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» 2011年01月24日 12時00分 公開

テクノロジを使いこなすための“鉄則”を学ぼう情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(76)

テクノロジは手段に過ぎない。それをどう使えば社会的な価値を引き出せるのか、使う「目的」を考えることも大切だ。

[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

奇跡の美容室

ALT ・著=鈴木勝裕
・発行=ダイヤモンド社
・2011年12月
・ISBN-10:4478083134
・ISBN-13:978-4478083130
・1500円+税
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 「経営理念や経営基本方針というと、なんだか改まったもののように感じますが、どんな事業でも」「 “想い”は必ず何かあるはずです。それらが浮き彫りになった商品や製品、サービスは何か、そしてそれらがマーケットに対してどんな価値を提供するのか。そのことによって業界や社会の中で、どのような存在になりたいのか」。「自分の中で想っているだけでなく、公的な第三者の評価にさらすことで、社員やお客さま、取引先などのみんなが共感できるような想いを掲げることができる」――。

 本書「奇跡の美容室」は、かつて「カリスマ美容師ブーム」をリードしていた美的感覚集団 美髪堂株式会社 代表取締役社長の鈴木勝裕氏が、企業を発展させるためのポイントを説いた作品である。中小企業庁が用意している経営支援制度「中小企業新事業活動促進法」を話の軸に設定し、著者自身がこの制度を利用した経験から、経営発展のためのエッセンスをひも解く構成としている。

 中小企業新事業活動促進法とは、「一般的なサービス業であれば資本金五千万円以下、従業員数100人以下のどちらか」を満たしていれば、どのような会社でも申請できる支援制度。申請には、経営プランや見込まれる業績数値を予測した「経営革新計画」が求められるが、これが承認されると「好条件で融資が受けられる」などさまざまなメリットがある。

 しかも利用しやすいよう、「経営革新計画」書類を作る方法を分かりやすく整理した「フォーマット」まで用意されているのだが、現在「全国に419万7719社あるといわれる中小企業のうち、『経営革新計画の承認』を受けている数は累計3万5550件」と、わずか0.85%に過ぎない。そこで著者は、この制度の利用を促しつつ「経営革新計画」の立案法を解説。それを通じて、経営の基本や鉄則を説くのである。

 具体的には、「経営革新計画の基礎となる三つの大きな柱」として、「経営に対する想いを言葉にすること」「プランを立てること」「計画にまつわる数字がどう変化していくのかを管理すること」を挙げる。ただ、これらは「一人よがりのもの」であったり、形だけのものであったりしてはならない。第三者に認められるものでなければならないとして、経営計画を立てる際の留意点をシンプルかつ明快に伝授している。

 例えば、「想い」とは経営者が「実現させたいと素直に思えること」を指し、「お金を儲けたい」というのは「想い」ではなく欲求であると指摘する。大切なのは、「“経営者として”何がしたいのか」であり、それは「世の中と共鳴できるものか」「顧客は誰か」「その顧客がこれからの時間軸で何を必要とするのか」を考えることが大切だと力説する。

 また、「想い」をしっかりと持ったら、競合となる同業他社の存在を調べた上で、「考えている事業について、インターネットを活用して新しい価値を生み出せないか」「売るモノを1つに絞るとすれば、それは何なのか」「誰に、いつまでに、どのようにどれだけ売るのか」という3つの質問に回答するよう促している。すなわち、まず経営ビジョンを考え、自社のコアコンピタンスを明確化し、それを実現するための戦略を考え、販売計画を立てるという「経営の鉄則」を、平易な言葉を使ってあらためて解説してみせるのである。

 さて、いかがだろう。むろん、このように俯瞰してしまえばごく当たり前のことに過ぎない。だが本書の場合、以上のような“鉄則”にさほど注意をはらったことのない層を想定して基本中の基本から書かれている。加えて、著者自らの体験談を交えて語られるため、一つ一つの言葉が平易かつ具体的であり、論がまったく上滑りしていない。一般に、経営論というと、どうしても理想論に陥りやすく、読みなれている人ほど“理解した気”になりやすいものだ。だが競争が激しく、こうした基本を忘れてしまいがちな今こそ、企業規模を問わず“経営の在るべき姿”を再認識しておくことが大切なのではないだろうか。

 また、近年はテクノロジの進展により、ビジネスはより柔軟・迅速に展開可能となった。データの分析・処理基盤の発展も著しく、企業にはあらゆる可能性が開けている。だが、肝心のビジネスの目的、在り方が分かっていなれば、あくまでも手段であるテクノロジを使いこなすことはできない。どうすれば自社の活動に社会的価値を担保できるのか――IT部門の人こそ、こうしたビジネスサイドの基本を振り返ることで、思わぬ収穫が得られるのかもしれない。


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