では、最後にSAM実践の要点を2つにまとめておこう。1つはインベントリ情報の収集である。これには2つのポイントがある。
まず、Windows OS上で取得する情報は、同じ手法で取得されるために、情報の精度としてはどのようなツールを利用しても変わらないと言える。しかし、取得可能な全インベントリ情報を数千台、数万台規模のPCから定期的に収集すると、ネットワークに多大な負荷を掛け、その分、無駄なネットワークコストを支払うことになってしまう。実際、2〜3Mbytesの情報を、一定期間内に数千、数万回とネットワークに流してしまうオペレーションなど、どの企業でも受け入れられないはずだ。
そこで、必要なインベントリ情報だけをコンパクトにまとめて収集する必要があるわけだが、このときの「インベントリ情報の取捨選択」により、その後の管理性は大きく左右される。ゆえに自社の状況や、それに適合したポリシー、管理基準などに合わせて、慎重に選択することが求められる――これがまず1点。
また、インベントリ情報を取得しただけではSAMとしては意味をなさない。1ページで述べたとおり、インベントリ情報をソフトウェアの購入データなどとひも付けてリレーションを管理し、レポートに整理したうえで、ソフトウェアメーカーに提供できて初めてSAMは意義を持つ。
具体的には、「ハードウェア」「PCの使用者(ユーザー)」「インストールされているソフトウェア」「購入されたソフトウェア」、「購入されたソフトウェアの証明書」、「購入されたソフトウェアのメディア」などの情報をすべてひも付けてリレーションを管理し、整理したうえでレポートとして出力する。
そうした各種データをひも付けてリレーションを管理し、資産情報の組織横断的な一元管理を実現するのが構成管理データベースである。ツールの観点から言えば、「インベントリ収集ツール」と「構成管理データベース」の組み合わせることで初めてSAMは効力を発揮すると考えてよい。逆に、収集したインベントリ情報を、人手によって購入データなどと突け合せることも不可能ではないが、管理工数が高く非効率的なうえ、時間がかかるがゆえに情報鮮度も低くなり、情報の正確性に欠けてしまう。結果、「骨折り損のくたびれもうけ」に終わりかねない。
SAM実践のもう1つのポイントは、ライフサイクルの観点を持ち、組織横断で取り組むべき、という点である。まずは以下の図2「ソフトウェアライフサイクル管理の全体像」を見てほしい。
導入計画、調達、運用、再配布といったソフトウェアライフサイクルの各プロセスには、IT部門だけではなく、各ユーザー部門も絡んでくる。そうである以上、IT部門がツールを導入しただけでライフサイクル管理を行うことなど、到底不可能であると明確に分かるはずだ。
今日、ITは企業にとってますます不可欠なものとなり、日々の業務の根幹を担っている。ゆえに、ITの利用は組織横断的になり、効率化や最適化、コスト削減を実現するうえでも組織横断的なプロセスが求められるようになった。
従って、IT資産の効率化・最適化の取り組みを計画する際も、各関係部門が絡んだ“ライフサイクル”の視点で考えることが不可欠となっているのである。「とりあえず(最適化を担う)ツール」で安心感を得ることはできても、ゴールとなる「全体最適化」や、全体最適化によるTCOの削減などは、“ツールだけ”“IT部門だけ”では実現不可能なのだ。
そして、IT資産の1つであるアプリケーション資産を管理するSAMについても、まったく同じことが言えるのである。データが散在し、部門間で共有できていない状態では、SAMのプロセスを効率化することはできない。SAMを行うためには、ITILを意識したライフサイクル管理の考え方と、アプリケーション資産を確実に管理できる構成管理データベースを導入したうえで、組織横断的に取り組むことが求められるのである。
ISO19770が「ISO/IEC20000 との緊密な整合」を図っていたり、SAMの目的として「ITサービスマネジメント全体の有効な支援」をうたっていたりするのも、“ソフトウェア資産の全体最適化”を図ることで、「ユーザーに提供するサービスの利便性を高めることを最終目的としている」からにほかならない。いうまでもなく、この目的は「IT資産管理」の目的と一致する。
すなわち、SAMもIT資産管理の一環なのである。その意味でも、“ライフサイクル”の視点を持ち、関係部門を巻き込んで組織横断的に取り組むことが、SAMを成功させる最大の秘けつといえるのだ。
▼著者名 武内 烈
株式会社コア プロダクトソリューションカンパニー
ネットワークソリューション部 情報資産ビジネスユニット ビジネスユニット長
アーティソフトジャパン株式会社、日本ヒューレット パッカード株式会社 ソフトウェア事業部を経て現職。
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