システム開発プロジェクトの魅力を伝えようユーザーサイド・プロジェクト推進ガイド(13)(2/2 ページ)

» 2006年08月02日 12時00分 公開
[山村秀樹,@IT]
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知る仕事である

 “考える葦(あし)”である人間にとって知ることは楽しいことであり、時には感動ですらあります。システム開発の仕事は知ることの連続です。

 業務系コンピュータ・システムの開発の面白さは、社会やビジネスを知ることができることにもあります。学校で教わるような一般的な常識や教養だけではありません。複雑な事情、当事者の力関係、企業文化、それぞれに応じた生きた世間の知恵といったものを知る楽しさがあります。

企業の外部環境やトップの判断を見聞できる

 特に、取引先、法令や国際規格、業界規格など外部環境と絡む業務システムを開発する際には、思いも寄らないさまざまな制約事項や必達事項が出現し、大いに勉強になります。

 例えば、新たな客先などから製品やサービスに対して、これまでにない条件で注文を受けることがあります。この場合、当方にとっては、業務プロセスやコンピュータ・システムを改造するなど、対応に負担が掛かったとしても、相手側にとっては十分根拠のある要求事項なのです。これらの条件は、その理由を聞いてみると、完全自動化への対応のためであったり、高品質とその管理体制を武器とするためであったりするなど、「よそとは違うな」「そこまで考えなければダメか」と納得、感心、驚嘆させられることがあります。

 時には、相手先から要請されて「面倒だなー」「理不尽だなー」と感じたのと同じようなことを、自社があるサプライヤーに対して要望していることを知って、ビジネスの回り合わせに思い至ることもあります。

 自社の対応にしても、その注文に応じることになった背景には「これらの事柄に誠実に対応することは、制約事項であったことを強みに変えるチャンスである。社会環境に適応することは、自社の成長を拡大する経営戦略の1つ」といったような経営層の考えがあり、その深謀遠慮に驚くことがあります。またその客先が、自社というよりもグループ会社の売り上げに影響力を有しており、そこをおもんぱかっていた、なんてこともあります。

 これらのことはゴシップ的な興味を満足させてくれるということではなく、社会を見る目を養うことに役立ちます。自分を社会とのかかわりの中で向上させようとする人、キャリアを積もうと考えている人には、とりわけ、興味深く感じられることです。

内部事情や隠れた知恵に触れられる

 もちろん、この仕事の面白さは外部事情を知るだけではなく、社内のほかの職場の業務、他人の仕事を知ることにもあります。ほかの仕事では、他人の仕事を知る機会はそんなに多くはありません。普通、購買担当者であれば購買だけ、営業担当者であれば営業だけの仕事をすることになります。一方、システム開発となれば、そのシステム範囲の業務──例えば、購買のことも知らなければなりませんし、営業のことも知らなければなりません。

 人々の工夫が詰まった仕事ぶりを知ることは、とても興味深く楽しいことです。一見、無駄と思える作業をしているのはなぜか、その方法のメリットは何なのか、その背景や経緯を知ると納得させられます。社内に存在することも知らなかった意外な業務、それぞれの仕事の絡み具合を知って驚くこともあります。これらも社会や会社の勉強になります。

ITやプロジェクト管理の最新技術を目の当たりにできる

 ベンダからはIT関係の基本的な技術のことから最新の技術動向やソリューション事例を知ることができます。これらはシステム担当としてのスキルアップに役立ちますし、さまざまな事例からは興味深い知識を得ることができます。

 また、ベンダの経験が豊富で優れたエンジニアの驚嘆すべき思考方法やマネジメント手法などを見ることができる場合もあります。これらは生きた参考書というべきものであり、書籍などよりも説得力があります。学んだことは、自分たちの仕事に反映し、効果的・効率的なプロジェクト運営となるように努力します。もちろん、培ったテクニックは得難い貴重な財産となります。これもこの仕事の魅力の1つです。

期待のまなざしで見られる仕事である

 プロジェクトは全社的(全事業所的)にオーソライズされています。このことをまずメンバーに伝えます。

 部門横断的な大規模なコンピュータ・システム開発プロジェクトは、経営層に認知されており、業務部門にはプロジェクトチームにメンバーを出してもらっています。経営層から各関係部署に対して「プロジェクトを成功させるためにプロジェクトチームに協力するように」という要請が出ているはずです(出ていなければ要請してもらいます)。そこで経営層に声掛けをしてもらって、プロジェクトチームが主催するプロジェクトの説明会を開催します。

 これらはプロジェクトを権威付けし、全社的に宣伝することで、プロジェクトチームが仕事のしやすい環境をつくるために行うわけですが、当然注目されることになります。「期待されている仕事」「注目されている仕事」をする実感があればファイトがわくでしょう。

多数の人が参加する大きな仕事である

 大規模なコンピュータ・システム開発プロジェクトは、各業務部門、他事業所、取引先、ITベンダなど、さまざまな関係者からなる多数の人々と直接かかわる仕事です。このような仕事はめったにあるものではありません。「大勢の人間が力を合わせて1つのことを成し遂げる。しかも、その中心的な役割を担う」──というのは、それだけでも貴重な体験であり、プロジェクトチームに参加できることは恵まれているといっても過言ではありません。

 もちろん、大勢の人間とかかわるということは衝突もそれだけ多くなります。憤りを感じることも多々あるでしょう。しかし、それも成功へのプロセスの一環です。その衝突も、人にはそれぞれ立場というものがあるということ、良質なコミュニケーションが必要なことなどを知るいい勉強です。メンバーには、せっかくのチャンス、いろいろなことをひっくるめて、プロジェクトを積極的に楽しむような心構えで臨んでもらいましょう。

システム開発プロジェクトの魅力を伝える言葉

  • 問題を解決することで、さまざまな人から「喜ばれる楽しみ」がある
  • ビジネス全体の動き、隠れた内部事情、最新技術などに触れることができ、「知る楽しみ」がある
  • 人々に注目され、多くの人と「1つのことを成し遂げる楽しみ」がある


 メンバーに伝えるべきことは、「チーム」「リーダー」「メンバーの役割やルール」などほかにもたくさんあります。それらは、また連載の中で適宜述べていきたいと思います。次回は、チームを編成するまでにしておくことについて考えます。

筆者プロフィール

山村 秀樹(やまむら ひでき)

某製造業において、主としてシステムの運用保守作業に従事している。仕事を通して、コンピュータ・システムに関心を持つようになり、中でもシステムの開発プロセスについて興味を感じている。

Elie_Worldを運営し、システムのライフサイクル全般にわたる作業について考えている。



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