でもBPMN Workshopにおいては今後の方向性として、以下の4つが示されています。

  • 1.BPMNシリアライゼーション
  • 2.BPMN 1.1仕様メンテナンスリリース
  • 3.ハイレベルBPMN拡張
  • 4.BPMN準拠認定

 4つの方向性のうち、特に1〜3についてBPMNの課題とその解決策といった観点で説明していきます。

[注1] BPM Think Tankに参加した標準化団体
【OMG:Object Management Group】→UML、CORBAといったオブジェクト指向技術の標準化と普及を目的とした非営利標準化団体
【WfMC:Workflow Management Coalition】→ワークフロー管理システム関連技術の標準化と普及を目的とした非営利標準化団体
【OASIS:Organization for the Advancement of Structured Information Standards】→XMLおよびSGML技術の標準化と普及を目的とした非営利標準化団体。OASIS内の技術委員会WSBPEL TCがBPEL4WSの次期バージョン(WS-BPEL)の標準化を進めている

■ BPMNシリアライゼーション

 シリアライゼーションとは、データの受け渡しのためにデータを変換することを指します。BPMNに当てはめると、ビジネスプロセス図をBPEL4WSのようなプロセス実行言語や標準的なファイル保存形式に変換することになります。すでにBPMNはBPEL4WSに変換できるのでシリアライゼーションは十分かというと、残念ながらそうではありません。BPMNのすべてをBPEL4WSに変換することができないのです。

 例えば「トランザクション サブプロセス」「アドホック サブプロセス」「レーン」などは、対応するBPEL4WS要素がないために変換できません。BPMNからBPEL4WSへの連携をさらに拡張していく必要があるのです。

 2005年6月29日に、OMGとBPMIが統合され、BPM標準化活動を総合的に推進していくことが公表されました(オブジェクトテクノロジー研究所のプレスリリース)。OMGは、ビジネスプロセスを定義するためのメタモデル「BPDM(Business Process Definition Metamodel)」のRFP(提案依頼書)を公開しています。メタモデルとは、モデルを記述するためのモデル、すなわちビジネスプロセス図を表現するためにはタスクやイベントが必要であり、タスクはTaskType属性やImplementation属性が必要といったことをモデルで図示するものです。このBPDMをビジネスプロセス定義に必要なものを網羅したスーパーセットに位置付け、ビジネスプロセス定義のシリアライゼーションをつかさどるという構想(図1)が統合によって現実味を増してきました。BPDMに基づき、BPEL4WSやその他のビジネスプロセス実行言語が定義、拡張されていく。BPMNからビジネスプロセス実行言語への連携は、少し時間がかかりそうですが、さらに広範囲に、さらに確固たるものになっていきます。

ALT 図1 ビジネスプロセスのメタモデル「BPDM」

 また、OMGとBPMIの統合では、ワークフローを表現するためにも利用されるUMLアクティビティ図を策定しているOMGがBPMNを選び、その改良と普及に取り組むことが宣言されました。そして、多くの実績を持つOMGの標準化プロセスにBPMNが載ることになります。両者の統合、それはBPMNの将来を予想するうえで重要な出来事であるといえます。

■ BPMN 1.1仕様メンテナンスリリース

 BPMN Workshop において、BPMN仕様バージョンアップに向けた改訂の方向性について説明がありました。その内容は主に2つ。1つは「コラボレーションアクティビティの追加」、もう1つは「仕様改善や仕様ミス訂正などの細かな改訂」です。

◇ コラボレーションアクティビティの追加

 コラボレーションアクティビティは、電子商取引にかかわるビジネスプロセス仕様を検討している技術委員会OASIS ebXML Business Process TCから提案されたものです。ebXML (Electronic Business XML) とは、企業間の商取引を世界規模で実現するための国際標準です。現状のBPMN仕様では企業間の取引、すなわちメッセージ交換のロジックをプール内にプロセスとして記述します。しかしながら、取引にのみ着目して標準を規定するためには、企業内のプロセスを隠ぺいして、純粋に企業間のメッセージ交換にフォーカスを当てなければいけません。そこで、メッセージ交換のロジックを企業内プロセス(プール)の外側に記述するコラボレーションアクティビティ(図2)が必要になります。

ALT 図2 コラボレーションアクティビティの例(クリックすると拡大)[注2
[注2] 図2はOASIS ebXML Business Process TCが公表した以下のドキュメントから引用しています。『ebXML Business Process Specification Schema Technical Specification v2.0.1』(Committee Draft, 21 July 2005)

◇ 仕様改善や仕様ミス訂正などの細かな改訂

 BPMN 1.0仕様は、約300ページとボリュームがあり少し手ごわいのですが、サンプルモデルも多いので読み込むとさまざまな情報を得ることができます。例えばワークフローパターンの観点で振る舞いが整理されているなど、業務の流れを整理するノウハウ集といった側面も持っています。その一方で、まだ初版であるためか、仕様改善の余地や若干の仕様ミスも残っています。仕様の品質をさらに高めることがメンテナンスリリースのもう1つの目的です。

 メンテナンスリリースを待てず、具体的に何が改訂されるかを知りたい方は、ぜひともBPMIのWebサイトにあるフォーラムを確認してみてください。このフォーラムでは、質問、改善要望、仕様ミスの指摘に対してBPMN開発者が答えてくれます。そのいくつかについては「BPMN 1.1仕様で改訂する」という回答が記述されています。なお、同フォーラムを見る限り、本連載で説明した内容が改訂されるのはいまのところ「メッセージ中間イベントが受信だけでなく、送信の役割を持つようになる」という点だけです。

■ ハイレベルBPMN拡張

 BPMN 1.0仕様書の「9章 未解決な問題」でも「組織、戦略、ビジネスルールなど、BPMN とその他のハイレベル・ビジネスモデリング・トピックとの間の正式な関係」が課題とされています。この課題においてもOMGとBPMIの統合が重要な意味を持ちます。例えば、組織に関するOSM (Organization Structure Metamodel )、ビジネスルールに関するBSBR(Business Semantics of Business Rules)、PRR (Production Rule Representation)といった標準のRFPをOMGがすでに公開しています。OMGとBPMIが協力し、これらのOMG標準が策定され、BPMNとの関係が明確にされていきます。

◆ BPMN活用の方向性

 以上見てきたようにBPMNを取り巻く環境はまだまだ成長段階です。BPDMをはじめ、BPMNに関連する各種標準も策定されていきます。特にBPMNとビジネスプロセス実行言語との連携については、これからの高度化に期待する面もあります。しかし、ほかの標準との連携が高度化されていくとしても、ビジネスプロセスをダイヤグラム(図)で表現する、この点においてBPMNは多くの既存表記法を参考とした集大成であり、BPMN 1.1でも細かな改訂にとどまるように成熟しているといえます。このようなBPMNをいま現在どのように活用していくか、2つの方向性が考えられます。

■ 業務を可視化するためにBPMNを活用する

 昨今、「2007年度問題」が話題になっています。2007年は豊富な業務ノウハウを蓄えた団塊世代の方々が退職され始める年です。2007年を迎える前に業務ノウハウを残す方法の1つとして、BPMNを活用した業務フローの可視化が挙げられます。実装非依存であり、かつ実装にシームレスにつながるBPMNで可視化しておくことにより、実装環境の高度化状況を踏まえ、さまざまな選択肢から最善な実装方法を選ぶこともできます。

■ BPEL4WSを設計する図面としてBPMNを活用する

 前回(第5回 設計と実装をシームレスにつなげ!)紹介したOracle BPEL Process Managerをはじめ、BPEL4WSに準拠した実行環境が次々にリリースされています。前述のとおりBPEL4WSでは扱えないこともありますが、例えばトランザクションはWebサービスの中に隠ぺいするなど、実装の仕方次第で実現できる範囲は広がります。BPEL4WSでできること、できないことを把握し、実装の仕方を意識する必要があるのでIT技術者もかかわる必要がありますが、ビジネスプロセスの設計には業務を熟知したビジネスユーザーのかかわりも必須です。ビジネスユーザーとIT技術者とのコミュニケーションのために、ビジネスユーザーでも理解できるといったBPMNの特徴が役立ちます。


 ここまで読んでいただいた読者に感謝します。最後に、筆者がかかわっているBPMN関連の活動を列挙しますので、そのいずれかでお会いできることを楽しみにしています。

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