CIOは戦略的視座を持て進化するCIO像(3)(2/3 ページ)

» 2008年10月16日 12時00分 公開
[碓井誠(フューチャーアーキテクト),@IT]

戦略・方針を整理し、あるべき業務機能をデザインする

 では企業戦略・方針整理の事例として、セブン-イレブン第5次総合情報システム(1997〜2000年)検討の際に行ったシステム化計画を紹介しよう。

 このケースでは、方針分析・業務機能定義のフェイズにおける方針・指示の取りまとめは、全7部門にわたり、方針は41機能、指示は1134件にも上った。ただ、この事例の重要なポイントは、ここまで整理して終わりではなく、これら41機能、1134件を基に、方針を実現するための“在るべき機能”を、実務的な視点で再検討したことである。

 具体的には、各機能・指示の中身と、それらの実行を担う各組織の編成、連動を精査し、再検討していった。この結果、例えば商品部の機能は10機能、指示件数は359件と整理できた。この10機能について、1つ1つの関連性と重要度を精査した結果、「商品開発」「商品改廃」「情報発信」「安定供給」という4つの分野に整理することができた。また、359件の内訳をみると、「情報収集」と「情報発信」関連で92件を超えていたことから、商品部の主たる「機能」の1つが店舗や営業部への「情報発信」であると、初めて明確に位置付けられたのである。

 併せて、商品部の役割として、「情報発信」機能がそれまで明確に機能定義されていなかったことが課題として認識されることになった。具体的には、誰にでも分かりやすい形に加工した商品関連情報を用意し、店舗での接客や商品説明、品揃えや売り場作り、試食をはじめとする販促キャンペーンなど、販促部門や営業部門の活動に連動できる体制作りが求められた。

 ところが商品部は、ファストフード分野、加工食品分野、雑貨分野など、カテゴリー別の縦割り組織であり、販促部門や営業部門と連携して、情報を統合・編集し、使いやすく整備する“横ぐし機能”には極めて弱いのが実状であった。

 そこでセブン-イレブンでは、この重要な役割を遂行する横ぐし機能の担い手として「商品情報部」を新設するとともに、マルチメディア情報発信システムを開発した。新商品の先行情報や、発注、品ぞろえを支援する情報を、動画やグラフなど使ってテーマ別に分かりやすくパッケージ化したものを用意し、店舗に設置したコンピュータやGOT(グラフィック・オーダー・ターミナル)から、店舗スタッフがいつでも閲覧・活用し、発注や品ぞろえに役立てられる体制を整えたのである。

3層構造で戦略を具体化する

 図1は、買い手市場への変化の中で、セブン-イレブンが取った戦略のまとめである。小売業者の多くは、メーカーが製造した商品を効率的に市場に提供する“メーカーの販売代理業”的な色彩が強かった。これに対し、セブン-イレブンでは、顧客のニーズに基づいた品ぞろえを行い、商品・サービスを提供する“購買代理型小売業”としてのスタンスを明確化した。

 併せて、商品や売り方を固定化するのではなく、常に新たな提案を行い、店舗レベルでの日常的な顧客対応として、天候の変化や嗜好(しこう)の変化にもきめ細かく対応することで、「365日、身近な立地で利便性を提供する小売業」へと変身していった。

 これを経営戦略として整理すれば、図1左中段にあるように「顧客の立場での品揃えと提案」、そのための「商品開発、サービス開発」、そしてこれらを実行するための「ディマンドチェーン(顧客ニーズ)とサプライチェーンの連動」ということになる。

ALT 図1 セブン-イレブン第5次総合情報システム構築時の戦略をまとめた概念図。経営理念、それを具体化した基本戦略、その実現をサポートするイノベーション要素という3層構造とし、確実に戦略を実行に落とし込んでいく(クリックで拡大)

 さらに、この図1は戦略定義に重要な「3層構造のアプローチ」を表していることにも注目してほしい。第1層(赤い部分)では、「経営理念」として、市場への価値提案内容を整理し、自社の理念と役割を提示することで、顧客や従業員との“共感”、“コミットメント”形成を図っている。

 第2層(緑色の部分)では、第1層で示した方向性を基に、より具体的な戦略的定義の形に落とし込み、これを機能ごとに分類・整理している。これらを各部門機能へとブレイクダウンすることで、最終的に各機能の業務プロセス・デザインへとつなげていくのである。そして第3層(水色の部分)には、第2層の実現を強力に後押しでき、戦略を戦略たらしめるための“イノベーション”要素を組み込むことで、戦略の実効性を高めている。

 なお、図1の第3層では「業務プロセス革新、システム革新」といったように、イノベーション要素として「経営革新」と「IT活用」を挙げているが、もちろんこの限りではない。企業によっては「製品開発力」や「マーケティング力」などが当てはまる場合もあろう。ただ、企業によって強みは異なるものの、「IT活用はイノベーションの主要なエンジンである」という認識は重要である。戦略と必ず連動させて考案すべきテーマである以上、第3層には常に「IT活用」を位置付けておくべきともいえよう。

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