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» 2011年02月22日 12時00分 公開

クラウドを“敵”にしないために必要なこと情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(31)

必要なとき、必要なだけITリソースを利用できる、非常に便利なクラウドサービス。それだけに、IT資産をきっちりと管理して、賢く使える会社はビジネスで優位に立てるが、資産を管理できない会社は無駄なコストを垂れ流すだけに終わってしまいがちだ。

[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

「知らなかった」では済まされない!クラウド時代の「IT資産管理」の実務

ALT ・著=甲田展子
・発行=中経出版
・2011年1月
・ISBN-10:4806139076
・ISBN-13:978-4806139072
・2000円+税
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 コスト削減、効率化が強く求められている昨今、IT資産管理が企業の注目を集めている。そもそもIT資産管理は、1990年代中ごろ、パソコンの低価格化とクライアントサーバシステムの普及を受けて、企業への導入台数が急激に増えたパソコンの管理を確実化するためのものだった。だが、その後、インターネット経由でソフトウェアを入手しやすい環境になったことから、今度はセキュリティやコンプライアンス担保の観点からも資産管理の必要性が高まっていった。

 そして現在は、IT資産を“持たずに使う”時代にシフトしつつある。さらに、コスト削減も厳しく求められている中で、「どのようなサービスをどのような契約で、誰が、何を利用しているのか」を確実に管理することが、IT投資削減、業務効率化の面で大きな意味を持つようになったのである。ひと言で「IT資産管理」といっても、技術の進展、業務環境の変化とともに、重視すべきポイントや目的も変容しているのだ。

 本書、「クラウド時代の『IT資産管理』の実務」は、そうした経緯を踏まえた上で、IT資産管理の骨組みとなる「ハードウェア資産管理」「ソフトウェア資産管理」「ライセンス資産管理」にフォーカスし、その方法論を解説した作品である。入門書としての分かりやすさと、“クラウド時代”というタイムリーなテーマを両立させている点で、多くの読者にとって有用なのではないだろうか。

 特徴は大きく分けて2つある。一つは煩雑かつ難解になりがちなテーマでありながら、あくまでポイントに絞り、シンプルに解説していること。具体的には「『IT資産管理』とは何なのか?」といった“基礎の基礎”を第一章に配置し、続いて「IT資産管理はどこまでやればいい?」「IT資産管理導入のポイント」といった章を配置することで、具体的にはどんな取り組みが求められるのか、イチから明確にイメージしやすい構成としている。

 注目されるのは、各種取り組みの「意義」をきちんと説いている点だ。例えば「『IT資産管理』とは何なのか?」では、「ITリスクの管理」「ITコスト削減」「業務の効率化」「IT統制が進む」という「4つのメリット」を明快に指摘。加えて、各メリットを創出できる「理由」も解説している。

 例えば「ITコスト削減」なら、(IT資産を把握していなければ)「稼働しているシステムが短いサイクルで陳腐化しているのに気付かず」にそのまま使い続けることで、コストを「無駄にしているかもしれない」。その点、IT資産管理は、コストにメスを入れることで、「適正コストでの運用を図ることに役立つ」と説く。このように“各種取り組みを行うべき理由”と“期待効果”がワンセットで説かれ、「ゴール」のイメージが提示されているため、後の「IT資産管理はどこまでやればいい?」など、具体的な取り組み方法を語る章においても、その内容を理解しやすいのである。

 もう一つの特徴は、本書タイトルにあるように、“IT資産を持たずに利用する”クラウド時代に即した資産管理法をきちんと押さえている点だ。特に、クラウドサービスのユーザー側は、「利用しているサービスの対価が適切かどうかを把握する」「サービスマネジメントを怠ってはならない」と、強く主張している点が印象的だ。

 というのも、クラウド環境は「提供されるサービスが動的に変化」することが特徴。 このため、「利用状況に応じて」「利用CPU数やストレージ利用量が頻繁に変更される」し、ソフトウェアもその利用状況が変われば、「利用ライセンス数が変動することも」ある。つまり「サービスの利用状況を常に把握」しておかなければ、コスト削減どころか、「月々の請求が正しいかどうかということすら、確認することができなく」なってしまうためである。

 本書では、こうした“クラウド時代ならではの”事情を指摘した上で、ITIL V3に則った変更管理ポリシーの策定方法や、仮想環境におけるSAMの必要性などを説くのだ。単にやるべきことだけが紹介されているのではなく、それらが「必要な理由」に基づいて解説されるため、一つ一つの取り組みに対する理解を深めながら読み進められるのではないだろうか。ただ、本文ではあえてポイントに絞った解説としているため、本書をIT資産管理を学ぶ“ポータル”と位置付け、必要に応じて専門書を読んだり、他社事例を調べたりするような使い方をすると一層効果的だろう。

 「IT資産管理」というと、一部では未だに「社内にパソコンが何台あるのかを調べる“地味な作業”」といったイメージが根強く残っている。だが、いま求められているコスト削減や業務効率化とは、表層的な対策などで解決できるものではない。IT資産管理によってその現状を把握し、自社の目標に応じて、必要なもの/そうでないもの、自社で持つべきもの/利用するものを切り分け、無駄を排除してこそ、初めて解決できるテーマである。一方で「必要なものを、必要なだけ使える」クラウドサービスのメリットを経営に生かせるか否かも、そうした整理、切り分けを行っていることが大前提となる。

 すなわち、「コストを絞りながら、スピーディにビジネスを展開する」ことが、激しい競争を生き残り、勝ち抜くための“前提条件”となっているいま、IT資産管理は企業の競争力を下支えし、その行く末を左右する“経営問題”とも言えるのだ。「IT資産の変化をとらえ、それを経営に生かすことこそが、本当のIT資産管理」なのである。

 前述のように、そのポイントをシンプルに説いた本書は、心理的にもハードルが高かったIT資産管理に乗り出す、大きな一助となってくれるはずだ。これを一つの拠り所として、知識・ノウハウの深堀に努め、ぜひ“その場限りではない”永続的なコスト削減、クラウドサービスの“真の意味での”有効活用に乗り出してみてはいかがだろうか。


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