7月9日、アップルコンピュータは、来年上半期に発売予定の次期OS「Mac OS X 10.4 “Tiger”」のプレス向けプレビューを開催した。
最初にお断りしておくと、今回の発表はあくまで「プレビュー」の段階である。細かいところは不明なところも多い*1。
デモは、Mac OS X担当プロダクトマネージャーの櫻場浩氏によって行われた。見せたいところがたくさんあるために駈け足になっていたのだけど、ここでもそれを追いかけてみよう。
まず、「Mac OS X のアクティブユーザーは現在1200万人」、「Mac OS Xは、もっともインストール数の多いUNIXである」というお得意のイントロダクションからスタート。次に“Tiger”は64bit化されたOSであることを強調。アドレッシングが64bitであるということは、16exebyteのメモリ空間にダイレクトにアクセスできるということだ。科学技術計算やレンダリングなどの大容量データを扱う分野での生産性アップが期待される。
今回最も時間をかけて説明されたのがこれ。簡単に言ってしまえば「メタデータを使った検索技術」である。メタデータというのは、Photoshopのファイル情報とかExcelデータのプロパティとか、あるいはMP3データのタグのように、もともとのデータとは別に添付されている小さな情報のことだ。Tigerは、OSの中にこれを使った検索機能を組み込んでしまったのだ。ローカルなディスクの全てのファイルの中から条件にあったメタデータをもったファイルを高速に探し出す。
従来のファイル名による検索、テキストやPDFなどの内容(コンテキスト)による検索のしくみも残されており、これらとSpotlightとは同じユーザーインタフェースから呼び出せる。
たとえば、Finderの検索ウインドウに「iMac」と入力すると、「ファイル名にiMacを含むもの」「(テキストの)内容にiMacを含むもの」、そして「メタデータにiMacを含むもの」が一度に探し出されるのだ。もちろん、条件を絞りこんで行くことで、この内のひとつのタイプのものだけを選ぶこともできる。また、メニューバーの右端(画面の右上隅)にむしめがねアイコンもあり、ここから検索することも可能だ。
これらの検索技術の応用例が、新しい「スマートフォルダ」だ。あらかじめ条件を設定しておくと、その条件にあったファイルが自動的にその中に納められるというもの*2。「最近1週間以内に作ったiMac関係の書類」なんていう風に、時刻によって変わるような条件をつけても大丈夫。iTunes4のユーザーなら「スマートプレイリスト」を知っているだろうけど、あれをOS全体に広げてしまったというようなものだ。
同じようなものに「メール」アプリケーションで条件にあったメールを自動的に拾い出す「スマートメールボックス」、「アドレスブック」での「スマートアドレスブック」なんていうのもある(「一カ月以内に誕生日の来る人」がアドレスブックに入っているわけだ)。
データファイルがメタデータをどのような形で持つかは、そのデータのファイルフォーマットに依存する。Tigerは、代表的なファイルフォーマットについては、そのメタデータを取り出す方法を既に知っている。しかし、それ以外のもの、あるいは今後出てくるものについては、その方法を知らない。しかし、そのAPIは公開されるので、アプリケーションベンダーはそれを使えば自分のファイルフォーマットのメタデータをSpotlightに教えることができるようになる。
デスクトップに小さなアプリケーション(Widget)を簡単に呼び出すしくみ。
Mac OS 10.3 “Panther”には「Expose」(eにはアクサンテギュ)といって、キーをひとつ(デフォルトでは「F9」)を押すと、デスクトップにあるウインドウをすべて小さく重ならないように平べったく並べることができるという仕組みがある。Dashboardはこの技術をさらに発展させたものだ。
やはりホットキーを押すと、今のデスクトップは暗く沈んで、その上にWidgetが表示されるのだ。Widgetは電卓とかカレンダーといったものから、インターネットから株価情報を拾って表示するなんてものまである。Widgetでちょっと作業をした後は、またホットキーを押せば、もとのデスクトップ画面に戻る。
このWidgetはHTML+JavaScriptで書かれている(櫻場氏はXMLではなくHTMLと言った)ので、新しいものを作るのも(プログラマーには)簡単だ。
OS標準のWWWブラウザ「Safari」はRSSに対応した。ニュースサイトやウェブログなどの中にはRSS*3という技術を使って記事の見出しや要約を「ニュースフィード」という形で提供しているところがある。「Safari RSS」は、訪れたサイトがRSS対応だったとき、その旨をアイコンで表示する。ここで、ユーザーがクリックすれば、Safari RSSはそのサイトのニュースフィードをチェックするようになるのだ。
これで準備完了。あとは、Safari RSSの検索フィールドにキーワードを入力すれば、それに該当するニュースを登録したサイトの中から自動的に表示してくれる。表示は見出しと記事(表示する記事の量はスライダーで変えられる)だけの簡素なものだ。
グラフィックプロセッサ(GPU)の機能を使うためのフレームワーク。Mac OS 10.3 “Panther”には「Quartz Extreme」と呼ばれるレンダリングエンジンを搭載していたのだけど、それをさらに推し進めたものだ。アプリケーションは「Core Image」を使うことで、GPUの機能を簡単に活用することができる。
Core Imageに含まれる“Core Video”は、QuickTimeとGPUとの橋渡しを行い、動画にもGPUの機能を使うことができる。
また、Core Imageは、フィルタやエフェクトを「Image Unit」というプラグインの形で供給するようになっている。Tigerは出荷時に多数の(いま数えたら62)のプラグインを持っているが、新しいものも付け加えられる。そして、そのフィルタやエフェクトは、Core Image対応アプリケーションからはみな同じように呼び出すことができるのだ。
チャットシステムのiChatもバージョンアップ。音声では10人同時、映像では4人同時のチャットができるようになった。10人も一度にしゃべると、どれが誰やら分からなくなりがちなのだけど、iChat AVは発言者リストにレベルメータがついているので、それを見れば誰がしゃべったのか、すぐわかる(らしい)。
映像4人チャットはこのような画面。ここで使われているのはH.264コーデックだ。従来のH.263にくらべると、同一のバンド幅で明らかに画質がよくなった。H.264はQuickTimeに標準で搭載され、「非独占、オープン」に使えるようになっている(H.263とH.264の画質の差は、アップルサイトにわかりやすい画像がある)。
簡単なバッチ処理から、ユーザーインタフェースも含むようなものまで、定型処理を「プログラムレス」に作ることができるものだ。
「アクション」をドラッグ&ドロップして、その設定を行う。その結果を受けて(受けなくてもいい)次の「アクション」をドラッグ&ドロップする。ということを繰り返していくことで、定型処理ができるようになるのだ。
いままでは「AppleScript」がこの役をになっていたのだけれど、あれは曲がりなりにも「プログラム」(エディタでテキストを入力するのだ)しなければいけなかった。TigerでもAppleScriptは活躍するが、それよりももっと簡単なものとして「Automator」が登場したというわけ。
Mac OS X 10.4 “Tiger”は、2005年上半期の発売を予定。価格などはまだ未定。
*1WWDC(開発者会議)に出席した人たちはプレビュー版をもっているのだけど、彼らは守秘義務に縛られている。
*2ファイルそのものが移動してしまうと、それはそれでこまるから、おそらくはエイリアス(シンボリックシンク)のスタイルで格納されることになるのだろう。
*3RSSが何の略であるかは、どうもはっきりしない。「RDF Site Summary」「Really Simple Syndication」「Rich Site Summary」など諸説あるのだ。櫻場氏は2番目を支持していた。
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