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» 2008年03月26日 12時00分 公開

何かがおかしいIT化の進め方(36):適材適所の人材育成をしよう (3/4)

[公江義隆,@IT]

コンピテンシーという考え方

 コンピテンシーという人の能力を行動特性としてとらえる考え方が、30年ほど前、米ハーバード大学の行動心理学者デイビッド・マクレランド(David C. McClelland)氏によって提唱された。

 人の能力は氷山のようなもので、表面から見える知識やスキルのほかに、水面下に行動や思考、価値観など性格的な特性、基本的な動機の部分があり、実はこれが大変大きな影響力を持っているというものである。

ALT 図1:氷山モデル
ヘイ・コンサルティンググループ編「正しいコンピテンシーの使い方」PHP研究所より作成

コンピテンシー項目

 その後、この理論は、ヘイ・コンサルティンググループに引き継がれ、活用のノウハウの開発がなされてきた。「表1」は基本的な20のコンピテンシーをまとめたものである

 コンピテンシーは「高いレベルの成果を生み出すために、行動として“安定的”に発揮されているもの」と定義され、「できる・できない」ではなく「日常的にやっていること」が対象になる。

 なお、コンピテンシーの項目名には、ヘイ・コンサルティングの用いている用語をそのまま使ったが、例えば「イニシアティブ」のように、われわれが日常用いているものとは、意味を異にするものがあるので注意が必要だ。

 なお、昨今の世の中のあらゆる分野で起こる不祥事を見るにつけ、21番目の項目に「倫理性」といったものを追加する必要があるのかもしれない。

表1:コンピテンシー表
分野分類 コンピテンシー 開発難易度 コンピテンシーの内容の定義 コンピテンシーの説明(目に見える行動例など)
チームマネジメント リーダーシップ E メンバーを効果的に共に働くように導く、動機付ける 自分の管理する組織全体の方針や戦略・ビジョンを明確に示し、その方向に対して組織全体を動機付け、まとめ動かしている(目標設定力+動機付け力+統率力)
強制力 B 行動基準を設定し、基準通りに行動させる あらゆる方法を使って、部下や関係者を要求通りに動かしている
育成力 C 他人の資質を長期的に育成しようとする 部下や後輩の能力・技術を直接自ら手を下して開発育成している
チームワーク C 他のメンバーを評価し、組織の円滑な運営を促進するように行動する 組織全体のことを考え協力し合っている
達成行動 達成指向性 E 目標に執着しそれを超えることや、そのためのリスクを取る 自らの何かを成し遂げたいという意思と行動、チームを達成行動に向かわせている
イニシアティブ C 将来のニーズやチャンスを先立って考え、先取りしようとして行動を起こす (通常使われる意味と異なる)。先を読み、手を打っている(先見性+主体的行動力)
顧客指向性 E サービスを受ける顧客のために行動する 顧客や同僚と一緒に仕事をして、顧客や同僚が成果を上げれば自分もうれしいと感じる。顧客のニーズを敏感に察知しニーズに応えている
徹底確認力 A あいまいなことを減らし、詳細なことに注意を払い系統化する 徹底的にチェック・確認し漏れやミスを未然に防いでいる(リスクマネジメントなど)。高度職位では比較的ウエートは低い
思考力 分析思考力 A 原因と結果の因果関係を突き詰め、対応策を練る 概念思考に対比。1つの事象を砕いて細かい部分を分析することで全体像を把握し課題を設定、対策や戦略を立案している。(理解力+分析力+統合力)
概念的思考力 C パターンを見抜いたり考え方をつなぎ合わせ、新しい見方を作り出す あまり関係のないような事象から論理を組み立て、バラバラなものから新しい概念を見いだし・新しい考え方やモデル・独自の理論を作り上げている(創造性+理論・モデルの構築力)
情報指向性 B 質・量の両面から徹底的に情報を収集する あらゆる情報ルートを開拓し、活用している
専門性 A 有用な新しい専門知識・スキルを習得し、ビジネスに生かす 専門知識・スキルを深め拡大し業務に活用している
対人影響力 対人インパクト A 論理的・感情的な影響力を意図的に活用して相手に影響を与える 社内外の相手に自分の考えを納得させ、動かしている
対人理解力 C 言葉で表現されなくても相手の思考や感情を察知する 相手の気持ちや考えを、自分の感情や考えでゆがめることなく理解している(傾聴力)
関係構築力 C 個人的な信頼関係を築こうとする 関係者との間に利害や取引関係を入れずに、仲の良い親しい人間関係を作り上げている(社交性、話題の豊富さ、エンターテイナー能力)
組織感覚力 C 非公式の政治力、組織構造・風土に敏感である 組織の中にある力関係や、公式・非公式の意思決定の仕組み、組織風土を正確に把握し、それに従った対応行動・効果的活用をしている(政治感覚)
セルフマネジメント フレキシビリティ B 状況に応じて現在の仕事のやり方や方向性を変える 状況に応じ既存の方法にとらわれず、臨機応変の行動をしている。完成間近の仕事でも、成功が難しいなら中止し、元からやり直している
自信〔自己貫徹力〕 D リスクの高い仕事に挑戦したり、権力のある人に立ち向かう 他の人ができないような課題でも自分なら解決できるとの信念を持ち、自分の考えが取り入れられていく状況を作り上げていく。(信念の強さ+押しの強さ+チャレンジ精神)
セルフコントロール D ストレス状態でも感情的にならないで行動する  
組織指向性 B 組織の基準・ニーズ・目標を理解し、それを促進すべく行動する 上司や組織の要求・命令を最優先に考え、自分の考えをこれに合わせ行動している
E:極めて困難−人間の三大基本動機(人を動かしたい、何かを成し遂げたい、人と仲良くしたい)の保有の有無の問題。指導・経験させても身に付くたぐいのものではない
D:困難−20代で固まる
C:あるところまでは伸びる
B:指導により可
A:可能性大
ヘイコンサルティンググループ「正しいコンピテンシの使い方」PHP研究所、柳下公一「ここが違う 勝ち組企業の成果主義」日本経済新聞社から作成

コンピテンシーのレベル

 コンピテンシーは「高いレベルの成果を生み出すために、行動として“安定的”に発揮される能力」と定義されており、それぞれについて、まったくやっていないレベルから、一般的表現をすれば、 断片的行動、指示待ち行動、状況対応行動、主体的成果創造行動、全社規範・牽引行動、市場・業界創造行動といった7つのレベルが設定されている(もっとも、その人がいると皆がやる気をなくすような、マイナスのリーダーシップを発揮するような人も時々いるから、マイナスのレベルのある項目も実際には存在するのだろう)。

 なお、それぞれのコンピテンシーに対する1〜7のレベルを具体的に説明した、いわゆるコンピテンシーディクショナリがあるが、その内容はヘイ・コンサルティングのノウハウとして、一般には公開されていないようだ。

 ただし、参考資料として挙げた書物の中に、断片的に一部の項目やレベルについての説明が述べられているので、これらを参考に自社の業務の内容に合わせて、自分たちに分かりやすい表現の説明によるディクショナリを作るのも一法である。

 なお、このときに注意すべき点は、コンピテンシーはあくまで行動を基準に置いた考え方であるから、「XXができる」ではなく、「XXをしている」というとらえ方、表現を大前提に作成することである。いくら頭の中にいいものがあっても、行動として外に出てこなければ能力とは見なさない考え方なのだ。

コンピテンシーの開発(育成)の難易度

 もう1つ、重要と思われる問題として、コンピテンシーの開発(育成・レベルアップ)難易度の問題がある。コンピテンシーには、比較的容易に開発(育成・レベルアップ)のできるものと、先天的、あるいは若い時期に作られてしまい、20歳を過ぎては開発の難しいとされるものがある。この開発の難しいコンピテンシーが適性を考える上での重要な要件になる。

ティータイム:ヒマラヤ登山の隊長に求められるコンピテンシーは?

 本シリーズの第26回の最後に、計5回のヒマラヤ遠征隊に加わり、その中で隊長を3回務めた平井一正氏(神戸大学名誉教授)の、11の項目からなる「リーダのあり方」を紹介した。

 できれば、表1を参照しながら、ヒマラヤ登山の隊長に求められるコンピテンシーがどんなものかを考えてみていただきたい。コンピテンシーという考え方の具体的なイメージの把握ができると思う。なお、11項目のそれぞれが、それぞれ1つのコンピテンシーに対応しているわけではない。

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