CIOは戦略的視座を持て進化するCIO像(3)(3/3 ページ)

» 2008年10月16日 12時00分 公開
[碓井誠(フューチャーアーキテクト),@IT]
前のページへ 1|2|3       

業務プロセスは枠組みを越えて

 さて、戦略定義に続いて、BPRの話に入ろう。図2は、図1の方針分析・業務機能定義フェイズで定めた機能を基に、全社の機能連携を整理した図である。顧客接点である店舗を支援するために、各部門の機能が連携していることが分かるかと思う。いわゆるBPRの「ハイレベルマップ」と呼ばれる整理である。

ALT 図2 方針分析・業務機能定義フェイズで整理した機能を基に、全社の機能連携を表した図。こうした一気通貫の連携体制と、連携を実現するためのシステムの2つがそろって初めてBPRはうまくいく(クリックで拡大)

 

 また、こうした各部門の機能を強化したり、その効率的な連動を実現できるよう、全体的な支援を行うのが「総合システム」の役割である。総合システムとは、業務プロセスのデザインとシステム構築による、機能強化や連動の実現であり、各プロセスを一貫性を持った連続性、連携性の高いワークフローシステムとして組み立てることで大きな効果が生まれる。

 ただ、BPRは現在でも基本的な業務改革手法の1つではあるが、日本では必ずしも大きな成果を上げるには至らなかったのが現実である。日本企業の強みである“現場力の強さ”が、標準化やシステム化による仕組み改革や全体最適化とうまくかみ合わないケースも多い。部分最適志向の強さや人的クオリティの高さなどは、日本企業の特徴であり、優れた点でもあるが、戦略的、構造的な取り組みがなされないまま、BPRによる抜本的改革を先送りにしてしまうケースも多く見受けられた。

マーチャンダイジングプロセスは、企業間の連携で組み立てる

 しかしこうした中、企業間の壁を破り、従来の枠組みを越えた改革を行うことよって、大きな成長を遂げた企業もある。

 図3は、メーカー、ベンダ、物流、本部、店舗とつながるマーチャンダイジングサイクルを表している。ポイントは、マーチャンダイジングのプロセスを、「各参加者の役割と機能の連動」として整理し、顧客接点である店舗での販売やサービスの状況を共有するとともに、効率的な業務連携を図っている点である。

ALT 図3 マーチャンダイジングプロセスを各参加企業の連携・連動でデザインする。店舗への品揃え提案・情報発信を図り、店舗でのサービスの結果を情報検証・共有して次の提案につなげるサイクルが重要(クリックで拡大)

 もう少し詳しく説明しよう。まず「店舗」の上下に位置する赤枠の2つのボックスに注目してほしい。上のボックスでは受注・納品、販促支援、情報発信などを、下のボックスには店舗でのサービスの状況を把握するPOS情報や、販売検証、仕入れ・返品など、取り引き関連情報や取り引き業務を記している。これらをマーチャンダイジングにかかわる参加企業全体で共有しているのである。

 例えばメーカーは、店舗におけるPOS情報なども活用してマーケティング活動を行い、商品開発につなげ、それに合わせて原材料を調達し、適切な生産・品質管理の下で製造し、安定供給し、販売促進を図り、店舗の活動を支援する。一方、ベンダも店舗におけるPOS情報などを基に、品揃えを考え、商品開発につなげ、在庫管理などを行う──といった図式である。

 従来のマーチャンダイジングプロセスは、図3上段に示した通り、隣接する参加企業間の部分的な接点による連動にすぎず、どうしても伝言ゲーム的な関係になりがちであった。そのため、業務効率向上に大きな成果は望めなかった。

 しかし、各参加企業の業務プロセスに横ぐしを通し、同一の情報を基にそれぞれが連動するサイクルとしてマーチャンダイジングシステムをデザインすることで、業務効率を高め、サービスの拡大再生産を効果的に行う仕組みを作ることができたのである。

 セブン-イレブンでは、この情報共有、業務連携を仕組みとして定着させ、効果を上げるために、徹底したIT活用を早くから行ってきた。セブン-イレブンのシステムコンセプトには、「全分野の徹底したシステム化と一元管理」「社内外の価値連鎖のサポート」「業務の省力化・効率化と、情報化の同時実現」などがあるが、まさにこの考え方を表している。

 現在のITが持つオープンな接続性、リアルタイムな高速性、コストパフォーマンスの大幅な向上などを考えるとき、IT活用の成否がサービス・イノベーションの成果を大きく左右する時代となったことを痛感する。


 さて、今回は「CIOは戦略的視座を持て」と題し、セブン-イレブンの事例を通じて、自社の戦略・方針を整理するとともに、自社内だけではなく、マーチャンダイジングという領域全体に戦略の枠組みを広げることや、合理的な業務プロセスを構築し、一気通貫の総合システムをデザインすることの重要性を説いた。

 もちろん、ほとんどの企業では、こうした機能整理や業務プロセスデザインが体系的になされていない。しかし、CIOは「システム構築」というきわめて論理的な役割を遂行するためには、業務改革かシステム革新、どちらか一方ではなく、同時に取り組むことで、自らの成長と責任を果たすべきである。また、そうすることによって、社内の各部門との連携や、システム構築のパートナーも含めた外部との連携を深めることも可能である。

著者紹介

碓井 誠(うすい まこと)

1978年セブン-イレブン・ジャパン入社。業務プロセスの組立てと一体となったシステム構築に携わり、SCM、DCMの全体領域の一体改革を推進した。同時に、米セブン-イレブンの再建やATM事業、eコマース事業などを手掛けた経験も持つ。2000年、常務取締役システム本部長に就任。その後、2004年にフューチャーシステムコンサルティング(現フューチャーアーキテクト)取締役副社長に就任し、現在に至る。実務家として、幅広い業界にソリューションを提案し、その推進を支援しているほか、産官学が連携した、サービス産業における生産性向上の活動にも参画。さらに各種CIO団体での活動支援、社会保険庁の改革委員会など、IT活用による業務革新とCIOのあり方をメインテーマに、多方面で活動を行っている。



前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ