NHK放送技術研究所が、毎年恒例の一般公開(技研公開展示)を開始した。やはり力が入っていたのは、地上デジタル放送関連の展示だ。昨年は放送の開始間近ということで人だかりができていたが、今年は先日発表された「移動体受信技術」や、携帯電話向けのサービスが注目を集めている。
移動体受信技術は、カーナビなどの車載用チューナーで本来は固定端末向けのデジタルハイビジョン放送まで見られるというものだ。
しかし、デジタルといえば、もともと“全か無か”の世界。デジタル放送も電波の受信状況によって「しっかり見えるか、全く見えないか」のどちらかになるわけで、多少電波の状況が悪くても音声だけは聞こえるといったアナログの曖昧さがなくなり、車載テレビなどでは逆に使い勝手が悪くなりそうにも思える。
そんな認識が一変するのが今回の展示だ。NHKの移動体受信技術は、ダイバーシティアンテナの技術を応用したもの。自動車の屋根の4隅にアンテナを立て、各アンテナで受けた信号を車載チューナーで合成。受信電波のレベル変動を抑え、安定した受信信号を“作り出す”という。たとえ1本のアンテナで受信状況が悪くても、他のアンテナで受信した信号を元にカバーできるわけだ。
「デジタル放送を受信する場合、ダイバーシティでも50センチ程度の間隔が必要だが、自動車の屋根ならこの条件を満たしている。4隅にアンテナというのは多少不格好だろうが、本来はUHF帯のため、アンテナのサイズは今よりコンパクトになるだろう」(説明員)。
もう一つ気になるのは、地上デジタル放送ではVHFよりも直進性が高いUHF帯を使っているという点だ。ビルとビルの間など、障害物が多い場所で受信することはできるのか。
「日比谷の帝国ホテル近辺で実証実験を行ったところ、アナログなら画面が乱れる場所でも良好な画質を得ることができた。ビル陰でも反射波を利用して受信可能だ」。
東京タワーに近い場所で実験が行われたとはいえ、アナログ放送の出力は50キロワットのフルパワーで、デジタル放送はわずか300ワット(東京エリア、NHKの場合)。この出力差を考えれば、4本のアンテナを使った受信システムがいかに有効か、理解できるだろう。なお、自動車の移動速度も、時速80キロ程度までは対応できるという。
ただし、このシステムがすぐに市販されるわけではない。同社によると、現在のチューナーは「ビデオデッキ2台分ほどの大きさ」。車のダッシュボードに置くにはまだ大きすぎる。
一方、携帯電話やPDA型端末で受信できる1セグメント放送も人気だ。映像符号化方式がH.264に決定したこともあり、今回の展示ではNTTドコモの「OnQ」など複数の受信端末が出展されていた(詳細は別記事を参照)。
その中で目にとまったのが、「携帯受信と固定受信の連携」コーナーだ。
たとえば電車の中で1セグメント放送を視聴しているとき、お気に入りのバンドが演奏を始めたら……もちろん、そのまま視聴し続けるのも1つの手だが、できれば自宅に戻ってから大画面テレビでゆっくり見たい。そんな贅沢な要求にも、デジタル放送なら応えてくれるかもしれない。
仕組みは、番組のシーン情報などを記述したメタデータだ。携帯電話で録画したい番組を見つけたら、すかさず画面右下のボタンをクリック。するとインターネットを介して自宅のホームサーバが情報が伝わり、ホームサーバが録画を開始する。その際、ホームサーバが“スキップバックレコーダー”の機能(過去一定時間の映像と音声を常に記録する機能)を持っていれば、30分程度まで遡って番組を録画しておいてくれるという。
「通信は通常のパケット通信でいい。1セグメント放送のEPG画面から、自宅のホームサーバへ録画予約を行うといった便利な使い方もできるだろう」。
もちろん、こうした連携機能を使うためには、1セグメント放送のほか、メタデータを利用するサーバー型放送の開始を待たなければならない。サーバー型放送は、2006年に開始される見込みで、現在は「サーバー型放送運用規定作成プロジェクト」(通称:サーバーP)が運用規定の策定を進めている段階。また、ホームサーバ(レコーダー)の進歩も必須となるため、実現までにはもう少し時間が必要だ。
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