内部統制の抜け穴はふさげるのか?SOX法コンサルタントの憂い(1)(2/2 ページ)

» 2007年03月26日 12時00分 公開
[鈴木 英夫,@IT]
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有効な内部統制の体制を敷くには社長自らへのコントロールも必要

 粉飾決算などの不正を防止しようとした場合、われわれがやらなければならないことは、経営者にその上のレベルから統制機能をかぶせることです。このアプローチを理論的に述べてみましょう。

 ここでは、「企業を社会的存在ととらえ、企業が経営者を監視・監督する機関を設け、社会に対する透明性を確保することがその社会的責任である」と定義します。かつて米国では、「所有と経営の分離」といわれましたが、いま述べているのは「ガバナンスとマネジメントの分離」なのです。ちょっと大上段ですね。

 「それなら、現行の会社法の制度でも、取締役会がある」と反論を受けそうですね。確かに、会社法の第362条には、次のように定められています:

けそうですね。確かに、会社法の第362条には、次のように定められています:

(取締役会の権限等)

第三百六十二条

  取締役会は、すべての取締役で組織する。

2 取締役会は、次に掲げる職務を行う。

一 取締役会設置会社の業務執行の決定

二 取締役の職務の執行の監督

三 代表取締役の選定及び解職

3 取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない

4 取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。

一 重要な財産の処分及び譲受け

二 多額の借財

三 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任

四 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止

五 第六百七十六条第一号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項

六 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備

七 第四百二十六条第一項の規定による定款の定めに基づく第四百二十三条第一項の責任の免除

5 大会社である取締役会設置会社においては、取締役会は、前項第六号に掲げる事項を決定しなければならない。

 このように、「取締役会は取締役の職務の執行の監督」を行い、「重要な業務執行の決定」を行うことになっています。ですが、通常の株式会社の取締役は、社内の幹部の中から取り立てられた、いわゆる「従業員兼務取締役」がほとんどを占めています。

 そう考えると、その社内役員が、上司である代表取締役(社長)を監督することなどできるわけがありません。「平取(ヒラトリ)」という言葉があります。これは立法の趣旨に反する言葉ですが、実際よく使われます。

 法律では、取締役は取締役会を構成して、代表取締役(社長)などの業務執行取締役を監督することになっていますが、実態は社内から取り立てられた取締役は社長には頭が上がらないものです。その反省の下に生まれたのが、大勢の社外取締役がいる「委員会設置会社」ですが、社外取締役を務められる人材が極端に少ないこともあり、委員会設置会社は数えるほどしか存在していません。

 脇道はこの程度にして、さてどのようにしたら、経営者にその上から実効的な統制機能をかぶせられるのでしょうか?

 通常、社内からのボトムアップの提案の決定には、稟議書が用いられます。ところが、社長をはじめとする経営者からトップダウンで指示が下るときには、あまり書類は残らないものです。そこで、社長など経営者が下した重要な決定について、「経営者指示書」なるものを書いてもらい、すべての経営者指示書を取締役会への報告事項としたらどうでしょうか。

 取締役会に、社外取締役がいればなお効果的です。もちろん、このような制度を作るには社長など経営者自身の理解と同意が必要ですし、取締役会にもそれなりの覚悟をしてもらわなければなりません。取締役会も社長などの報告に追認を与えるという形で、その方針決定に深く関与することになるからです。

 でも、社長などの経営者の理解はどうやって得るのでしょうか? これは、極めて難しい仕事です。粉飾決算を起こしやすいような体質の企業ほど、社長はワンマンだからです。いま、盛んにCSR(Corporate Social Responsibility)が叫ばれています。おそらく経営者による主体的な決断に至るインセンティブは、「すべての決定を取締役会に報告するという透明性の確保ができれば、不正はできにくい」ということの社会的意義です。

 すなわち、「この会社はそこまでして社会的責任と透明性を確保しようとしていること」を社内外に強く印象付けることが可能となることです。そのことの社会的評価が高まれば、株価も上がるかもしれません。

 また、透明性を確保しておけば、なんらかの危機を迎えたときにも、その危機の内容や会社の対応を社会に向けて広く公開することができ、社会から見てもそれにいち早く対応することを可能とさせることができるので、製品や地域のリスクマネジメントの観点からも有意義な枠組みを確保することになるでしょう。

 このような慣行が広まっていけば、経営者による粉飾決算はできにくくなることが期待できます。しかし、待ってください。もう1つの「複数の担当者による共謀」はどうなりますか? その対応も考えなくてはいけませんね。それまでは、「立法者の憂慮の種は尽きない」ということになるのでしょうか。

Profile

鈴木 英夫(すずき ひでお)

慶應義塾大学経済学部卒業、外資系製薬会社で広報室長・内部監査室長などを務める。

2004年から、同社のSOX法対応プロジェクトコーディネータ。現在は、SOX法・日本版SOX法コンサルタント。プランナー・オブ・リスクマネジメント、内部監査士。

著書:「図解日本版SOX法」(同友館、共著)

連絡先: ai-risk330@jttk.zaq.ne.jp

Webサイト:http://spinel3.myftp.org/hideo/ai-risk.htm


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