なぜ幹部は褒めるべき社員をしかってしまうのかビジネスに差がつく防犯技術(8)(2/2 ページ)

» 2008年08月18日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]
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情報システムが真実を投影しているとは限らない

 「業務システム上の情報が信用できるものだ」ということを検証した会社はないだろう。製品ならば検査されてから出荷されるものだが、情報が検査されることは過去においてまずなかったからだ。

 イントラネットも同じで、そこに載っている規程などが関係者の間で議論された後で社内に周知されたものだとする保証はないかもいしれない。

 情報システム上の多くの情報は、マスタファイルを参照している。そのマスタファイルが正しい情報を表しているのだ、ということに責任を持つ部署はどこだろうか。

 日本版SOX法で求められているIT統制も、また同じことを懸念している。ITを活用するのはいい。しかし、振り回してもらっては困るのだ。

素材と料理人の腕と客の舌の組み合わせによって情報は変わる

 そもそも、情報が真実を表しているとは限らない。

 同じ意味を伝えようとしても、日本語と英語では表現の仕方がまるで違う。料理と同じように、素材と料理人の腕と客の舌の組み合わせで、情報はいくらでも変わってしまうのである。情報の素材とは、客観的な事実としてのデータであり、数値や文字、図形、画像、音声などの形をとるが、そのままでは理解したり伝達することが困難なため、加工することが必要になる。

 データを加工する人間が料理人に相当し、その腕が悪いと何がいいたいのか分かりにくいだけでなく、強い香辛料のような修飾をすることによって、判断を誤られせる恐れすらある。

 素材と料理人の腕が良いにもかかわらず、情報の受け手が味に鈍感だと、せっかくの情報も結局活用されないままなのだ。

ITは目に見えない事実を可視化するためにこそ使うもの

 簡単にIT化といっても簡単なことではないことがお分かりいただけただろうか。

 不正確な情報システムを使って経営することは、壊れたレーダーを使って航海するようなものだ。

 本来、ITは目に見えない事実を可視化するためこそ使うものである。「滞留時間の長くなった商品在庫はどれなのか?」「売上金額は大きいけれども、コストや手間が掛かり過ぎている案件はないのか?」「取り引きの縮小につながるような顧客側の変化が起きていないか?」「不正の存在を示唆するような財務状況の変化はないか?」など、企業にとって経営上のレーダーが必要となるケースはいくらでもある。

 不正をする者は当然、見つからないように立ち回る。事故やトラブルも安心したころに突然やってくる。しかし、不正にも事故にも前触れや兆候が必ず存在する。不幸なことにそれに気が付かないだけだ。

 勘定科目ごとの前年、前月比較ができるような経理資料が毎月出され、経営者や管理者が異常値をチェックするだけでも、不正者に対するけん制になるだろう。顧客の1人からのクレームであっても真摯に対応すれば、より深い問題点が浮き上がるかもしれない。

次世代ITはリアルタイムモニタリングへ

 「見える化」のためのITとして注目されているものに、BAM(ビジネスアクティビティモニタリング)がある。

 BAMは、経営層が問題を迅速に把握できるように、業務プロセスの状況をリアルタイムに監視して、その状況を表示したり警告を出したりしようというものである。具体的には、商品の入出庫状況や、注文や問い合わせ、クレームの発生状況、製造ラインでの滞留状況などについて、まさに現場をリモートで見ているようにウオッチすることができるようにしようというわけである。

 日本版SOX法における内部統制でも、「ITへの対応」が掲げられている。しかし、やみくもなITは経営者の目をくらますことになりかねない。大事なことは、「見える化」の実現のために、IT武装を推進していく必要があるのだということを認識することなのである。

次回予告

 今回は企業における防犯の取り組みにおいて、情報システムが果たすべき役割について述べた。

 次回は、企業防衛の取り組みとして特に重要となる組織と人について考察する。最強武田軍は規律(組織)と士気(人)を重んじた。あいまいな責任権限こそ不正の温床であり、表面的にしか理解しようとしない社員が過ちを犯すのである。

筆者プロフィール

杉浦 司(すぎうら つかさ)

杉浦システムコンサルティング,Inc 代表取締役

京都生まれ。

MBA/システムアナリスト/公認不正検査士

  • 立命館大学経済学部・法学部卒業
  • 関西学院大学大学院商学研究科修了
  • 信州大学大学院工学研究科修了

京都府警で情報システム開発、ハイテク犯罪捜査支援などに従事。退職後、大和総研を経て独立。ファーストリテイリング、ソフトバンクなど、システム、マーケティングコンサルティング実績多数。


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