システム移行はトラブルだらけ目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(24)(2/4 ページ)

» 2009年05月12日 12時00分 公開
[石黒由紀(シスアド達人倶楽部),@IT]

今回は万全なテスト体制を構築

 需要予測支援システムの開発・テストは、豊若が作成したスケジュールがよくできていたこともあり、慌ただしくも順調に進んでいた。単体テストやシステムテストも何とか計画通りに進められ、ようやく終盤に差し掛かってきている。

 ただし、需要予測支援システムが組み込まれる前の新生産管理システムは、ユーザーテスト時にその完成度に疑問が投げ掛けられ、ユーザーと情報システム部との激しい対立を生んだことを、坂口は忘れていない。

 従って、新たに需要予測支援システムを追加した今回、坂口はユーザーテストをあらためて仕切り直すことにした。新生産管理システムの再ユーザーテストに加えて、需要予測支援システムのユーザーテストを組み込んだスケジュールを練り直した。そして、ユーザー部門との打ち合わせを重ねてシステムの実現範囲を明確にし、決定事項をドキュメント化して合意を取った。

 また、今回のユーザーテストは以前の反省を踏まえて、IT企画推進室メンバーがテスト当初から参加することにした。主な作業は、情報システム部門の設計意図とユーザー要望のすり合わせだ。

 ユーザー部門の要望を早めに切り分け、同時にユーザー部門にシステムの背景・目的を伝えていく役割を担うことになる。ユーザーの疑問や不満を情報システム部に届ける前に解決するためだ。それによって、八島が抜けた情報システム部門の負荷をなるべく軽減することに努めた。

 坂口は引き続き伊東に課題の一覧を作成させるとともに、伊東のスキル向上と作業負荷軽減、ユーザー側とのクッション役となることを期待してテストの一部を担当させた。テストには加藤も参加する。利用者教育のことを考えると、ユーザー部門のキーパーソンと一緒に作業をしておけば、コミュニケーションが取りやすいだろうと考えたのだ。

 テストの担当部分は少ないが、伊東は大張り切りだ。以前配送センターで仕事をしてから、いろいろな現場の作業に興味が出てきたらしい。実際のユーザーの立場でテストできるとあって、頑張ってテスト項目をこなしている。加藤と一緒に作業ができるのも、うれしいようだ。不合格だったとはいえ、初級シスアド受験のための勉強が生きているらしく、得意げに加藤に説明をしている。

伊東 「えーっと、このテスト仕様書に目を通してください。操作手順と、どうなればOKになるのかを確認してくださいね。もし、OKの判断基準があいまいなようだったら、情報システム部に確認する必要がありますから、切り分けておいてください」

加藤 「伊東さん、さすがですね。すごい!」

伊東 「え、えへへへへ。しゅ、しゅごいですか〜。えへへぇ〜。何でも聞いてくださいね!」

 そして、工程は順調に進み、何の問題もないかに見えた。

システムが動かない? その原因は……

 システム稼働まで後4日に迫った木曜日。いよいよ本番環境にシステムを移行するときが来た。

 週明けの月曜には、いよいよシステムオープンとなる。夜のうちに情報システム部が、テスト用の疑似本番環境から本番環境にシステムを移行しているはずだ。今日は朝から最終確認を行い、カットオーバーに向けて一直線という段階だ。IT企画推進室も最終確認に立ち会うことになっていた。

伊東 「いよいよですね、坂口さん! いや〜、楽しみですね!」

 ユーザーテストに参加した伊東は、今回のシステムへの思い入れが大きいらしく、足取りも軽い。

 稼働当日に行われる記者発表の準備は広報室兼任の加藤に任せ、坂口と伊東は出社後すぐに情報システム部に向かった。

伊東 「あ、あれ?」

 ドアを開ける前から分かる。そこは戦場のような騒ぎになっていた。

 声を掛けて入室しても、誰も2人が来たことに気付かない。坂口は谷橋を見付けて、すかさず呼び止めた。

坂口 「谷橋さん! どうしたんですか?」

谷橋 「あ、坂口さん。すみません、連絡もせずに。実は……。実は、本番環境に移行したシステムが動かないんです!」

坂口 「ええええっ! それで原因は分かったんですか?」

谷橋 「まだ原因が分からないので、見通しがつかないんです。いま、運用チーム、開発チームのリーダー間で調査中です。もう少ししたら、豊若さんも来てくれるはずなので、申し訳ありませんが、ちょっと待ってもらえますか」

 そのとき、ひときわ大きい声が上がった。

小田切 「何だって! どうしてそれを先にいわないんだ!」

 小田切が運用チームのメンバーに向かって怒鳴っていた。

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