なぜ、ジョブズは聴衆を魅了できるのか?情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(3)

基調講演を聴くために徹夜の列ができるほど、聴衆を魅了するスティーブ・ジョブズのプレゼンテーション。なぜジョブズのプレゼンテーションはこれほどまでに人々を熱狂させるのか。その秘密に迫る。

» 2010年07月20日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則

ALT ・著=カーマイン・ガロ/訳=井口耕二
・日経BP社
・2010年7月
・ISBN-10:482224816X
・ISBN-13:978-4822248161
・1890円(税込)
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 規模の大小問わず、毎日世界中の至るところで、あらゆる企業が自社の新製品や事業戦略などを消費者に向けて発表している。しかし、そのプレゼンテーションの多くは退屈なものであり、単なる日常の1コマとして目の前を通り過ぎていくものに過ぎない。そうしたプレゼンテーションが多い中、人々の心をわしづかみにし、彼らの記憶に長らくとどめ続けるプレゼンテーションを連発する人物がいる。それが、スティーブ・ジョブズだ。

 スティーブ・ジョブズは、言わずと知れた米アップル社の創業者であり、現在の最高経営責任者(CEO)である。ジョブズのプレゼンテーションは聴衆を魅了してやまず、彼が登壇するアップル関連のイベントには、ファンや投資家、顧客らがこぞって詰め掛け、中には真冬に徹夜で並んでまで良い席を確保しようとする人までいる。通常、カンファレンスの基調講演は「キーノート」と呼ばれるが、ジョブズの基調講演は「スティーブノート」という異名を持つほどの熱狂ぶりである。

 ジョブズのプレゼンテーションがいかに影響力を持っているかは、動画検索サイト「YouTube」の動画登録数にも表れている。2010年6月時点で、英ヴァージン・グループ会長のリチャード・ブランソンに関連するクリップが1000本、米マイクロソフトのスティーブ・バルマーが940本、米ゼネラル・エレクトリック前会長のジャック・ウェルチが175本という数字に対してジョブズは3万5000本以上と、有名CEOの中でも群を抜いている。

 本書は、カリスマ的な表現者であるジョブズのプレゼンテーションのエッセンスを分解し、そのノウハウやテクニックを分析することで、読者はジョブズと同じように素晴らしいプレゼンテーションを行い、聞き手に身を乗り出させることが可能になると説く。ジョブズがいかにメッセージを構築するのか、アイデアを提示するのか、製品や未来への期待を高めるのか、記憶に残る体験を提供するのか、顧客を伝道者に変えるのか――これらの方法を細かく分解・検討することで、ジョブズのようなプレゼンテーションを実現できると強調する。

 具体的に本書は、わくわくするストーリーの作り方を検討する「ストーリーを作る」、ビジュアルとして魅力があり、聴衆が買わずにはいられないと思ってしまう体験を生み出すヒントを紹介する「体験を提供する」、プレゼンテーション時の体の使い方、しゃべり方、服装などを検討する「仕上げと練習」という3部(3幕)構成になっており、その中に18のテーマ(シーン)を設けている。

 例えば、あるシーンでは「ヘッドライン」の重要性を述べている。ヘッドラインとは、新聞や雑誌などの記事における見出しであり、短い文章でその記事のポイントを端的に伝える役目を持つ。ジョブズはヘッドラインで製品を的確に表現し、新製品にあいまいな部分が残らないように心掛けている。例えば、iPodの発表では「1000曲をポケットに」、iPhoneでは「電話の再発明」、MacBook Airでは「世界で最も薄いノートパソコン」という簡潔な言葉ですべてを表現した。新製品を発表する際にその特徴や機能などを長々と説明する、あるいはジャーゴン(業界の特殊用語)を多用して幅広い消費者とのコミュニケーションを遮断するような企業は少なくないが、ジョブズの発表は、ジャーゴンがなく簡単な単語を用い、短い言葉で具体的に記述し、さらには人々の心に訴える写実的な形容詞が使われる。

 「誰も思いつかなかった世界一のアイデアを思いついても、周りを説得できなければ意味がない」――。こうした悩みは、企業経営者だけでなく、マネージャー層、一般社員に至るまですべての業種、職種のビジネスマンに共通するはずだ。こうした状況に陥らないためにも、周囲を引き込み、驚かせ、魅了するプレゼンテーションを身に付けることが重要なのだと本書は示している。


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