開発プロジェクトを失敗させない“勘所”とは?情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(33)

何かと遅れたり失敗したりしがちな開発プロジェクト。しかし、その遅延・失敗の“パターン”と成功の勘所を知れば、プロジェクトの成功率は大幅に高まる。

» 2011年03月08日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

ビジネス情報システム開発のための5W4Hで解き明かすプロジェクト管理〜ここまでやれば成功する!〜

ALT ・著=細川泰秀ほか
・発行=日本情報システム・ユーザー協会
・2011年1月
・ISBN-10:4903477231
・ISBN-13:978-4903477237
・5524円+税
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 「どうもプロジェクトの進ちょくがはかばかしくない」「何か大変悪い結果が発生するような予感がする」――日ごろシステム開発に携わっていれば、こうした思いを抱いたことがない人の方が少ないのではないだろうか。中には「どうもあの人とはウマが合わない」「あの人の考えていることは理解できない」などと、プロジェクトマネージャ(以下、PM)に対する不満が渦巻いている人もいることだろう。

 では、そうした場合にはどうすれば良いのだろうか? ベストの回答は、「別の同階層のマネージャに変わってもらう」、あるいは「上位階層の優秀管理者にPMになってもらう」ことだ。特に望ましいのは後者だ。プロジェクトはチームで進めるものだが「人間には相性がある」。よって、一定の品質のものを納期通りに仕上げなければならない以上、PMを変えてでもプロジェクトの環境を整えるべきだ。とはいえ、不用意にPMを変えればチームの雰囲気を悪化させてしまう。従って、従来のPMより上位階層の者を「総合プロジェクトマネージャ」などと命名して“上の立場から支援する”形を取れば、チームの雰囲気も従来のPMの「名誉も守られ」るというわけだ。

 本書、「ビジネス情報システム開発のための5W4Hで解き明かすプロジェクト管理〜ここまでやれば成功する!〜」は、何かと遅れがち、失敗しがちなプロジェクト管理を成功させるポイントとノウハウをまとめた作品である。その特徴は、「いかに納期に間に合わせるか」といったプロセスの問題ばかりにフォーカスせず、以上の例のように、現場の実態やそこで働く人々の心情にも配慮した“現実解”を豊富に用意している点にある。すなわち、プロジェクトとは、プロセスだけではなく、本質的な課題を見極め、品質、工期、生産性、それらを支える人間までを対象に総合的に配慮することで「良い結果に結びつく」ことを、簡潔な解説で分かりやすく提示しているのである。

 タイトルにある「5W4H」とは、「what/why/who/when/where(何を/何のために/誰が/いつ/どこで)」と、「How/How many/How much/Humanware(どのように/どのような品質、工期、目標を目指して/どのような生産性を目指して/人間力を持って)」という、システム開発で重視すべき9つの視点を指す。

 システム開発といえば、建設のプロジェクト管理技術と共通するという見方もあるが、「建設のように数千年の歴史」を持つ業界と、「50年程度の歴史しか持っていない情報産業界」とは大きな隔たりがある。特にシステム開発の世界では、「見えにくい、変更が頻発する、技術進歩が早い」といった事情がプロジェクトの落とし穴となりやすい。そこで筆者らは、「エンジニアリング知識だけ」では十分ではないと考え、「失敗しない日本流のプロジェクト管理」を、5W4Hの視点から総合的に整理する必要性を感じたのだという。

 そうした執筆の狙いや特徴は、少し目を通すだけでもすぐに理解できる。本書は主に上流工程の在り方を説いた「主要開発フェーズ編」と、プロジェクト自体の在り方を解いた「共通技術編」で構成し、プロジェクト管理全般を網羅している。しかし、そうした広範囲な中でも、課題別に細分化・整理された目次を見れば、いま必要としている項目を即座に発見し、迅速にその原因と対策を学べる構成となっている。

 例えば、「失敗プロジェクトの原因、要因」をひも解いてみると、「失敗プロジェクトの原因の8割は要件定義の漏れおよび曖昧さ」と、まず原因を明確に提示している。その上で、「経営トップが無力な場合、本質的な業務再構築を伴わないままに、複雑にして規模が大きいシステム構築が企画されがち」などと、コンパクトな解説の中でも“本質的な問題”をしっかりと押さえているのである。

 また、プロジェクトの推進役となる「キーマンの適性」にも触れ、「時間と約束にルーズな人」「自分を守るために、自ら判断することを避ける人」「上司の言うことは何でも聞いて、そのまま右から左に部下に伝えるだけの人」といった特性を持つ人たちは「キーマンには不向き」だとばっさり切り捨てている。その上で、「キーマンとしての適任者」の要件と「要件定義を明確にする」方法を、箇条書きでコンパクトにまとめているのだ。さらに、その詳細を学ぶ上で役立つ参考文献も紹介している。すなわち、「いま知りたいこと」から、問題の原因、解決策、解決のポイント、そして参考資料まで、スピーディにドリルダウンできる仕組みとしているのである。

 この点で、本書を“読む”のではなく、辞書的に“引く”使い方をすれば、あらゆるシーンで迅速に適切な判断が下せるのではないだろうか。また、フォーマルな外観とは裏腹に、決して退屈なものにはなっていない点も魅力だ。例えば先の「キーマンに不向きな人」として、「解決のための行動をせずに、傍観者あるいは非難者になる人」と述べた上で、こうしたタイプは「後方から鉄砲を打つタイプであり、これがトップの場合は悲惨な状況に落ち込む」と非常にシビアに論じている。随所で表れるこうした痛烈な見解と、ポイントに絞って明確に提示される問題原因分析は、日ごろ不満を抱えがちな現場層の人にとっては、ある意味痛快でもあるはずだ。

 日々多忙を極めるゆえ、たとえ問題意識を持っていても、つい状況に流されてしまいがちな開発プロジェクト。しかし、本書を座右の書として開発に臨めば、あらゆる問題を小さなうちに刈り取り、プロジェクトの質を抜本的に高められるのではないだろうか。また、“ビジネス基盤を作り込む業務の流れ”を俯瞰できる点で、業務部門の人にも読んでもらうとIT活用効果を高める上で一層効果的だろう。個々人で読むべきというより、会社で購入し、関係部門の従業員に配布することをお勧めしたい一冊。


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