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八丈島にブロードバンドがやってくる荒波にほんろうされた離島のインターネット事情(2/2 ページ)

» 2004年03月12日 21時10分 公開
[河野寿,ITmedia]
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 最初に島の現状をメンバーが説明するために「島にはフレッツしか来ていないもので……」といいかけると、孫社長は「フレッツが来ているなら、なにもウチが出ていく必要もないじゃないか?」と疑問を口にした。そこで、「フレッツはフレッツでも、実はフレッツISDN※なんです……」と言うと、「それならウチがやろうじゃないかっ」となったらしい。

 「プロジェクトX」ばりのドラマツルギーあふれる話であるが、鶴の一声ならぬ社長の一声によって、とにもかくにも八丈島にブロードバンドが引かれることになった。

※2003年7月になって、ようやくフレッツISDNが提供されるようになり、再び常時接続の環境がナローバンドながらも実現していた

ブロードバンド過疎から一転してブロードバンド過剰へ

 Yahoo! BBのサービスも2004年の4月をメドに開始することに決まり、まずはめでたしめでたし、となるはずだった。しかし、ここで新たな展開がある。

 2003年12月、NTT東日本が三宅島を除く伊豆諸島全島にフレッツシリーズを提供するとアナウンスした。それも、八丈島にはFTTHのBフレッツまでサービスされるのだという。

 数カ月前には難しいと言っていたサービスが、その後人口が急増したわけでもないのに開始される。その理由は、「以前はできなかった県間通信が解除されたため」だという。たしかに、八丈島へ来る海底ケーブルは、伊豆半島の伊東からNTT西日本所有の回線をたどっているから、合理的な説明にも聞こえる。ただ、過去の経緯を知っている人は、なかなか額面通りには受け取れない、というのが正直なところのようだ。

 ともあれ、こうしたわけで1年前までブロードバンドを渇望していた島が、いきなり本土と同様のブロードバンド競争に巻き込まれることになった。NTT東日本は、Bフレッツの加入者獲得にも本気で乗り出し、2人ずつのチームが5組、計10人で戸別訪問を行うという、いわゆるローラー作戦で仮申し込みを取り始めたのだ。そして、仮とはいえ、目標としていた300世帯以上を確保したらしい。

photo NTT東日本 八丈島営業所にはフレッツのポスターが貼られているが、島内の他の場所ではあまり見かけなかった

 一方、推進する会の方は、それまでの経緯もあってYahoo! BBを推進しているが、推進する会を経由して申し込まれたのは110世帯ほど。八丈島を回ってみると、あちらこちらにYahoo! BBのポスターが貼られているので、Yahoo! BBの認知度はかなり高いものと思われるが、あくまでもボランティアなのでローラー作戦のような活動まではできない。いまのところ「様子を見てから入ろう」という考えている人も多いらしく、「島起こしのためにも、もっとがんばって加入者を増やさないと」と奮闘している。

 もちろん、選択肢が増えたこと、より高速な回線が引かれることになったのは素直に喜ぶべきだ。しかし、推進する会のWebサイトに「Yahoo! BBに偏向している」などといった匿名の書き込みや、心ない荒らしがあるなど、ブロードバンド誘致に成功したからといっても、楽しいことばかりではないらしい。

photo 島内の小さな商店などでもYahoo! BBのポスターを見かけた

 ところで、この状況を一般的なインターネットユーザーはどう受け止めたのだろうか? Bフレッツを仮申し込みしたという島の人に話を聞くと、「どうせ入れるのであればやはり速いほうがいい」と明快な答え。ただ、「いままでの経緯を考えると、Yahoo! BBを応援しようという推進する会の心情もわかる」とのこと。やはり、各人はそれなりに複雑な思いを抱いているように見受けられた。


 いずれにせよ、もうまもなく八丈島にブロードバンドが開通する。今後は、島内のいろいろな場所からモバイル経由でインターネットを利用できるように、無線LANスポットを整備しようという計画もあるらしい。これは島を訪れる観光客にとっても朗報だろう。

 現状では、本土とは違う植物や綺麗な海、各所にある温泉といった豊富な観光資源を生かし切れていないようにも見受けられる八丈島だが、ブロードバンドで情報が発信できるようになれば、こうした状況も徐々に変わってくるのではないだろうか。

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