インテルは、PCを使って生活をさらに便利に・快適にするという「デジタルホーム」を提案する「Intel in Your Life」をプレス向けに開催した。
同社開催のプレス向けイベントというと、PC雑誌の編集者やライター、それも半導体関係を得意とする“常連”の担当者が顔をそろえるのが常識だった。ところが今回は方向性がかなり変わっており、招かれていたプレスの多くは女性誌やホームデザイン、インテリア、リフォームなど、これまで同社とは縁の浅かった媒体の人たち。
イベントも、それを強く意識してか、技術用語オンパレードの同社のイベントでは異例のスタイルで、せいぜい「ハイパースレッディング、またはHTと呼ばれるインテルの技術を使って……」あたりが技術的に最も難解な表現。クロック周波数も無線LANのスピードも、ましてや電力消費量や発熱量にも言及はなく、またそのことを問う人もいなかった。
「生活の中で、どのようなデジタル技術の活用が可能になるのかを紹介し、インテルのメッセージを伝えたい」
同社代表取締役共同社長 グレッグ・ピアーソン氏が述べるように、イベントで示されたデモは、“生活の中でPCを中心としたデジタル機器を活用すること”に焦点を当て、デジタル家電ではなく、PCならではの使い方・楽しみ方を提案するものだった。
行われたデモは、「リビングでブロードバンドコンテンツを楽しむ」「無線LANを使ってキッチンでレシピサイトを確認」「テレパソでTVを楽しむ」「携帯電話で撮影した画像をリビングのPCで楽しむ」「PCで録画した番組を携帯で楽しむ」といった内容。
ゲストとして登場したタレントの乾貴美子さんと、スポーツキャスターの中西哲生氏もリビングや書斎、寝室といったシーンごとでのPC活用に感嘆の声を上げていた。
「音楽のダウンロードは知っていましたけど、ビデオクリップもダウンロードできるなんて知らなかったです」(乾さん)
「これだったら毎日同じ献立ってことはないですね」(乾さん)
「現役時代にあれば……。でも料理はしないと思いますけどね(笑)」(中西氏)
「今まではワイヤレスで場所を選ばないということに注意がいってしましたけれど、いろいろなことができることを知ってビックリしました。女性向けのコンテンツやサービスも多いので、家庭内でも活用できますね」(乾さん)
PC業界にとっては一見風変わりな今回のイベントだが、そこからは、今後同社が目指すマーケティングの方向性を垣間見ることができる。
現在、PCは既にかなりの数が普及しており、仕事や生活でPCを必需品としている人ならば、ほぼ間違いなく1台以上を購入している。ある程度飽和し成熟した製品がさらなる拡大を望む場合、その戦略はどうなるのか。
“使い方を提案し、これまで購入してこなかった層への訴求をはかる”――これが回答のひとつであることは間違いない。
このイベントで紹介された使い方は、PCにある程度詳しい人ならば既に実践している人も多い。しかし、メール=携帯メールという人や、テレビ録画=ビデオデッキという人から見れば、「パソコンでこんなことまでできるんだ」という新鮮な驚きを与えるものになるかもしれない。
ピアーソン氏も、デモを終えたところで「PCのテクノロジーが暮らしの中に入り込めることを証明できたと思います」と述べており、そのあたりに同社が生活(デジタルホーム)の中でのPCの存在意義を、一般の媒体関係者、ひいてはユーザーに認めさせようと力を注ぎ始めていることが示されていた。また、「デジタル家電との競合はどうなのか」について問われた同社幹部も、「家電とPCとは協力するもの。競争関係にはない」と答え、デジタルホームの中でも、そのハブの役割を果たすのはあくまでもPCであることを強調した。
こうしたアプローチは、ある意味、自動車メーカーのそれをほうふつとさせる。自動車メーカーが車をプロモーションする場合、専門誌でもなければ馬力やエンジンスペックを宣伝したりはしない。伝えるのは、その乗り心地やその車に乗ることによって得られる“生活のシーン”、あるいはそれを所有することによる満足感である。その意味では、PCも(専門誌を除けば)スペックやテクノロジーをアピールするのではなく、PCによってもたらされる、新しい生活のシーンをアピールする時代がやってきたともいえそうだ。
最近ではPCメーカーもハードより使い方の提案(利用シーン)を強調するマーケティングが目立っているが、PCで最もコアなハード――プロセッサのメーカーであるインテルすら、ユーザーへの訴求にあたって“まずスペックありき”の考え方を見直している。そんな変化を、このイベントは象徴していた。
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