システム移行はトラブルだらけ目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(24)(3/4 ページ)

» 2009年05月12日 12時00分 公開
[石黒由紀(シスアド達人倶楽部),@IT]

システムが動かない原因は“パッチ”

 情報システム部門は今回のプロジェクトに当たって人員を増強し、既存システムの保守を行う運用チームと、新システムの開発チームの2手に分かれる体制をとった。

 需要予測支援システムの追加によって、これに加えていままでの新生産管理システムのユーザーテスト結果を反映する開発Aチーム、需要予測支援システムを開発する開発Bチームに分割するなどの体制変更を行った。チーム間の伝達事項は定例会議を行うほか、リーダーの八島がさい配して漏れがないように配慮してきた。

 しかし、ここに来てチーム間の連絡に漏れが見つかったのだ。テスト用の疑似本番環境は、本番環境と同一にしておいたはずだったのに、運用チームが本番環境にパッチを当ててしまい、それを開発チームに伝え忘れてしまったことで、疑似本番環境と本番環境との間に差異ができてしまったというのだ。

小田切 「ちょうど八島さんが倒れたのと同じころだったらしいんですけどね、本番環境で使っている製品のセキュリティパッチが出たらしいんですよ。ほら、情報漏えい騒ぎがあってから、ウチは結構セキュリティに神経質になっているじゃないですか。それで、運用チームは焦って、開発チームへの確認・連絡をすっ飛ばして、本番環境にパッチを当てちゃったらしいんですよ」

 チームの体制変更や、スケジュールの見直しなどが同時期に慌ただしく入ってしまったことも一因だ。それに加えて八島が入院して不在となったために、連絡漏れに誰も気付かないまま、プロジェクトが進んでしまったというわけだ。

 運用チームによれば環境変更はそのパッチだけだというが、変更管理の記録があいまいであったため、これ以上の手戻りを防ぐためにも、きちんと調査して報告するよう指示を出した。

 小田切は、しきりに「運用チームはITIL勉強しているっていっていたくせに。変更管理もまともにできてないんじゃ、意味がないだろうが!」とブツブツいっていたが、いまさら責めても仕方がない。

 そして、坂口、伊東、谷橋、小田切、それに豊若は情報システム部の一角に設けられた打ち合わせスペースで状況確認と調整のための話し合いを始めた。

豊若 「当然のことだが、本番環境を疑似本番環境に合わせて元に戻すわけにはいかない。いまもサンドラフトの基幹システムは通常通り動いているんだからな。セキュリティパッチということなら、なおさら戻せないな」

谷橋 「ええ。疑似本番環境を本番環境に合わせて構築し直しですね。細心の注意を払って同一環境にしなくては。それから再度、疑似本番環境でのテストということになります」

伊東 「ひえ〜! ま、ま、間に合うんですか?」

坂口 「間に合うかじゃない! 間に合わせるんだ!」

 坂口は伊東を叱咤した。坂口の頭の中には、「期待してるぞ、頑張れよ」といってくれたサンドラフトサポート営業員たちの顔を浮かんでいたのだ。自然とその声は力強くなり、その場にいたメンバーの気持ちを大いに奮い立たせた。

 そして、坂口は矢継ぎ早に指示を出した。

坂口 「豊若さん。申し訳ありませんが、ここからの再スケジュールをお願いします! いつからテストを開始できるのか、時間が決まったら連絡をください。再テストには、ユーザー部門からのテスト参加者をもう一度お願いした方がいいですよね? 僕はユーザー部門と調整してきます! 谷橋さん、小田切さんも大変でしょうがよろしくお願いします! 伊東、行くぞ!」

伊東 「は、はい!」

 まず、坂口と伊東は名間瀬に連絡を取って、西田に報告を入れてもらえるように依頼した。

 そして、手分けしてユーザーテストの参加者本人とその上司にも連絡を取り、数名の作業者も押さえることができた。意外にスムーズに進んだのは、以前根回しを行った際にキーパーソンとの面識ができていたことに加え、テスト中にユーザー部門と親しくなった伊東の力が役に立ったのだろう。

 各部門からの抵抗も少なくなっていた。営業企画部の天海のように、坂口たちの熱意と苦労に理解を示し、進んで部員に協力させることを約束してくれた者もいた。

 ある程度人数のめどがたつと伊東に人員手配を任せ、坂口は名間瀬と協力して、以前のテスト仕様書と記録票を元に、今後のテスト計画の素案を作って豊若たちの元に届けた。

 何とか疑似本番環境が整ったとの知らせを受けたのは、もう夕方近くだった。幸い、例のセキュリティパッチ以外に差異はなく、これなら再テストもスムーズに進むのではないか、いや進んでほしい、と一同が願うなか、集まったテスターたちは一斉に作業を開始した。

 と、ほどなく伊東が素っ頓狂な声を上げた。

伊東 「あれ〜? ここ直ってないんじゃないかなぁ? おかしいなぁ」

坂口 「ええっ? どこだ?」

伊東 「ほら、ここですよ。ここの入力欄は、本当だったら8桁の数字しか入れられないはずなんです。それ以外を入れるとエラーメッセージが出るはずなですよ。ユーザーテストのとき、僕、力が入りすぎて記号をいっぱい入れちゃったんです。そしたら文字化けしちゃって。ほら」

坂口 「本当だ。おかしいな」

伊東 「ね、おかしいでしょ? これ、ぼきゅが見付けて谷橋さんに報告したら、『こういう入力ミスは、情報システム部の人間はあまりしないですからね。ある意味、伊東さんはユーザーテストに向いてるかもしれないですね』ってほめられたんです。それで、よく覚えてるんですよ!」

 ほめられているのかどうかは別として、伊東がこの手のミスで、いろいろなバグを見付けたのは事実らしい。

伊東 「修正版でもしっかり確認したんですよ。何でそのバグが復活しているのかなぁ」

 そうこうするうち、ほかのテスターからも「直っているはずのバグが次々と発見された」という報告が上がってきた。一息つく間も与えられず、情報システム部のメンバーは慌ただしく集まった。

小田切 「ああ、もう! またどっかでミスったのかよ! こういう地味にダメージ与えられるのが一番イラつくんだよ! 誰だ、ここのテスト環境作ったのは!」

 小田切の言葉通り、情報システム部は全員が殺気だっている。時間がないので、とにかくミスの原因究明を最優先にしなければならないのだが、1度ならず2度のトラブルでイライラした気分は、犯人探しに矛先が向かいそうになっている。

 もちろん、急に借り出されたユーザー部門のテスターも、そんな雰囲気ではやっていられない。部屋全体に不穏な空気が満ちたそのときだった。

八島 「おいお〜い、単純なミスじゃな〜い。ちゃんと最新版のプログラムをテスト環境に配布したぁ? 古いプログラムを配布しちゃったんじゃないのぉ〜?」

 情報システム部門の入り口に立っていたのは、八島だった。

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