ウイングアークのOPMは、アウトプットの面からシステムのアセスメントを行い、基盤化を進めていくコンサルティング・ソリューションだ。その目的は情報を有効活用することだ。
情報は単独では存在できない。必ず何らかのメディアに載らなければならない。そうした情報の記録や伝達、あるいは比較や分析を行う手段にはパソコンや携帯電話などのデジタルデバイスのほかに紙文書がある。ペーパーレスが叫ばれる今日にあっても、紙ベースの帳簿や伝票は依然として広く利用されている。
紙がよいのか、デジタルがよいのかという議論は長年にわたって議論されているが、要は適材適所だ。問題はビジネスプロセスの見直しが行われてないために陳腐化した方法で情報伝達が行われ、情報の有効活用から程遠い状況になっている例がよく見られることだ。
OPMではそうした部分にメスを入れる。ウイングアーク テクノロジーズ 事業統括本部 バリューエンジニアリング部長の岡政次氏は「大体、9割ぐらいの帳票は電子化できる。取引先との関係や法的な規制があって紙出力しなければいけないものが帳票の種類数のうち1割程度で、あとはペーパーレスにしても仕事は回るはず」と語る。これはウイングアークが数社のユーザー企業で帳票の棚卸しをやった結果、得られた知見だという。
つまり、OPMではコンピュータだけではなく社内で使われている伝票類もアセスメントの対象とするということだ。帳票名、配布先部門名、ボリューム(ページ数)などから仕分けを行い、その帳票自体の要不要、電子化すべきか否かなどを判定する。電子化も必ずしも電子帳票の利用を意味しない。データを参照したいだけであれば帳票化する必要はないし、加工したいならばデータのままユーザーに渡せる方がよい。この結果、意思決定が速くなったり、情報を探しまわるのに割いていた労力が不要になったりすれば、見える化しにくいがコスト削減の効果があるといえるだろう。
見えるコスト削減もある。1つはアウトプットのための紙の使用量を減らせるというペーパーレス効果、もう1つはホスト直結のチャネル接続プリンタの撤廃だ。特に後者は劇的なコスト削減につながる。
ウイングアークの事例によれば、ホストから専用ホストプリンタに販売実績データを送り、紙レポートを出力・仕分けして物理的に全国に配送している会社が、レポートをPDF化してホストプリンタを撤廃したという。ホストマシン+専用プリンタを使うと運用維持費のほかに帳票プログラムに修正が必要になったときにテストに莫大な費用が掛かる。もろん、テスト時には本番立ち会い(通常夜間)が必要だ。これらのコストが一切なくなり、加えて従来の“情報伝達”方法では情報が末端に行きわたるのに最大11営業日掛かっていたものが、PDFデータがサーバにアップされた瞬間に全国でアクセス可能となる。
「オープン系のプリンタは低速すぎてホストプリンタの置き換えにならない」と結論付ける前に、その情報はどのように使われているのかを考えることが必要なのだ。
アセスメントで現状把握ができたら、次のステップは基盤化だ。必要なときに必要な情報を必要な人に届けるためには情報源を一元化する必要がある。ソースとなる各業務システムやデータベースから必要に応じて情報を取り出し、それをユーザーニーズに合わせた形でアウトプットできる基盤だ。
従来、情報システム部門が苦しんできたのがこの部分だ。個別最適で作られた業務システム群の中からユーザーが求めるデータを探し出し、データを取り出してくるという作業は、現場ユーザーからはまったく見えないために評価されにくいが、面倒な仕事だ。
一般的なソリューションで考えれば、情報基盤としてデータウェアハウスを導入するという方法がある。各業務システムで発生するデータを抜き出して、セントラル・データウェアハウスに保存し、一元的に扱うというやり方だ。あるいは、各業務システムにWebサービスなどの標準的なインターフェイスを付加し、アクセスを容易にするという方法もあろう。しかし、これらはいずれも莫大なコストが掛かる。ビジネス効果が明らかであればそうした投資でもGOサインが出るかもしれないが、「情報要求があるかもしれない」「情報システム部の負荷軽減」が理由では投資が認められる公算は小さそうだ。
OPMではアウトプット基盤や情報活用の環境は一気に構築するものではなく、段階を踏んで整備していくというアプローチをとる。そのステップごとに金銭的な効果を考え、半期をめどにROIを追い掛けていく。アセスメントの結果から打ち手と見込まれる効果、それに掛かるコストを出して、ROIを算出するわけだ。
単純な方法でもよいのでまず情報活用のための基盤を作る。するとビジネスの現場で情報の活用の仕方が変わる。そのことによってまた新たな情報要求が出てくるかもしれない。それに対して基盤を整備する――というサイクルを回すことがOPMが目指すところだ。情報活用の組織成熟度に応じた基盤化を考えているといっていいだろう。
次回はその「情報活用」についてさらに踏み込んで見ていこう。
▼著者名 生井 俊(いくい しゅん)
1975年生まれ、東京都出身。同志社大学留学、早稲田大学第一文学部卒業。株式会社リコー、都立高校教師を経て、現在、ライターとして活動中。著書に『ディズニーランド「また行きたくなる」7つの秘密』『本当にあった ホテルの素敵なサービス物語』(ともにこう書房)。
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