
ビジネスの現場でChatGPTをはじめとする「生成AIの活用」が急速に進んでいます。しかし同時に、「入力した機密情報が漏洩するのではないか」「出力された情報が著作権を侵害しないか」といったセキュリティリスクへの懸念から、本格的な導入に踏み切れない企業も少なくありません。
この記事では、「結局、何がどう危険なのか?」「API経由なら本当に安全?」「ガイドラインには何を書けばいい?」といった、企業のIT・セキュリティ担当者が抱える“あやふやな疑問”に正面から回答します。生成AIの脅威を正しく理解し、安全な活用体制を構築するための具体的なステップを解説します。
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目次
【疑問1】なぜ今、生成AIのセキュリティ対策が急務なのか?
生成AIのセキュリティ対策が急務である理由は、その利便性の高さゆえに、自社で管理できない形での利用=シャドーITが急速に広がっているためです。従業員が個人の判断で業務上の機密情報を入力してしまえば、それが意図せず外部に漏洩してしまうリスクがとても高いのです。
「シャドーIT」が引き起こす深刻な脅威
シャドーITとは、企業や組織のIT部門が把握・管理していない、管理下にないデバイスやクラウドサービスを、従業員が独断で業務に利用してしまうことです。特に生成AIは個人利用シーンで既に利便性を認識していることが多く、また無料プランでも高性能なため、昨今シャドーIT化しやすいツールの代表格です。
例えば、従業員が「業務効率化のため」と考え、社外秘の顧客リストや開発中のソースコードをChatGPTに入力し、要約やデバッグを指示するケースが考えられます。この行為自体が、重大な情報漏洩インシデントに直結する可能性があるのです。
対策が追いつかない「AIの進化速度」
生成AIの技術、特にLLM(大規模言語モデル)の進化速度は非常に速く、新しい活用法が次々に生まれると同時に、新たな攻撃手法(リスク)や未知の脆弱性も同様に生まれると言えます。従来のセキュリティ対策の常識が通用しない分野もあり、企業は最新の動向を追いながら、継続的に対策をアップデートしていく必要があります。
【疑問2】生成AIの「何が」「どう」危険なのか? 5大リスクを分類解説
生成AIのセキュリティリスクは複雑に見えますが、大きく「入力」「出力」「悪用」の3つの側面と、それらを支える「基盤モデル」「運用体制」の脆弱性に分類できます。
ここでは、企業活動において特に懸念すべき5つのリスクを具体的に解説します。
リスク1:入力データからの「情報漏洩」
これが最も多くの企業が懸念するリスクです。具体的には、従業員がプロンプトとして入力した機密情報(顧客データ、個人情報、社内ナレッジ、開発コードなど)が、AIモデルの「学習データ」として再利用され、他のユーザーへの回答に含まれる形で外部に漏洩する可能性です。
パブリックな生成AIサービスでは、「入力データをサービス改善(=AIの追加学習)に利用する」ことが利用規約に明記されている場合があります。
リスク2:出力結果に含まれる「誤情報」と「権利侵害」
生成AIは、事実に基づかない情報(ハルシネーション)や、学習データに含まれる偏った意見(バイアス)を、さも真実であるかのように生成することがあります。これをファクトチェックせずに業務(例えば、マーケティングコンテンツや経営資料など)に利用すれば、自社の信頼を失墜させる恐れがあります。
また、AIが生成したテキスト、画像、コードが、既存の著作物と酷似している場合、著作権の侵害にあたる可能性も否定できません。
関連記事「ハルシネーション」の発生率を低減|アップデートされたGPT-5とは?
リスク3:攻撃者による「悪用・乱用」
生成AIは、サイバー攻撃者にとっても強力なツールとなり得ます。例えば、非常に巧妙なフィッシングメールの文章を大量に自動生成したり、マルウェア(ウイルス)のコード作成を支援させたりすることも可能です。
またAIの活用が進む近年では、特定の人物の音声や画像を学習させ、本人になりすます「ディープフェイク」を作成し、詐欺や社会的な混乱を引き起こすといった悪用シーンの増化も懸念されています。
リスク4:AIモデルへの「敵対的攻撃」
これはAIシステムそのものに対する攻撃・悪用シーンの1つ「プロンプトインジェクション」と呼ばれる手法が代表的です。攻撃者が特殊な指示(プロンプト)を入力することにより、AIの安全機能(ガードレール)を回避し、開発者が意図しない動作を、例えば、機密情報の暴露、不適切な回答の生成を引き起こさせます。
また、学習データを汚染(ポイズニング)し、モデルの動作自体を不正に操作する攻撃も懸念されています。
リスク5:不十分な「運用体制(ガバナンス)」
最後に、技術的なリスク以前に、企業・自社としての「ルール」が存在しないことが最大のリスクと言えます。
誰が、何の目的で、どのツールを、どこまでの情報を入力して良いのか。これらの利用ガイドラインが策定・周知されていなければ、従業員は個々の判断で行動してしまいます。結果としてインシデントの発生は防げないことになります。
【疑問3】ChatGPTに入力した情報は「学習される」のか?
多くの方が疑問に思う「ChatGPTなど生成AIへの入力データは学習されるのか?」という問いに対する答えは、「設定と利用するサービス形態による」となります。
「無料版・個人版」は原則「学習に使われる」と考える
一般的な無料版や個人向けプラン、例えばChatGPTの無料版、WebUI版などでは、ユーザーが「オプトアウト(AI学習への利用を拒否する設定)」を明示的に行わない限り、入力されたデータ(プロンプトや会話履歴)は、AIモデルの品質改善や追加学習のために利用される可能性があります。
これが、ガイドラインやルール化のない業務下の状況で、AIへ機密情報を絶対に入力してはならないとされる最大の理由です。
API経由や「法人向けプラン」は学習に利用されない設定が可能
一方で、企業利用を前提としたAPI経由での利用や、「ChatGPT Enterprise」などの法人向けプランでは、入力データがモデルの学習に利用されない(オプトインしない限り)ことが規約に盛り込まれています。これが、「API経由なら安全」などと言われる根拠です。
ただし、「学習に利用されない」ことと「情報漏洩しない」ことはイコールではありません。通信経路の暗号化やアクセス管理など、基本的なセキュリティ対策は個々に別途必要です。
併せてチェック有料の生成AIサービスは無料版と何が違うのか?
【疑問4】生成AIの活用で今すぐ実施すべきセキュリティ対策とは? 3つのステップ
生成AIのリスクを理解した上で、企業は具体的に何から手をつけるべきでしょうか。安全な活用を実現するために、以下の3つのステップを順序立てて実施していきましょう。
ステップ1:現状把握と「ガイドライン」の策定
まずは、社内で「誰が」「どのように」生成AIを使っているか、あるいは使おうとしているか(シャドーIT含む)の現状を把握します。その上で、生成AIの利用に関する全社的な「ガイドライン(ルール)」を策定します。これは対策の土台となる最も重要なステップです。
ガイドラインには、「利用目的の明確化」「入力禁止情報の定義」「出力結果の取り扱いルール」などを盛り込む必要があります。詳細は以下で改めて解説します。
ステップ2:全従業員への「セキュリティ教育」の徹底
どれほど優れたガイドラインを策定しても、従業員に周知され、遵守されなければ意味がありません。ステップ1で定めたルールに基づき、全従業員(特に業務でAIを活用する部門)に対して、具体的なリスク事例や正しい利用方法に関するセキュリティ教育を定期的に実施します。最低でも年1回は行いましょう。
この目的は、「なぜこの情報を入力してはいけないのか」という背景(リスク)も含めて説明し、従業員のセキュリティ意識(リテラシー)を向上させることにあります。
ステップ3:安全な「利用環境・ツール」の整備
ガイドラインの遵守を個人の意識だけに頼るのではなく、会社として技術的な仕組み(システム)でサポートすることも不可欠です。
例えば、前述の「API経由」での利用を前提とした社内専用チャットボットを構築したり、入力データを監視・マスキングできる「SaaS型セキュリティツール」を導入したりするなど、安全な利用環境を整備する策が挙げられます。
【疑問5】「ガイドライン」には具体的に何を書けばいい?
生成AI利用ガイドラインは、自社AIセキュリティ対策の「憲法」に相当するものとなるでしょう。網羅的である必要はありますが、複雑すぎて読まれない/理解されないルールになってもいけません。最低限、以下の項目を明確に定めることを推奨します。
項目1:利用の「目的」と「許可する範囲」
まず、会社として「何のために」生成AIの利用を許可するのか。そして「どの範囲まで」許可するのかを定義します。
例えば「何のために」は業務効率化やアイデア出しなど、「どの範囲まで」は社内資料の要約は可だが、顧客向け文章の作成は不可といったルール化があります。
項目2:入力してはならない「機密情報」の定義
ガイドラインの核となる部分です。「個人情報」「顧客情報」「取引先情報」「社外秘の技術情報・財務情報」など、自社にとっての機密情報を具体的に定義します。これらをいかなるルール外の生成AIサービス、特にパブリックな無料版に入力することを明確に禁止します。
項目3:出力結果の「取り扱い」と「責任の所在」
AIの出力結果には、誤情報(ハルシネーション)や著作権侵害の可能性があることを明記します。そして、利用者は出力結果のみを鵜呑みにせず、必ず「ファクトチェック」や「目視での確認」を行う義務を負うことを定めます。
最終的なアウトプットの責任はAIではなく、利用者自身にあることを明確にするのがポイントの1つです。
項目4:利用を許可する「ツール」の指定
シャドーITを防ぐため、会社として利用を許可する生成AIツールを指定し、それ以外のツールの業務利用は原則禁止とします。例えば、会社契約の法人向けプラン、特定のAPI連携システムなどが考えられます。
項目5:違反時の「罰則」と「相談窓口」
ガイドラインに違反した場合の懲戒処分などについて言及するとともに、利用中に判断に迷った場合や、インシデント(漏洩の恐れなど)を発見した場合の「相談・報告窓口」(通常は情報システム部門やセキュリティ部門)を明記します。
【疑問6】安全な「利用環境」を構築する具体的な方法は?
ガイドラインを策定し、教育を実施しても、「うっかりミス」を完全に防ぐことは困難です。そこで重要になるのは技術的な「環境構築」です。企業のニーズや予算に応じて、主に3つのアプローチが考えられます。
方法1:クローズドな環境で利用する(Azure OpenAI Serviceなど)
安全性が高いとされる方法の1つです。例えばマイクロソフトが提供する「Azure OpenAI Service」のように、入力データが外部のモデル学習に使われず、自社の閉域網(セキュアなネットワーク環境)内でChatGPTのAIモデルを利用できるサービスがあります。
ほかにも法人向けプランを用意するサービスには「オプトアウト(AI学習への利用を拒否する設定)」が明示されている、あるいはオプトアウトを有効化する設定を備えています。データが社外に出ないため、情報漏洩リスクを最小限に抑えられます。
方法2:既存環境に「セキュリティSaaS」を追加導入する
現在利用している環境はそのままに、その手前に「セキュリティゲートウェイ」として機能するSaaS型ツールを導入する方法も手段の1つです。
これらのツールによって、従業員がAIに入力しようとしたテキストをリアルタイムで監視し、機密情報(マイナンバー、クレジットカード番号、社内固有のキーワードなど)が含まれていた場合に、自動でマスキング(匿名化)したり、アラートを発したりできます。比較的低コストかつ少ない障壁で導入できるのがメリットです。
方法3:自社専用の「カスタムLLM」を構築する
自社専用の大規模言語モデル(LLM)を構築・運用する方法もあります。最もコントロール性が高い反面、構築と運用(モデルのチューニングやアップデート)に高度な専門知識とコストは必要です。導入のハードルはかなり高くなります。
なお、そこまでではなくとも、特定の業務、例えば法律相談や専門的な顧客サポートなどに特化させたい場合や社内ナレッジのみを学習データとしたいシーンに向けた「用途特化型の法人向けAIツール・サービス」も多く登場しています。
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自社に適する「生成AIセキュリティ対策」が分からないときはどうするか?
ここまで、生成AIのセキュリティリスクと、その対策のステップ(ガイドライン、教育、環境構築)を解説しました。
しかし、「結局、自社にはどの環境構築の方法が最適なのか?」「ガイドライン策定を具体的にどう進めれば良いのか?」といった、個別の課題に直面している担当者も多いのではないでしょうか。
企業フェーズや目的に応じて「最適解」は異なる
生成AIのセキュリティ対策に「唯一の正解」はありません。企業の業種(金融、医療など規制が厳しいか)、扱うデータの機密性、従業員規模、IT予算、そして「AIで何を達成したいか」という目的によって、取るべきアプローチは大きく異なります。
あくまで一例として、ChatGPTを業務で活用したいとしても「ChatGPT Business/Enterprise」や「Azure OpenAI Service」が最適とは限らず、目的特化型のAIツールなどからスモールスタートする方が現実的なケースも多々あります。
「何から手をつければ……」専門家への相談もAI安全活用の近道
「リスクは理解したが、自社に合う具体的なソリューションが分からない」「複数のツールを比較検討する時間がない」。もし、このような課題をお持ちであれば、やみくもにツールを探したり、あやふやなまま独走したりする前に、専門家の知見を活用する(分からないならば分かる人に聞く/セカンドオピニオンを得る)こともお勧めします。
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