このところ、東京でも最高気温が25度を超える“夏日”が多くなった。自動車に乗る人なら、これからの季節の車内がどれぐらい異常な暑さになるか、身をもって知っていることだろう。そしてこの温度変化はエレクトロニクス機器、特に液晶ディスプレイにとって死活問題となる。
東京ビッグサイトで開催しているフラットパネル製造技術展の中の特設コーナー「最新FPD完成品・モジュール・特別展示フェア」で、“車載用”をアピールする次世代ディスプレイが注目されている。
東芝松下ディスプレイテクノロジーが出展しているのが、カーナビやカーテレビ向けの車載用7インチWVGA(800×480ピクセル)TFT液晶ディスプレイ。解像度やサイズを見るだけでは一見なんてことはないディスプレイだが、注目はTFT液晶方式に「低温ポリシリコン」を採用している点だ。
「これまで車載用の液晶ディスプレイはアモルファスシリコンを使っていた。車載用の低温ポリシリコンTFT液晶ディスプレイは業界初の試み」(同社)
液晶駆動用LSIをガラス面に一体成型できる低温ポリシリコンは、基板の配線などが少なくなるため耐衝撃性や耐久性に優れ、モバイル機器に最適なディスプレイとして携帯電話やノートPCなどに数多く採用されている。このような低温ポリシリコンの特性は、本来は車載向けとして最適なはずだ。
「真夏では室温が60度以上にも達する自動車では、車載用機器に求められる温度範囲は非常に厳しい。自動車メーカーが求める動作温度の最低基準が-20〜80度。実環境では車載機器の表面温度が100度を超えるケースもある。これまでの低温ポリシリコンでは、この温度範囲をクリアできなかった」(同社)
ただし最近は自動車の中でテレビやDVD視聴を楽しむケースが増えており、車載ディスプレイにも高品質な映像が求められている。さらにHDD搭載などカーナビの進化で、より高精細で薄型・軽量なディスプレイのニーズが高まっている。「車内のIT化が進むにつれ、“自動車にも低温ポリシリコンを”という声は大きくなっていた」(同社)
今回参考出展した車載用低温ポリシリコン液晶は動作温度範囲を-30〜85度とし、自動車メーカーが要求する最低基準をクリアしている。
「実証実験では-40度から120度まで動作確認を行っている。自動車は開発サイクルが長いため、低温ポリシリコンディスプレイが搭載され始めるのは2〜3年後になるかもしれないが、アフターパーツ市場では近いうちに登場するかもしれない」(同社)
双葉電子工業は、次世代ディスプレイとして注目されている「FED(フィールドエミッションディスプレイ)」を参考出展していた。
フラットパネルディスプレイとCRTの“いいトコ取り”をしたFEDは、CRT並みの応答性/色再現性を厚さ10ミリ程度の薄型テレビで可能にする期待の技術。CRTと発光原理が同じなため、自発光ならではの高視野角/高コントラストと自然で鮮明な奥行き感のある映像が特徴だ。
「FEDはモバイル向けの小さな画面サイズからテレビ用途の大画面まで柔軟に対応でき、バックライトが不要なため軽量で薄型のディスプレイを作れるのがメリット」(同社)
同社は2002年10月のCEATECで8インチのFEDを初出展。昨年10月のCEATECで出展したFED(2003年10月の記事参照)はサイズが11.3インチとなってVGAタイプ(640×480ピクセル)表示が可能になり、解像度の面からもテレビ画質にようやく到達した。
今回の展示会では、昨年お披露目した11.3インチのほかに8インチワイド(QVGA)/5.9インチ(QVGA)/4.3インチ(2DINサイズ)/4インチ(1DINサイズ)と4種類の車載用FEDを用意。「いずれも一般ユーザー向けには今回が初めての展示となる」(同社)
「温度に敏感な液晶とは違って、FEDは真空素子なので信頼性が高く、高温になる自動車内の過酷な条件でも問題なく動作する。特にアピールしたいのが映像の美しさで、カラーフィルターなどを使う液晶に比べて自然な絵が表現できる。今までのCRTと同じ色調」(同社)
実用に向けての技術的な面はほぼクリアしているというFED。だが、液晶やCRTの既存ラインでは生産できないため、製造設備を新たに開発しなければならないのがネックで、その分コスト高になってしまう点が課題だという。
「ただし、液晶に比べると製造工程数が少ないため、量産化にこぎつければ製造コスト的には液晶よりも安くなるはず。大型化も設備次第で可能だが、FEDを使った大きなテレビはキヤノンが開発を進めているSED(Surface-conduction Electron-emitter Display)にまかせるとして、われわれは車載用を中心に考えていく。量産化の時期は未定だが、これだけの種類のサイズを短期間に作れるようになったことをご覧になれば想像できるかと思う」(同社)
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