ストレージ・ネットワークはどこへ向かうのか上司のためのストレージ・ネットワーキング (6)(2/2 ページ)

» 2006年10月28日 12時00分 公開
[辻 哲也,ブロケードコミュニケーションズシステムズ]
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新しいファイルアクセス関連技術

 本連載の第2回でファイルアクセスとブロックアクセスについて説明したが、私たちは「ファイル」という単位で日常的にデータに接している。企業内のあらゆる情報がファイルという形で保存され、その数とデータ容量は増加する一方だ。企業が保有しているデータの約4分の3は支店や営業所のファイルサーバに格納されているともいわれており、企業レベルでのデータ管理を考えるうえでもファイルの効果的な管理が求められている。

 多くの企業で拠点に分散するファイルサーバの統合が課題になっているが、その際に問題となるのが「ファイルアクセスのパフォーマンス」と「アクセスパス」である。ファイルサーバを本社などのデータセンターに統合した場合、拠点のクライアントはWAN経由でファイルサーバにアクセスすることになる。CIFS(Common Internet File System)やNFS (Network File System)といったファイルサーバへのアクセスに標準で利用されるプロトコルはクライアントとサーバ間でのデータのやりとりが非常に多く、WAN環境ではパフォーマンス上問題になることが多い。またファイルサーバが変更されるため、拠点のクライアントは新しいファイルサーバ名とフォルダへのアクセスパスを設定し直す必要がある。クライアントPC上にショートカットを作成している場合にはそれらをすべて変更しなければならず、変更に伴う手間は非常に大きい。

 上記の問題を解決する手段として、「WAFS (Wide Area File Services)」と「グローバルネームスペース」という技術を実装した製品がベンダ各社から提供されている。WAFSはデータセンターにあるファイルサーバ上のファイルを遠隔拠点のWAFS装置でキャッシュして、WAN経由でのファイルアクセスを高速化する技術だ(図6)。遠隔拠点のWAFS装置上にあるファイルはファイルサーバに置かれているものと基本的に同じであるため、ファイルを一元管理できる。またWAFS装置同士は専用のプロトコルで通信しており、たとえ遠隔拠点のWAFS装置にファイルが存在しないような場合でもCIFSやNFSを使用する場合に比べてパフォーマンスは大幅に向上する。

ALT 図6 WAFSの構成

 WAFSはファイルアクセスの高速化とファイルの一元管理に大きなメリットがあるため現在注目されている技術だが、WAFS装置導入のための初期コストが必要である。また、WAFSはWAN回線が低速でかつ遠隔拠点までの距離が大きいほどメリットが大きい。逆にいえば広帯域で近距離のWAN環境では期待したほどの効果が得られないこともあり得る。従って、導入前には十分なパフォーマンス検証等を行う必要がある。ベンダがこれらのデータを持っている場合もあるので、検討している場合には確認してみていただきたい。

 グローバルネームスペースは、DNS(Domain Name System)のようにクライアントからファイルサーバへのパス (WindowsであればUNCパス)と、対応するファイルサーバの関係を管理し、クライアントからのアクセスを一元化する(図7)。

ALT 図7 グローバルネームスペースによるファイル利用環境の統合

 例えば私たちがwww.itmedia.co.jpのIPアドレスを知らなくてもitmedia.co.jpのWebサーバにアクセスできるのと同じように、グローバルネームスペースを使えば物理的なファイルサーバを認識する必要はなくなる。ファイルサーバを統合したり変更したりした際などに、ファイルサーバへのアクセスパスが変わるケースは多い。グローバルネームスペースはそのような場合に特に有効な技術だ。ただ、現在グローバルネームスペースを導入しているユーザー企業はまだそれほど多くない。導入実績が増えてくるのはこれからである。

ILM とFLM

 効果的にデータを管理するには、その「ライフサイクル」にも注目すべきだ。すべてのデータが、常に頻繁にアクセスされるわけではない。一般にデータは作成された直後は頻繁にアクセスされるが、時間の経過とともにアクセス頻度は低くなる。またデータの重要度も、高いものもあればそうでないものもありさまざまだ。従って、データのアクセス頻度や重要度を無視してすべてのデータを高機能・高価格のストレージ装置に格納しておくのは、データ格納やバックアップに伴うコストを考えると最適とはいえない。そこで、データの重要度とアクセス頻度に合わせて最適なストレージを使い分ける、つまりストレージを階層的に利用することを目指して登場した概念がILM(Information Lifecycle Management)である(図8)。

ALT 図8 ILMの考え方

 FLM (File Lifecycle Management)とは、ILMの考え方をファイルサーバに対応させたものだ。ファイルサーバにも高価なものもあれば低コストのものもある。また、ファイルサーバのデータバックアップは日常の運用業務の中でも特に負荷の大きいものである。そこでファイルに関してもライフサイクルに合わせたポリシーを定義し、そのポリシーに見合ったファイルサーバにデータを格納すれば、最適なコストでファイルを管理することが可能になる。

 本連載は今回で終了である。これまでの計6回の連載の中でストレージ・ネットワークが果たす役割や、それといかに上手に付き合うべきか、ということを筆者なりの視点で説明してきたつもりである。本連載の内容が今後のストレージ・インフラ管理のお役に立てば、何よりの喜びである。

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