小寺:現実的なものにはなっていませんが、各家庭にビデオサーバが存在する、ということはあり得えます。それにともなって、リアルタイム視聴というものはどんどんなくなっていくと思います。
ただ、放送局側のビジネスモデルは、「ゴールデンタイムに一番視聴率を取れるものを据える」という形がいまだに続いています。
巨人戦の視聴率が下がっていると言われますが、スポーツとは基本的にリアルタイム視聴ありきなんです。ところが、そのモデルが壊れつつある。それは巨人が悪いということではなく、リアルタイム視聴を中心に据えたモデルが崩壊しているからなんです。この現象はすでにVHSの登場から始まっていることで、HDDレコーダーがこれだけヒットしているにもかかわらず、TV業界自体が、未来のビジョンを全然考えていない。
津田:パナソニックが発売したVHS/DVD/HDDレコーダーが想像以上のヒットになったという話は、とても興味深い話だと思うんです。VHSビデオデッキを使っている人も、きっとDVDやHDDに移行したいんですよ。タイムシフト視聴を体験してしまった人は、その利便性に気が付いてしまった。
小寺:「プライベートオンデマンド」とでも言えるような生活スタイルが成立しつつあることを、放送業界も認知していかないと。今はただ放送を垂れ流すだけですから。
言ってみれば放送っていうのは字のとおり、“送りっ放し”という非常に原始的なモデルなんです。スーパーの業務放送みたいなもんで、関係ある人にもない人にも区別なく上からドバッと情報を送りつける。完全にPush型ですね。でも、それは昭和時代のモデルなんですよ。
――放送分野で、何かドラスティックに変わりそうな事柄はありますか?
小寺:とりあえずはないですね。
というのは、放送というのは、もはや民放連(日本民間放送連盟)の意向では動けないというところがありますから。収支モデルが広告に全面的に頼っているので、大手広告代理店の主導からもなかなか離れられない。そうなると視聴率という、あいまいなものに頼って番組編成を行わざるを得ないんです。
例えば、携帯端末で放送を見るためのワンセグ放送というのがありますよね。あれに全然キックがかからないのはなぜかというと、結局、広告モデルが確立できていないからなんです。携帯端末で自由に視聴されてしまうと視聴率が分かりませんから、どれくらい見られているか分からない設備に資本を投下してどうする、という話になってしまうからです。
津田:コピーワンス放送に対して、ユーザーの心理的な抵抗感はまだあると思うんですけれど、広告主導モデルしかない以上、お金を出すクライアントさえいれば、極端な話、視聴者はどうでもいいと言えなくもないんですよね。
小寺:「うちの番組は全部見ろ、他局の番組は見るな」というのが放送業界の基本的なスタンスで、コピーワンスにしても、CMまで全部見ろ、という側面もあるでしょうね。デジタル化についても、「国の方針」だからという意識があると思います。
放送局がつぶれたという話はほとんど聞かないと思うんですけれど、それだけ、いろんな責任を外に投げている業界でもあるんです。制作に関しては制作プロダクションに、広告については広告代理店に投げてしまっています。認可商売で、電波を出しているだけならばつぶれようがない。
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