アプリの標準化で来るべきクラウド時代への準備をIT共通基盤を整備せよ(2)(2/2 ページ)

» 2010年03月03日 12時00分 公開
[生井 俊,@IT]
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アプリケーションの整理はクラウド化への準備

 第1回で「データ分類・テンプレート」を使って業務を整理することで最適なインフラを設計する方法について触れた。この業務の整理・区画化はアプリケーションの最適化、なかんずくこれからのクラウド化において大きなインパクトがあるというのだ。

 一般にクラウドコンピューティングといわれているものは、ITインフラやプラットフォーム、標準的なソフトウェアを提供する「パブリッククラウド」を指すが、企業ユーザーが自社システムを集約化して柔軟性や即応性を高めていく方向としては、自社でクラウド環境を構築ないし運用する「プライベートクラウド」が現実的な選択肢とされている。実際のところ、今後5〜10年というスパンではパブリッククラウドとプリベートクラウドを併用する「ハイブリッド型」のクラウドモデルが主流になるとみられる。

 ハイブリッド型になる理由は、外部(パブリッククラウド)に委託した方が有利なものがある一方で、「受け皿がない」「かえってコストが高くなる」などの理由で仕方なく自社で面倒をみなければいけないシステムがあるからだ。

 この外出しできないシステムは、その会社特有の業務プロセスを担うものであり、いってみれば競争力の源泉でもある。システム構築や運用管理に手間とコストが掛かっても、やらないわけにはいかない部分というわけだ。しかし、こうした業務プロセスもやがて陳腐化し、一般的なアプリケーションとして提供されるようになる。こうなるとそのシステムは外出ししても良いということになる。このあたりは、キャズム理論で知られる米国のコンサルタントであるジェフリー・A・ムーアがコア/コンテキスト分析の形で解説している。これはパブリッククラウドとプライベートクラウドを使い分けるツールとして読み直されてもいる。

 ハイブリッド型システムを目指して、ちょうどよい受け皿が見つかれば順次システムを外出ししてくという戦略を採りたい思っても、「システムの作りがメチャメチャ」「業務区分が自社特有で互換性がない」というのでは、プライベート→パブリックの切り替えを迅速に行うことができない。

ALT 図1 ビジネスプロセスの区分が標準規格化(モジュール化)されていないと、今後次々に登場するであろうパブリッククラウドサービスを迅速に適用できないことになる

 つまり、ユーザー企業としてはシステムを標準的な形に徐々に変えていく――すなわち、ビジネスプロセスのモジュール化が大切になってくるわけだ。自社の業務=システムが標準的な形になっていれば、自社アプリケーションとベンダ提供のアプリケーションを比較して、「外部を使った方が安いのでここはクラウドにする」といった意思決定が可能になる。

 この方向へ進むときに、ビジネスプロセスの区画整理が生きてくる。つまり、これはインフラ最適化のためだけでなく、業務アプリケーションを将来においてクラウド化していく際にも有用な枠組みになるというのである。これが、インフラの最適化の次に「アプリの最適化をすべき」とEMCジャパンが主張する理由である。

全体最適の視点でシステム基盤を見直そう

 ここでもう一度、EMCジャパンの「情報インフラストラクチャ・コンサルティング・サービス」を見直しておこう。このコンサルティングサービスには「インフラ全体最適化」「情報管理最適化」「仮想化」「データセンター移転/統合/最適化」「災害対策」「情報セキュリティ」の6つの領域が用意されている。

 その中核であるインフラ全体最適化サービスは「データ分類・テンプレート」と「アーキテクチャ・テンプレート」の2つテンプレートを使って、ユーザー企業のインフラを診断し、最適なアーキテクチャ標準を提供する。

 インフラ切り替えまで含めると基本的に3〜4カ月のサービスとなるという。前半は現状分析・要件定義、後半はそれを実現するためのアーキテクチャ標準の設定および現行インフラから新インフラへ切り替え作業となる。インフラ切り替えの効果は、平均すると40%ぐらいのコストダウンになるという。

ALT 図2 「インフラ全体最適化サービス」の流れ(提供:EMCジャパン)

 「データ分類・テンプレート」によってビジネスプロセスの重要度を導き出し、それぞれの業務に適したシステムを3階層程度のサービスレベルで提案する。本当にミッションクリティカルな業務であれば「当面、メインフレームのままでいく」「ハイエンドのUNIXマシンを採用する」ということになるし、そうでないなら「仮想化されたIAサーバを使って低コスト化する」という提案になる。仮想化を使う場合はサーバなどの集約率によっても可用性の度合いを調整することになる。

 小坂氏は「インフラとの整合性を見極めてきちんとビジネスプロセスを区画整理できるのが、EMCのバリューです。業務の重要度に応じたインフラのあるべき姿を考えるということは、アプリのあるべき姿も同時に考えることになる――。それが最近では理解されるケースが増えているように思います」と語る。

 スパゲティ化・肥大化したITを最適化するのに、いきなりアプリケーションから手を付けるのは難しいが、インフラはハードウェアリプレイスのサイクルに合わせて計画的に実施でき、比較的短期間で結果を出すことができる。ここで結果を出し、捻出した予算でアプリケーションの最適化を手掛けていくというのが1つの道筋のようだ。

 仮想化/サーバ集約は情報システム部門にとって大きなミッションだ。仮想化がシステム基盤整備の一環になることは間違いないが、全社システムの最適化を図りつつ、分散システムで失われていたITガバナンスを取り返す好機とすべきではないだろうか?

著者紹介

▼著者名 生井 俊(いくい しゅん)

1975年生まれ、東京都出身。同志社大学留学、早稲田大学第一文学部卒業。株式会社リコー、都立高校教師を経て、現在、ライターとして活動中。著書に『ディズニーランド「また行きたくなる」7つの秘密』『本当にあった ホテルの素敵なサービス物語』(ともにこう書房)。


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