あなたならどうする? ギリシャ並みに危ない日本経済“経済危機に勝つ”リスクマネジメント(2)(2/2 ページ)

» 2010年05月27日 12時00分 公開
[鈴木 英夫(aiリスクコンサルテーション),@IT]
前のページへ 1|2       

ギリシャは“対岸の火事”ではない

 ところで、現在、日本政府は871兆円、すなわち名目GDP(国内総生産)の184%という巨額な債務を抱えています。それでも「日本は大丈夫」と政府が主張する根拠は、「国債の大部分が国内で保有されているからだ」と説明されています。しかし本当に「大丈夫」なのでしょうか?

 確かに、日本の家計部門には1456兆円に上る金融資産があり、家計の負債369兆円を差し引いても1087兆円が残ります。そのほとんどが、銀行預金や郵貯、生命保険などの形になっており、それらを預かる金融機関は、かなりの額を国債で運用しています。特に、国内最大の金融機関である郵貯などは、預金の9割相当額を国債1本で運用しているのです。

 この状況は、ギリシャが国債の過半を他国の金融機関などに保有してもらっている状況とは対照的です。しかし、だからといって「日本は心配ない」という根拠にはなりません。今後 、以下のような変化が予想されているからです。

今後予測される日本の経済状況の変化

  1. 高齢者など退職者の増加による、預金の取り崩し傾向の拡大
  2. 引き続き低下する家計貯蓄率
  3. 銀行預金/郵貯をメインとした家計部門貯蓄の、海外投資などリスク型金融商品への移行

 こうした傾向は現在も進行しており、家計部門の余裕は徐々に、しかし確実に奪われつつあるのです。

 一方で、ギリシャ危機が日本の政府債務の高さを、市場であらためて浮き彫りにしつつあることも大きな懸念材料です。先に述べたように、わが国の政府債務残高は2009年末の時点で871兆円、名目GDPの184%に相当していますが、ギリシャは同135%であり、日本の割合は世界で突出しているのです。しかも、本年度の政府予算は歳出92兆円に対して、税収は37兆円しかありません。つまり、今年も、来年も、(もし可能なら)再来年も赤字国債を発行することになり、政府負債残高はさらに上積みされる見通しにあるのです。

 そうした日本の国債が、米国の格付け会社、スタンダード&プアーズ(S&P)社に「AA」と格付けされており、これは財政が悪化しているPIIGS(ポルトガル/アイルランド/イタリア/ギリシャ/スペイン)の一角、スペインの国債と同じランクであることを前回述べました。こうした評価の影響もあって、ギリシャ問題が騒がれるに従い、世界中の市場アナリストやエコノミストらは、日本の政府債務問題を次第に重く見るようになりつつあるのです。

 実際、2010年4月28日発表のBloomberg Newsでは、 「金融危機を予測したニューヨーク大学のルービニ教授(国際的なエコノミスト)は、『アメリカ、日本、そしてギリシャのソブリン負債(※注1)の増大は、インフレまたは国家の債務不履行を引き起こすであろう』と予言している」と報告しています。

※注1: ソブリン負債とは、各国の政府が発行する債券のことを示す。その最も代表的なものが国債

 「今後予測される日本の経済状況の変化」として挙げた前述の1〜3の動きが加速され、「海外からの債券売り」→「それによる国債価格の低下」→「長期金利の高騰」→「高額利払いによる財政負担拡大へのスパイラル」という出来事がいつ起こっても不思議ではありません。実際、こうしたことは最初の“きっかけ”が訪れると、それこそ雪崩を打つ勢いで立て続けに起こるのです。

 ちなみに、以下の図4のように、10年物のギリシャ国債の利回りが6.5%から10%超まで急騰するのに要した時間は、たった17営業日でした。

図4 ギリシャ国債の利回り推移。2010年4月13日から一気に高騰している(出典:ギリシャ銀行)

 日本の国債もこうならないとは誰も言えません。つまり、今年度は国債による資金調達ができたとしても、来年度も「できる」という保証はどこにもないのです。

では、どうすればよいのか?

 では、こういう経済状況の中で、われわれ企業のリスクマネージャは、どうすればよいのでしょうか? さっそく企業が採るべき「リスク&チャンス・マネジメント」について考えたいところですが、その前に、まずは自社を取り巻くわが国の採るべき方策について考えてみましょう。

 筆者としてはこう考えます。まず財政面については、市場に「危機だ」と判断される前に、危機的状況を改善するための対策を講ずるべきでしょう。具体的には、国会議員から市会議員に至るまで、すべての議会の定数を半減させ、歳出をカットすることから始めるべきです。定数を半減することが政治的に難しいなら、その報酬を半減すべきです。こうした対応は、営利企業ならある意味“常識”です。社員の給与を5%カットするような場合は、まず役員報酬の50%削減から始めているでしょう。

 経済分野では、まず潜在成長力を引き上げるべく、女性や高齢者にもっと社会的な活躍の場を用意することです。非生産人口があれだけの勢いで増え続けたら、国は持ちません。

 同時に、教育、先端科学技術、知識産業の振興を図るべきです。教育は、時間はかかりますが、国民の知的水準を着実に引き上げ、現代の産業に欠かせない「製品やサービスへの知的付加価値」を高めることにつながります。

 なぜ「製品やサービスへの知的付加価値」の向上が重要かと言えば、この先、人口が確実に減る以上、内需を拡大し、海外の需要を開拓するためには「新しい需要を創造する」しかないからです。例えば、携帯電話やハイブリッド車、太陽光発電のような、これまでになかった物を作り出すことで“まったく新しい需要”を創造できればベストでしょう。ある意味“非常事態”にあるいま、どうしても即効性のある対策ばかりを考えたくなりますが、国力の回復を狙うためには中長期的な展望が不可欠なのです。

 とはいえ、短期的な対策も必要です。筆者はその1つのヒントを、昨年、黒部に旅行に行った際に見いだしました。ケーブルカーとバス、ロープウェーを乗り継ぐ、往復で1万円以上もする立山〜黒部の観光旅行に、中国からの団体客が大勢来ていたのです。

 これはビジネスチャンスになると感じました。例えば、空港や駅、宿泊施設、観光地などが中国語、ハングル語、英語でプロモーションを行い、海外からの観光客を積極的に呼び込むのはどうでしょう。これが国内需要に貢献するとともに、日本の国際的な孤立を救う手立てになると思うのですが、いかがでしょうか。

“思いつき”でも、まずは可視化しよう

 さて、以上のような形で、皆さんもぜひ国の採るべき方策を考えてみてください。言うまでもありませんが、国の方策を導き出すのも、自社の方策をひねり出すのも、対象のスケールが違うだけで、考え方のアプローチとしてはまったく同じです。また、自社が日本にある以上、国の方策を考えることは、次回以降で詳しく考える「自社の方策」を導き出すための基盤となってくれるのです。

 ただ、その際、留意してほしいことが2つあります。1つは以上に示したように、なるべく具体的に考えることと、そう考える理由、根拠も併せて明示しておくことです。アイデアは、技術面や財政面などから検証され、支持を得なければならないからです。自分の日常、習慣も含めて視野を広く設定するのも、アイデアをひねり出すポイントです。

 もう1つは、こうしたアイデアを軽んじたり、外に出すことを恐れたりしないでほしいということです。まずは考えを第三者にも見える形にしなければ、自分の思考も、人との議論も、決して前には進まないのですから。

 それに、提案を導き出す最大のヒントは、意外にも一番最初に考えたアイデアや、それ以前の“思いつき”の中に隠れていたりすることも多いものです。“思いつき”や“直感”を軽んじることなく、まずは前回と今回紹介した各種データや、ご自分で集めたデータなどを振り返って、自分なりの見解を文章や絵などで可視化してみてください。それが新しい思考の糸口となるのです。

筆者プロフィール

鈴木 英夫(すずき ひでお)

慶應義塾大学経済学部卒業、外資系製薬会社でコントローラ・広報室長・内部監査室長などを務める。長く経済分析とリスクマネジメントを経験。 現在はaiリスクコンサルテーション代表、コンサルタント。プランナー・オブ・リスクマネジメント、内部監査士。神戸商工会議所登録エキスパート。危機管理システム研究学会会員、RM協会大阪広報リスク研究会リーダー。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ