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「金の匂い」のするランキング(2/2 ページ)

» 2004年04月19日 17時58分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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 われわれにとって身近な例では、大手量販店の「売れ筋ランキング」も、裏側から見ると面白い。いやホントに裏側に回り込んで見たりするなよ。そう言う意味じゃないから。

 このようなランキングは、販売店のPOSデータを集計したものだろう、それぐらいは技術的に簡単にできるはずだから、それをやってんのね、という思いこみがわれわれにはある。

 だが実際にこのランキングを支配している要素は、販売助成金の額だ。もちろん具体的に「これで一つ、うちの製品をランキング1位ってことに……」「おぬしも悪よのう、どぅは、どぅは、どぅわはっはっは!」というやりとりがあるのかどうかは確認のしようがないが、出たばかりの新製品が1位だったり、どう見てもあんまり良いと思えない商品が1位になっているという不思議な現象を見かけたら、なんらかの“オトナの事情”が働いたと思って間違いないだろう。

ランキングの現金価値

 それはランキングとして不誠実だ、と思われることだろう。だがまさに金とモノが右から左に動く戦場で、仁義を求めるほうが無理だ。「ええい静まれ静まれぃ! ここにおわすお方を……..」「たー!(後ろから袈裟切り)」みたいなことが現実の世界なのである。どの時点での結果なのか、真っ赤なウソにならないデータの切り取り方は、いくらでもあるのだ。

 そしてこのランキングの魔法によって、あるいは販売助成金の威力によって喚起される店員のやる気によって、フェアな競争原理で選ばれたものではないモノが売れていく構図ができあがり、しまいにゃ本当にランキング通りになったりもするからおかしなものだ。通常は結果であるハズのランキングが、予言になっちゃったりするわけである。

 もちろんすべての量販店が、このような“ランキング売り”をやっていると考えてはいけない。「ウチはそんなことしてませんよ!」と胸を張って言えるところもあるだろう。そういうところでは、きちんとランキングの調査期間なり根拠なりゆえんなりがあるハズである。気になる人は、そこんところを店員さんに聞いてみるといいだろう。

 これらランキングによって商売が可能なのは、その数字がまだ「生きている」からだ。番組視聴率が今週はこんなに高かったんです、と発表すれば、来週からもっと多くの人が見るだろう。メーカーが量販店のランキングを金で買うのは、それを見て買う客がいるからだ。

 一方で都道府県別離婚率ランキングといった統計データなどは、その現金価値は死んでいる。これを見て「ヤバイ、アタシ離婚率トップ県民だから離婚しよう」というアクションもないとは言い切れないが、そこには経済的価値がない。データとして価値がないと言っているわけではなく、“金の匂い”がしないデータなのである。

 ランキングは、無作為であるほど資料的価値はある。逆に作為的であるほど、現金価値がある。その数字に金の匂いがするかどうか。情報だけでモノの価値を判断している社会では、その嗅覚を身につけないと、うまいこと誰かに踊らされることになる。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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