適材適所の人材育成をしよう何かがおかしいIT化の進め方(36)(4/4 ページ)

» 2008年03月26日 12時00分 公開
[公江義隆,@IT]
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育成の場への適用

 この考え方の導入手順は、以下のとおりである。

(1)仕事の内容や責任(アカウンタビリティ*)を明確にする

 同じIT企画と名の付く仕事であっても、例えば、ユーザー現場の業務改善システムの企画と、ITをベースにした新しい事業の企画では、仕事の内容も、従って要求される能力にも違いが出てくる(世の中には、ITプロジェクトの定義を、一方的に決め付けているように感じる場合が時々あるが)。プロジェクトマネジメントと一口にいっていても、会社によってプロジェクトの進め方や、要求される内容・範囲には随分違いがあり、その結果、プロジェクトマネージャに求められる能力も一様ではない。

*:アカウンタビリティは成果に対する責任・結果責任

 筆者が在職中、人事制度改革の渦中にあったころ、この言葉の意味を調べてみたことがあった。

 ある辞書に「責任ある立場の人の、responsibilityよりさらに重い責任」といったようなことが書いてあった記憶がある。

 有言実行が文化の西欧の国の「説明したことの結果に対する責任」と理解した。雄弁は銀、沈黙は金の日本にも、「武士に二言はない」という言葉がある。昨今、和訳として使われる「説明責任」という表現には何となく違和感を感じる。

(2)仕事の成果を出すために重要なコンピテンシー(コンピテンシーモデル)を考える

 上記(1)で内容や責任(アカウンタビリティ)を明らかにした仕事をやり遂げるためには、局面ごとにどのような問題があり、それらをうまく解決するためには、どのようなコンピテンシーが使われているかを考えてみる。

 机上の理屈で考えたものと実際とでは、相当違いのある場合もあるので、その仕事をうまくやっている人(ハイパフォーマー)がどのような行動パターンをとっているかを、その仕事を知る何人かの人たちで、具体的な事項を取り上げて議論してみるのがよいと思う。

 しかし、このままでは実に多くの種類のコンピテンシーが列挙される場合が多い。ここからうまくやっている人たちに共通するパターンを見つけ出すのがポイントである。この結果を次のようにして、モデルとして整理してみる。

 高い成果を出している人の行動の源(コア)になっているコンピテンシーは何なのかを徹底的に考え(議論し)て、これを中核に置き、そのコアのコンピテンシーの対内的な影響力の発露となっているコンピテンシー、対外的(対人)影響力、成果に結び付く思考パターン、対外的成果に結び付く合計5つの重要なコンピテンシーで、その仕事(職種・職位)に求められるコンピテンシーモデルを描き出し、さらに各コンピテンシーに求められるレベルを付記してみる。

(3)各人の特性の評価をする

 次に、各人のコンピテンシーの現状・現在の職務と将来についての評価を行う。人材育成の問題では直属の上司が行う場合が普通であるが、コンピテンシーに限らず人の評価は難しい問題である。

 思い込みや願望が評価をゆがめる場合もあるし、見落としている面があるかもしれない。できれば当人の仕事ぶりを知る複数の人たちで議論しながら行うことが好ましいように思う。くどくなるが、コンピテンシーはあくまで行動の評価が基本である。

 「どのような場合に、どの程度に、どのように行動をしたか」で評価することが肝要である。大々的に、またきちっとやるために、外部の専門家の力を借りてやる方法や、評価訓練を受けた評価者(アセッサー)が、評価対象者の集合作業の場を設けてやる方法などもあるが、最終的には直属のマネージャが的確な評価ができるようにすべき問題である。

(4)適性の検討

 上記(2)で作成されたコンピテンシーモデルと、対象者のコンピテンシーを突き合わせてみると、対象者に向いている仕事とそうでない仕事がある程度見えてくる。

 開発可能なコンピテンシー(表1の開発難易度を参照)のレベルが合わなくても、それは今後開発(育成)していけば済む問題だ。しかし、開発難易度の高い項目でレベルの差が大きいときには、慎重な検討が必要になる。

 たまたま、いままでそのコンピテンシーを使う機会が少なかったためという場合もあるかもしれないし(こんな場合は、機会を与えて注意深く変化を観察する)、また、努力して人並みのレベルに到達できる可能性も期待できる可能性も否定はできない(意識的にかなり無理な努力をして成果に結び付けている人もいないわけではない)。

後書きに代えて……そのほか、もろもろの問題

 理屈でいえばこんな流れになるが、なかなか一筋縄ではいかない場合が出てくる。奥深い問題である。奥深いのはコンピテンシーの理論ではなく人間の方だ。

 かつての部下で、同種の仕事でどちらも非常に高い成果を出す人がいたが、2人の行動パターンはどう考えてみても全く異なっていた。逆にいえば、同一の仕事に対するコンピテンシーモデルは必ずしも1つではないことになる。

 また、特に日本人の場合、開発が困難といわれるコンピテンシー項目についても、全員がそのような価値観や雰囲気に中に毎日置かれると、変わってくる人がかなりいるような気がする。

 企業の哲学、戦略があり、これを実行するための組織をアカウンタビリティでブレークダウンし、これに必要なコンピテンシーモデルを考える。このコンピテンシーモデルにマッチする人材を割り当て、あるいは育てていけば、各人が高い成果を出し、企業も目的を達成していくという、きれいな理屈である。しかし、これはトップダウンのアプローチである。

 企業環境が変われば、組織に要求される機能、すなわちアカウンタビリティが変化し、そのためのコンピテンシーも異なってくる。変化に対する対応の引き金はトップダウンでしかあり得ない。自律性という意味では問題の残る体制・方法ということになる。

 欧米から導入される考え方や手法には、こんな性質を持つものが多い。そんな点も十分認識しておかなければならない。

 「正しいコンピテンシーの使い方」は、いわばコンピテンシーの本家、ヘイ・コンサルティング・グループ編による概説書である。全体のほぼ半分の紙面が図や表の読みやすい155ページの書物である。

 「ここが違う!勝ち組企業の成果主義」は、筆者の上司でもあった武田薬品の人事担当役員(専務取締役?顧問)による、同社の人事制度改革の陣頭指揮の記録である。

 当時渦中にあった筆者から見て、内容に飾りも誇張もない真実が語られている。コンピテンシーに関心のある方には、これらの書籍の一読をぜひお勧めしたい。

profile

公江 義隆(こうえ よしたか)

情報システムコンサルタント(日本情報システム・ユーザー協会:JUAS)、情報処理技術者(特種)

元武田薬品情報システム部長、1999年12月定年退職後、ITSSP事業(経済産業省)、沖縄型産業振興プロジェクト(内閣府沖縄総合事務局経済産業部)、コンサルティング活動などを通じて中小企業のIT課題にかかわる


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