企業向けのネットワーク製品で埋め尽くされた「Networld+Interop 2004 Tokyo」の展示会場。その片隅で、楽器を演奏している人たちを見つけた。しかも、ブースの端と端に陣取り、お互いの姿は見えず、音も聞こえない場所にいる。にもかかわらず、しっかりセッションできているらしい。
話を聞いてみると、彼らはヤマハが開発した「iSession」のデモンストレーションをしているのだという。iSessionは、ネットワーク経由でお互いの楽器からMIDIデータを送り合い、離れた場所にいてもセッションが行えるという技術。また音声の伝送も可能で、遠隔地に住むバンド仲間の練習や、TV電話と組み合わせてピアノの遠隔レッスンなどに利用できる。今のところ、ヤマハの音楽教室などで実験的に取り入れるなど、検証と製品化に向けた検討を進めているという。
端末には国産リアルタイムOSとして知られる「μITRON」と、ITRONの標準プラットフォームとして昨年登場したT-Engineボードを使用。楽器と端末、そしてネットワークがあれば、パソコンを使う必要はない。ヤマハ、アドバンストシステム開発センターNSグループの宮城島聡主任によると、iSessionの技術を「楽器に内蔵する」、あるいは「ルータ製品に内蔵する」といった方法で製品化を目指すという。
このiSession、昨年末の「TRONショウ」などでも展示されていたが、その時は遠隔教育用途のデモだったため、実際に同時演奏(セッション)を見たのは初めてだった。セッションは遠隔教育よりもアルタイム性を求められるから、ネットワーク的には、よりシビアな条件といえるだろう。
ただし宮城島氏によると、現在のインターネット環境で遠隔セッションを行うのは「ちょっと厳しい」という。理由は、やはり遅延の問題だ。
「人の耳は、30〜50ミリ秒程度の遅延が発生すると“遅れているかな?”と気づく」。ただし、実際の音も実は結構(伝達が)遅く、たとえば広いステージの端と端で演奏していると、お互いの耳に届くまでに30ミリ秒程度はかかるという。このため30ミリ秒程度の遅延が許容範囲になりそうだが、インターネットでは事情が違ってくる。
「普及しているADSLなどを(iSessionに)使えればいいが、リアルタイムのセッションを行うのは難しい。MIDIデータは31.25Kbpsのため、帯域幅は全く支障ない。しかし、パケットの遅延や欠落が起こるインターネットでは遅延に関する保証ができない」(同氏)。このため、同社が実験やデモンストレーションを行うときは、NTT地域会社が提供している「BizLink」など、「ちょっと高級な回線」を使っているそうだ。
技術的には進歩を重ねているが、もともと“どこを通って目的の相手に到達するか”わからないインターネットは、遅延に関する保証ができないインフラだ。一方、ユーザーが拡大するにつれ、回線の品質を求めるアプリケーションが増えてきたというのも見逃せない事実。遅延の少ない環境を求めるiSessionはほんの一例で、たとえば継続的に帯域幅を占有するストリーミングビデオコンテンツや、ネットワークのレスポンスが課題になったオンラインRPG(関連記事を参照)なども挙げられるだろう。
アプリケーションによって求める品質の種類はさまざまで、このため各通信事業者も前述の「BizLink」のように、自社のネットワークのなかで高付加価値サービスを提供しようとしている。BizLinkはビジネス向けのサービスだが、今後はコンシューマー向けの低価格ブロードバンド回線にも、ある程度のQoSが求められる時代になっていくのだろう。
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