「2004年 グッドデザイン賞」のグランプリにあたる“グッドデザイン大賞”が決まった。「グッドデザイン大賞」は、すべての受賞対象の中から、最も優れているデザインに贈られる最高賞。そして2004年度の大賞は、決選投票にもつれ込んだ後、長いグッドデザイン賞の歴史でも初めて“形のないもの”が受賞した。
グッドデザイン賞は、1957年に通商産業省が創立した「グッドデザイン商品選定制度」(通称:Gマーク制度)により生まれた国内唯一の総合的なデザイン評価・推奨制度だ。今年は約2400社がノミネートし、既に「グッドデザイン大賞」を除く、すべての受賞者が決定している。
10月26日に都内のホテルで催された「グッドデザイン賞表彰式/大賞選出」には、各賞の受賞者と審査員、報道関係者が詰めかけた。
大賞の選出方法は投票。まず6つの大賞候補(ノミネート作品)についてそれぞれの担当者がプレゼンテーションを行い、その後、グッドデザイン賞を受賞したデザイナー(1263件)や審査委員(68名)、審議委員(13名)による投票を実施する。
審査委員長を務めるデザイナーの喜多俊之氏によると、評価の基準は「デザインが優れているだけでなく、今日のデザインや将来に向けての展望を、広く社会へ向けて語る“シンボル”としての役割をも担うもの」という。大賞には、下記の6製品がノミネートされた。
製品名 | 概要 | メーカー |
---|---|---|
Premini(ムーバSO213i) | 携帯電話 | ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ |
SV-MP500V/510V | デジタルオーディオプレーヤー | 松下電器産業 |
クラウンロイヤル/クラウンアスリート | 乗用車 | トヨタ自動車 |
OLYMPUS IPLEX MX | 工業用ビデオスコープシステム | オリンパス |
「ドレミノテレビ」「にほんごであそぼ」 | こども向けテレビ番組 | 日本放送協会 |
ミューチップ | 非接触ICチップ | 日立製作所 |
「Premini」は、コンパクトなアルミボディが印象的なNTTドコモの携帯電話だ(製造はソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ)。デザインを担当したソニーデジタルデザインの鈴木茂章氏と佐野哲郎氏は、「携帯電話は、多機能化の影で、ハード面の煩雑さが指摘されている。『Premini』では、所有することの喜びなど情感に訴える部分に着目し、こだわることで、従来の携帯電話市場にはなかった新しい価値観を開拓した」とアピール。本体、パッケージ、取り扱い説明書、インタフェースに至るまで「統一の世界観で展開し、フォントも専用のものを使用している」と説明した。
松下電器産業の「SV-MP500V/510V」は、独立した操作部と表示部(液晶ディスプレイ)が特徴のシリコンオーディオプレーヤー。MP3とWMAの再生にくわえ、FMチューナーやICレコーダー機能などを搭載した多機能機だ。パナソニックデザイン社の矢木良一氏は、「小型化による携帯性の向上も重量だが、ディスプレイやボタンが小さくなると操作性が落ちる。そこで、これら2つのインタフェース部分を最大限のサイズにレイアウト。2つのブロックが結合したフォルムとすることで、小型化と操作性を向上させた」と説明した。なお、同機は海外市場向けのため、国内では未発表となっている。
トヨタ自動車の「クラウン」といえば、言わずと知れた「日本初の乗用車」だ。12代目となる新型は、“ZERO CROWN”という愛称の通り、原点に立ち戻ってゼロからデザインを行った。同社の林明和主任当員によると、モチーフは“書”(毛筆)。勢いのある“一”の文字が、側面から見たクラウンのイメージになっているという。「毛筆の輪郭や濃淡、かすれなどを造形に織り込んだ。50年の歴史を持つクラウンを“静”から“躍動”に変革するものだ」。
これまでの3作品とは毛色が違う、工業用ビデオスコープシステムは、オリンパスイメージングの「IPLEX MX」だ。ビルの配管や飛行機のジェットエンジンなど、分解点検の行えない場所を検査するための内視鏡だが、従来の製品とは明らかに異なり、小型の本体とジョイスティックを採用した操作部が最大の特徴となっている。「より軽く、扱いやすい内視鏡を目指した技術者とデザイナーの共作だ」(オリンパスイメージングデザイン本部の林喜太氏)という。「狙ったのは、疲れないこと、そして壊れないこと。本体はゴム製のプロテクターで多い、操作部は落としたりぶつけたりしても、ジョイスティックが守られる構造になっている」。
さらに異色なノミネート作品が、NHK教育テレビの子ども向け番組「ドレミノテレビ」と「にほんごであそぼ」の2つ。とくにドレミノテレビは、「子ども達にこそ本物の音楽を」(NHKの坂上浩子チーフプロデューサー)という方針のもと、童話などを歌う“歌のお姉さん”にアーティストのUA(ううあ)を登用して話題になった。「子どもの見る目は厳しい。面白くなければ見てくれないし、幼児っぽいものは嫌い。本物が大好き」(坂上氏)。
最後は、既にお馴染みの「ミューチップ」。日立製作所が開発した世界最小クラスの非接触ICチップと、その応用ソリューションがノミネートされた。わずか0.4ミリ角のICチップには、128ビットの固有IDが記録されており、商品の包装などに埋め込むことで、サプライチェーンや食品トレーサビリティを可能にする。日立製作所デザイン本部の星野剛史氏は、「非接触ICチップを紙幣の偽造防止に応用するために開発した。0.5ミリ角以下なら紙幣を折り曲げても壊れない」と説明している。
各社のプレゼンテーションが終わると、投票が始まる。上位2作品に100票以上の差がつかなかったときは、再度決選投票が行われる仕組みだ。
公開投票の結果、松下のデジタルオーディオプレーヤーとNHK教育テレビの子ども向け番組がわずか31票差で決選投票へ。そして最終的に、NHKの「ドレミノテレビ」と「にほんごであそぼ」が大賞に輝いた。「形のないものがデザイン大賞を受賞したのは初めて。(選考の)枠が1つ外れ、広がったともいえる」(喜多委員長)。
賞状とトロフィーを受け取ったNHKの坂上浩子チーフプロデューサーと松本勇一チーフプロデューサーは、「他社のプレゼンテーションを聞いて、作るものは違っても、制作の方法は同じだと感じた」「今後、より多くの方に番組を見てもらえるのではないかと考えると、身が引き締まる思いがする」と喜びを語った。
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