IT部門は人材育成と人事評価の仕組みを180度変えよ公開! IT経営実践ノウハウ(5)(2/2 ページ)

» 2008年06月02日 12時00分 公開
[齋藤 雅宏,@IT]
前のページへ 1|2       

問題噴出のIT人材の評価方法

 一方のIT経営人材の人事評価ですが、現状は「とにかく、ひどい」の一言に尽きます。一部の金融機関ではIT部門長を経由することが出世の条件となっているそうですが、ほとんどの業種(IT関連企業も含め)でIT人材は虐げられているのが現状です。

 ITをほかの業務に比べてあまり重視しない会社では、ITの仕事を経験したことがない営業部門や管理部門の上司が突然、IT部門長になることがしばしばあります。ITの仕事に対して理解がないので、現場の人間に対して「君たちの仕事は会社の利益に貢献しているとは思えないので、正直いって評価できない」とやったりします。これでは、現場は「やってられない!」と思うのが当然でしょう。

 そこでわたしは、前述のIT人材育成プログラムを通じてIT人材のスキルアップを図り、IT経営人材も『経営者がウオッチすべき重要人材リスト』に入れてもらうことから始めました。そして、IT経営人材のアウトプットも会社の利益に貢献していることを認めてもらえれば、第1段階はクリアとなります。

 次に、経営者の期待(経営戦略の実行)をIT戦略に落とし込み、各人のアウトプットがIT戦略のどの部分を担うのかを明確にすることで、IT経営人材のパフォーマンスが経営者の評価軸にきっちりフィットすれば、第2段階もクリアです。

 ここまでくれば、後は現場での評価をいかに数値化(定量化)し、それをどのように合理的かつ効率的な仕組みで運用するかが課題となりますが、わたしが作成したExcelシートを使えば、簡単かつ合理的に仕組み化が可能です。

これがIT経営人材の定量評価ツールだ

 下図は、上述の現場での評価内容を数値化し、自動的に経営向け報告書を作成できるExcelシート(サンプル)です。

ALT 図2 現場担当者が作成する「案件管理シート」(人事評価編)(クリック >> シートイメージ拡大)

“現場予定工数”には、現場評価者と責任者(経営)が決めた各人の当案件への割り当て可能業務量を、“実質工数”には、割り当てられた業務量に対するプロマネのパフォーマンス評価を客観的かつ定量的に記入します。

例えば、プロマネA氏は、案件Bについて、プログラマCさんの当月分標準工数(1.0)のうちの0.5分の割り当てを許可されました。プロマネは、業務量0.5人月に対する期待業務内容を提示し、業務内容に対するパフォーマンスを評価します。

その月のパフォーマンスが期待の80%だった場合は、“現場予定工数”に0.5、“各月の実質工数”に0.4(0.5人月×80%)と記入します。


 各シートに入力された人事評価データは随時吸い上げられ、以下の経営者向け業務内容管理シートに反映されます。

ALT 図3 優位性を高めるための一歩踏み込んだ分析機能──ヒトに関する戦略シミュレーション(クリック >> シートイメージ拡大)

「月間標準工数」と「現場予定総工数」の比較により、当該人員の業務負荷を確認する

⇒ 経営が従業員と契約した「月間標準工数(各月の労働量〈通常は1.0〉)」と、各案件に割り当てられている業務量の合計「現場予定総工数」を比較することで、なかなか現場から上がってこない当該人員の業務負荷を定量的に分析できる。

「月間標準工数」と「工数実績」の比較により、当該人員の労働生産性を確認する

⇒ 現場評価者が評価結果として「案件管理シート」に入力した“実質工数”の合計「工数実績」と、経営者が入力した「月間標準工数」の差が工数予実対比として表示される。経営者は人事評価の際、経営者の主観的評価に加えて、現場評価者の評価結果(工数予実対比)から検討できるので、評価者と被評価者双方が納得のいく人事評価が可能になる。


 経営者が従業員と契約した「月間標準工数」と、現場で割り当てられた業務量の合計である「現場予定総工数」の比較による業務負荷の分析や、「月間標準工数」と現場責任者の評価結果である「工数実績」の比較による予実対比分析により、労働生産性の多面的評価が可能になり、合理的かつ説得力のある人事評価が可能になりました。

 人事評価については日本中の会社が試行錯誤しながら、さまざまな手法を導入していますが、現場担当者は最新式の評価手法ではなく、納得のいく評価がされているか? という心理的・人間的な部分の改善を求めています。その部分をサポートするExcelシートを活用した簡単な仕組みを通じて会話するだけでも、担当者の気持ちが結構改善されることが実感できました。

 皆さんもぜひ一度、ご一考ください。

著者紹介

▼著者名 齋藤 雅宏(さいとう まさひろ)

ライト・ハンド株式会社

1992年に三菱商事(株)に入社し、システム開発部に配属される。数百万ステップ規模の会計系基幹システムの開発・保守に従事。その後、食品VANの開発、ECサイトの企画・開発、新規事業の立ち上げ、事業投資先の経営支援、内部統制構築など、各種案件を経験する。これらの経験をノウハウ化すべく、2001年10月から2004年3月まで東京工業大学 社会理工学研究科経営工学専攻の非常勤講師に就任し、事業創造論を学部生および院生に指導。2007年、三菱商事(株)退社後は、ベンチャー企業へのハンズオン型経営支援(支援例:(株)クエスト・ワン)を通じて、『IT経営実践』の普及をライフワークとしている。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ