製造業や建設業など、原価計算の精度が利益率や経営判断に直結する業種では正確かつ効率的な原価管理が求められます。しかし複雑な計算やデータ管理に悩む企業も少なくありません。
この記事では原価管理の課題を解決し、収益性向上を目指す企業の経営層と担当者に向け、原価計算の基本的な方法から、会計システムを活用した効率化のポイント、おすすめの会計システム/製品までを解説します。
機能で比較「会計システム」おすすめ製品一覧
目次
原価計算とは何か
原価計算とは、製品やサービスの提供にかかるコストを計算し、管理する手法です。材料費、労務費、経費などを正確に把握することで、適切な価格設定や利益管理が可能になります。特に製造業や建設業では、原価計算の精度が経営の成否を左右する重要な要素となります。
この1ページで解決「会計システム」の主な機能、メリット・デメリット、製品選定のポイントを分かりやすく解説
原価計算の主な方法
原価計算には以下のような主な方法があります。計算例とともに改めて確認していきましょう。
- 実際原価計算
- 標準原価計算
- 直接原価計算
- 全部原価計算
- 個別原価計算
- 総合原価計算
実際原価計算
実際に発生した材料費、労務費、経費などをもとに原価を算出する方法です。小規模製造業や受注生産型企業でよく使われます。
計算例
ある製品を100個製造するために以下のコストがかかったとします。
- 材料費:200,000円
- 労務費:150,000円
- 間接費:50,000円
このときの計算式は以下になります。
総原価 = 400,000円 → 製品1個あたりの原価 = 4,000円
標準原価計算
あらかじめ設定した標準的な材料費や工数を基準に原価を算出し、実際との差異を分析する方法です。大手製造業の工程改善や原価管理に活用されます。
計算例
標準材料費:1,800円、標準労務費:1,200円 → 標準原価 = 3,000円
実績:3,200円 → 差異=200円(不利差異)
直接原価計算
直接原価計算(=貢献利益計算)は、「製品1個あたりの変動費」のみを原価として扱い、固定費は期間費用としてまとめて扱う手法です。
計算例
- 変動費:1,500円、固定費:100,000円(月)、販売価格:2,000円、月間販売数:100個
→変動費合計(変動費×数量)== 150,000円
→ 限界利益(売上-変動費合計) = 50,000円、営業損益(限界利益-固定費) = -50,000円
全部原価計算
全部原価計算は、製品の原価に「変動費」だけでなく「製造にかかる固定費」も配賦して含める方法です。製品単価の中に固定費の持ち分が含まれるのが特徴です。主に管理会計に用いられます。
計算例
- 変動費:1,500円、固定費:100,000円 → 製品1個あたり1,000円追加
- 生産数量:100個
→固定費配賦額(固定費÷生産数) =1000円
→ 全部原価(変動費+固定費配賦額) = 2,500円
関連記事管理会計を効率化するシステム10選|主なタイプと導入のメリット、製品の選び方を解説
個別原価計算
プロジェクトや製品単位にかかる原価を個別に集計する方法です。原価要素を案件・製番ごとに積み上げて把握します。建設、広告制作、ソフトウェア開発など案件ベースで原価を把握したいシーンに用います。
計算例
- 建築プロジェクトA:材料費3,000,000円、労務費2,500,000円、間接費1,000,000円
→ 総原価 = 6,500,000円
総合原価計算
同一製品を大量生産する場合など、製品を区別せずに工程や期間ごとに原価を集計し、総コストを生産数量で割って平均的な単価を算出する方法です。
計算例
- 総生産コスト:1,000,000円、生産数:10,000個
→ 単位原価 = 100円
原価計算の目的と重要性
原価計算は企業の経営を支える基盤情報を提供する役割を担っています。ポイントは以下の通りです。
- 製品やサービスの価格設定を適正化する
- 利益率を可視化し収益性を評価する
- 将来予算や戦略計画を支援する
- 原価の異常値を早期に発見する
製品やサービスの価格設定を適正化する
原価情報を基に価格を設定することで、過剰な値引きや損失リスクを避けながら、競争力のある価格政策を実現できます。
利益率を可視化し収益性を評価する
製品やプロジェクトごとに原価と売上を突き合わせることで、利益率を可視化し、重点改善エリアを把握できます。
将来予算や戦略計画を支援する
標準原価や実績原価を分析することで、翌期の予算作成や長期戦略の根拠データとして活用できます。
原価の異常値を早期に発見する
予定していた原価と実際原価の差異をタイムリーに検出できるため、原価高騰や効率悪化の兆候を早期に把握できます。
原価管理の主な課題
原価管理の課題には主に以下が挙げられます。あなたの会社はいかがでしょうか。
- データの散在により全体把握が困難
- 計算作業が煩雑で時間がかかる
- 意思決定に必要な情報が遅れる
- 属人的な管理で再現性が低い
データが散在しており全体把握が困難
部門ごとに異なる形式で管理される原価データは統合しづらく、製品ごとの原価構造を俯瞰しにくくなります。
計算作業が煩雑で時間がかかる
Excelなどを用いコピー&ペーストや数式・マクロの工夫など手作業の多い工程で行っていると思います。この方法は手軽ですが、標準原価や差異分析に多くの手間と時間がかかり、結果として分析業務を圧迫します。
意思決定に必要な情報が遅れる
原価情報の集計が遅れることで、経営陣がタイムリーに価格改定や工程見直しなどの判断を下せなくなります。
属人的な管理で再現性が低い
特定の担当者に依存した原価管理は、業務の引き継ぎや精度の維持が難しくなります。放置したままでは企業の持続性を損ねる要因になります。
おすすめ収益性分析の実践ガイド|自社の利益力を分析する方法とポイント、計算式、利益向上改善策を解説
会計システムの活用効果とメリット
原価計算における上記の課題解決、具体的には原価計算の確実性向上と効率化は会計システムを有効活用することで容易に推進できます。会計システムの機能・主なメリットは以下の通りです。
- 原価情報をリアルタイムで把握できる
- 計算ミスを削減できる
- 原価の推移を可視化できる
- 部門間でコスト情報を共有できる
- 原価分析と経営判断を迅速化できる
- 会計・生産・販売情報を一元管理できる
原価情報をリアルタイムで把握できる
会計システムにより、材料費や労務費、間接費といった原価データを日次や週次といった高頻度で集計・反映できるようになります。
これにより、経営層や部門マネージャーが原価状況を常に最新の状態で把握可能となり、損益の傾向や異常値を早期に察知できます。特に、原材料価格の変動が激しい業界ではリアルタイム性のあるデータが重要な競争優位性となります。
計算ミスを削減できる
エクセル管理など、従来の手作業の工程が多い原価計算では、入力ミスや関数ミスによる誤差が生じやすく、特に標準原価と実際原価の差異分析に支障が出るケース・課題が多く見られます。
会計システムに備わる入力ルールの統一や自動仕訳、定義済みのフォーマットなどの工夫により、こうした人的ミスを大幅に削減できます。正確な原価把握は財務会計だけでなく管理会計の信頼性にも直結します。
原価の推移を可視化できる
多くの会計システムにはダッシュボード機能やグラフ表示機能が搭載されており、月別や製品別など様々な切り口で原価の推移を視覚的に把握できます。これにより原価構造の変化要因や収益性への影響をタイムリーに分析できるようになります。
例えば、原価が一時的に増加している理由が外注費か、材料単価の上昇かを明確に区別することが可能です。
部門間でコスト情報を共有できる
営業部門、生産部門、財務部門など、複数部門で原価情報を共有することが原価管理の前提条件となります。
会計システムは部門を跨いだデータ連携を可能にするため、全社的なコスト意識の醸成と共通指標での評価を促進します。また、経営会議などでも同一データをもとに議論が進められるため、コミュニケーション効率も飛躍的に高まります。
原価分析と経営判断を迅速化できる
原価の分析結果をもとに製品戦略や価格設定を変えるといった意思決定のスピードは、企業競争力に直結します。
会計システムでは、収益性分析や差異分析の機能が備わっており、詳細なデータを即座に出力可能です。これにより、原価が高騰している製品の見直しや利益率の低いサービスの撤退など、戦略的な判断がタイムリーに行えるようになります。
会計・生産・販売情報を一元管理できる
ERPに統合されている、あるいは自社の機関業務システムと連携できる機能を備えた会計システムであれば、会計データだけでなく生産計画、販売実績、在庫情報なども統合管理が可能です。
これにより、単なる原価計算にとどまらず、製造部門の過剰在庫や販売部門の過少発注といった業務課題まで連鎖的に把握できます。結果として、全体最適な原価構造の設計と業務プロセスの改善が実現されます。
おすすめクラウド型会計システムの主な機能、メリット・デメリット
原価管理の高精度化に向く“万能タイプ”のクラウド会計システム5選
今回はそれぞれ異なる特長を持ち、多くの企業の原価計算ニーズに沿って適応しやすい特徴を持つ会計システムをピックアップしました(製品名 abcあいうえお順/2025年4月時点)。このほかにもおすすめの製品があります。搭載機能や特徴で絞り込める「おすすめ会計システム一覧ページ」をぜひお試しください!