「IPモバイル電話で定額かけ放題」――。その夢のようなサービスは、“悪夢”となって終わった。
ジャパンメディアネットワークは既報のとおり、1月19日に東京地裁へ自己破産を申請した。同社が提供をうたっていたIPモバイル電話サービス「MobdeM」は、複数ユーザーから数万円単位の初期費用を集めながら、満足なサービスを提供できないまま、終焉を迎えた。負債総額は、20億円を超える見通しだという。
もっとも、この結末を予想していたユーザーも少なくなかったに違いない。MobdeMに対する同社の説明は、当初からつじつまの合わない点、不審な点が多かったからだ。このような画期的なサービスが「成功する」とユーザーを信じさせるには、あまりにも多くのものが欠けていた。
同社が、どのような経緯で世間を騒がせ、一部からの強い批判をうけ、混乱のうちに市場から退場したのか。そのてん末を、もう一度確認してみたい。
ITmedia編集部がジャパンメディアネットワークの存在を知ったのは、2002年末のこと。編集部に届くニュースリリースの中の1つが、「ユーザーの携帯電話を即時に“IP電話化”して、通話料金を定額にする」という、にわかには信じがたいサービスの開始を伝えていた。
同社の報道発表によれば、通常のPDC方式のコネクタ部に専用端末を挿すことで、「通話をVoIPとして送信できる」とのこと。これが、MobdeMである。
しかし、そのリリースの文章は極めて短いもので、肝心の技術上の詳細は、残念ながらまったく欠落していた。そもそもPDC方式の通話が、小型の端末を介するだけでどうすればIPパケットとして伝送できるのか、判然としなかった。
また、“定額制”の部分も疑問だった。自社網内で通話が完結する場合ならいざ知らず、ほかの通信事業者とインフラを相互接続するなら、その事業者との間で接続料(関連記事参照)が必要になる。
ADSL事業者などが手がけるIP電話サービスでも、NTT東西地域会社、あるいは携帯キャリアとの間で接続料が発生するような通話は、当然ながら従量課金となる。「IP電話だから定額制」と言えないことは、原理として自明だ。
編集部では、上記の疑問をさっそく電話で問い合わせたが、満足のいく説明は得られなかった。「技術上の質問は、メールで」とのことだったが、教えられたアドレスに宛てた質問に、回答のメールが返ってくることは結局なかった。
しばらくして、これらの謎を解くための格好の機会がやってきた。ジャパンメディアネットワークは、製品を紹介する場として、同社内にデモルームを設置したというのだ。
それなら、直接出向いてデモを体験しよう――。こう考えた記者は、年が明けた2003年1月8日、西新橋の第7東洋海事ビルにあった、同社デモルームを訪れた。
ところが驚いたことに、対応に出た女性は、「事前の予約がない場合は、デモを見せられない」と、デモルームへの入室を拒否する。それまでのいきさつから、仮に予約を申請しても、受け入れられるか信じられなかった記者は、「それならしかるべき責任者に会わせてほしい」旨を告げた。
これを受けて登場したのが、同社の業務推進部長、告原敏昭氏。同氏は、「あまり技術の秘密を明かすのは、ビジネスとして問題がある。このため、結果的に取材に応じるのを渋っていた」と説明し、写真撮影の禁止を条件に、記者をデモルームへと案内してくれた。
ところが、である。そこで記者が見せてもらえたのは、プラスチックベースの、ごく単純なモックアップだけだったのである。“デモルームでのデモ”は、残念ながら見ることができなかった。告原氏はまた、技術上の詳細を一切明かさず、接続料の問題については「携帯キャリアと交渉中だが、難航していて困っている」とも話した。
この際の取材で、同社が数人の体制で運営されていることが分かった。ジャパンメディアネットワークは、1998年の設立後、すぐに休眠状態に。2002年に、岩田誠一代表がこれを買収し、IPモバイル電話サービスを提供する企業として活動を再開したわけだ。
いずれにせよ、社員が数人しかおらず、関係事業者との交渉も途中。実際に利用できる端末すら、用意できていない状況で、サービス開始をアナウンスしていたことが分かった。編集部では、少なくとも客観的に見てサービスを開始できると判断できるまで、同社に関する報道を控えることにした。
だが、同社をめぐる騒動は拡大していくことになる。
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