PCは、ソフトウェアさえあれば、何でもできる魔法の箱だ。しかし1台でなんでもできるように頑張っていくと、なんでもできるようだが踏み込んだことはなんにもできないという、珍妙なものができあがってしまう。
初めて買うPCは、あれもこれもと考えて多機能なものを選びがちだ。だが目的がはっきりしているのならば、それ以外の機能は不要だと感じるようになる。先週のコラムでは、出張時の原稿書きにA4のノートPCを買おうか迷っている話を書いたが、いまどきワープロじゃあるまいし、原稿書き専用のノートPCという市場は存在しない。
なにもかもそぎ落としてしまうと、メーカーのダイレクト販売サイトで売っているような、ビジネス向けBTOモデルの一番安いヤツみたいになってしまう。だがそれは単にすべてが標準以下になるだけで、そういうものともまた微妙に方向性が違う。
PCで何ができるのか、どこが限度なのか、人々はその範囲に気づき始めている。自分が何をするのか分からないから、とりあえず「全部入りのオールインワン」を買うという時代は終わり、これからはニッチなニーズを満たすためのカスタマイズ、さらにその先には専用機化の道があるのではないかと思っている。今回はその専用機化の道を極端に歩んでいる、あるメーカーのチャレンジをレポートしてみたい。
エディロールは、電子楽器メーカー「ローランド」の映像・DTMのブランドだ。そもそも楽器はある意味専用機だが、DTVやDTMとなると、汎用PCにボードを入れて云々というのが一般的である。だがエディロールでは、得意の専用機制作とPC技術のノウハウを生かして、ビデオ編集専用のマシンを作っている。
「DV-7DL PRO」は、8月5日に発売になったばかりの、最新モデルだ。とはいってもエディロールのこのシリーズは、既に5年前から綿々と続いている、長寿ラインナップである。
普通、ビデオ編集システムは、はたから見ればすべて専用機に見える。Avidやカノープスなどからは、拡張ボードとソフトウェアを組み込んだターンキーシステムが販売されているが、ベースはWindowsやMacといったマシンであり、別のソフトウェアをインストールすれば、それなりの汎用性は持つ。
過去にはAmigaに拡張インターフェースを入れて編集機に仕上げたAmilinkというものもあったが、これもソフトを起動しなければ普通のAmigaだ。まあ普通のAmigaってのがあるのかと言われれば、ソコは反論できないのだが。
だがエディロールのDV-7DLが決定的に違うのは、PCライクなルックスはしているが、汎用性がまったくないところだ。OSはBeOSを採用しており、ソフトウェアは専用の編集ソフトだけしかない。電源を入れれば10秒とかからずに編集ソフトが起動し、マシンの終了も編集ソフトウェアが終了すれば終わり。OS画面に降りるという瞬間が、まったくないのである。というか、OS画面のGUIすらない。
BeOSの開発元であったBe社は既になく、その資産は2001年にPalm社に売却されたが、その後PalmもPalmSourceとpalmOneに分裂するなどの紆余曲折を経て、結局BeOSの開発状況などもよくわからなくなっている。いくつかのユーザーグループから情報を拾ってみると、現在はBeOSそのものと、その後継のZetaに分かれてそれぞれ存続しているようだ。
BeOSを採用した経緯を、Roland EDのVIDEO開発担当 取締役の室井 誠氏はこう語る。
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